ベスト16入りは逃すも「成長」を示すバスケ日本代表 相手に走り勝つスタイルで、パリ五輪出場の手応え

大島和人

特定の個人に依存しないオフェンス

ホーバスHCのスタイルは間違いなく浸透している 【(C)FIBA】

 得点源が試合ごとに変わっていることも、明るい材料だ。フィンランド戦は河村勇輝、富永啓生の「22歳コンビ」と比江島慎がオフェンスでチームを引っ張った。河村、比江島を先発に起用したオーストラリア戦はこの二人が不発だった。しかし渡邊が24点、富樫は14点でドイツ戦から一気にステップアップした。

 ホーバスHCは述べる。

「フィンランド戦は富樫と原(修太)がスターティングメンバーで、DFとかは良かったけど、得点があまりなかった。フィンランド戦は河村とマコ(比江島慎)がすごく大きかった。あの2人がスターティングメンバーになったら、得点が伸びるかなと思ったんですけど、伸びなかったです。理由はもう多分、オーストラリアのDF。こういう大会はそういうアジャストメントが必要なんですよ」

 シンプルにオーストラリアが河村、富永、比江島に厳しく対応していた背景はある。またジョシュ・ホーキンソンに限れば3試合連続で「モンスター級」のスタッツを残していて、変えの効かない存在かもしれない。とはいえ4年前に比べると、特定の個人に依存しないオフェンスが実現している。

「芯」のあるチーム

 悪い流れを立て直せて、直近の試合で不発だった選手が次の試合に蘇るーー。それこそがホーバスジャパンの真価だ。それはチームに「芯」があり、ブレない戦いができているからだ。

 馬場はこう証言する。

「(ホーバスHCは)日本のバスケはこう、自分たちのバスケをどうするかという話をずっとしてきている。(4年前と)比較はしたくないんですけど、芯は今の方が通っている」

 富樫はこう振り返る。

「オーストラリアは今大会でも優勝候補の一つだと思っています。そのチームに前半から切り替えて、後半に勝てたことはまずチームとしてすごく大きい。相手が最後の残り1、2分まで(主力を)下げることなく戦ってくれた中で、この点数だった。そこは自信につなげていいと思います」

 馬場も同じく手応えを口にする。

「今までの僕たちだと、オールスターみたいなメンバーのオーストラリアに対して、ここまで戦い抜くことすらできなかったと思います」

敵将も驚く日本の成長

馬場雄大は「希望しかない」と前向きだった 【(C)FIBA】

 日本代表が世界大会でヨーロッパ勢から勝利を挙げたのは27日のフィンランド戦が史上初だった。W杯(旧世界選手権)は1998年から2019年まで21年間に渡って自力出場を果たせず、FIBA男子アジアカップ(旧アジア選手権)も2015年まで18年間に渡ってベスト4から遠ざかっていた。言うまでもなく、明らかに日本バスケは前進している。

 オーストラリアのブライアン・ゴージャンHCは70歳のベテランで、小浜元孝HCの下で日本代表のアシスタントコーチを務めていた経歴を持っている。日本バスケの現状、進化について尋ねられた彼はまず「オーマイガー!(びっくりしている)」と口にして、こう続けていた。

「私たちが(東京)オリンピックに出場したとき、私のお気に入りは日本の女子でしたし、私が最高のコーチと感じたのはトム(・ホーバス)でした。そして、彼は男子で同じことをしています。彼らは情熱を持ってプレーしているし、国内リーグも日本全体のレベルアップに伴って以前とは比較にならない質になりました。日本代表を取り巻く強化システム、リーグといった全てをリスペクトしていますし、もちろんコーチに対しても同様です」

 五輪の自力出場は1976年のモントリオール大会までさかのぼる。しかし選手たちは今、そこへぎりぎり届く場所にいる。馬場は17-32位決定戦に向けて強く意気込んでいた。

「今日負けはしたんですけど、40分間戦い切れて、チームの勢いも全然消えていません。得失点差があるからこそ、最後の最後まで戦い抜いたところもある。僕たちの目標はもう一つです。パリ五輪の切符をつかむまで、1試合1試合死ぬ気で戦います。チームも4年前は壁に直面してダラっと順位決定戦に行ってしまったイメージですけど、今回はやれた部分、やれなかった部分が明確です。そこを詰めれば絶対あと2試合も勝てると思います、3勝で終えることを目指します。(アジアの中では)僕たちが今1位ですから、希望しかないです」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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