ベスト16入りは逃すも「成長」を示すバスケ日本代表 相手に走り勝つスタイルで、パリ五輪出場の手応え

大島和人

選手たちは課題と向き合いつつ、手応えを口にしていた 【(C)FIBA】

 アスリートが感じる悔しさには二つの種類がある。一つは「どうにもならなかった」という放心状態に近い悔しさで、もう一つは「もっと上手くやれた」という建設的な悔しさだ。8月29日の沖縄アリーナでバスケットボール日本代表の選手たちが口にしていたモノは、間違いなく後者だった。

 FIBAバスケットボール・ワールドカップ(W杯)で、日本はベスト16入りを逃した。ドイツ戦(● 63-81)、フィンランド戦(◯ 98-88)オーストラリア戦(● 89-109)の合計成績は1勝2敗で、グループEの3位にとどまった。ただサッカーのW杯と違い、日本代表の戦いはまだ続く。しかも目標達成の可能性が十分に残されている。

 日本の目標は「アジア勢最高成績によるパリオリンピック出場権獲得」だ。17-32位決定戦でグループFの下位2チームと対戦し、グループEの3試合と合算した通算成績で、最終順位は決まる。アジア勢6カ国のうち3チームはまだ各組の最終戦を残していて、中国にわずかながらベスト16の可能性が残っている。しかし日本はここまで予選リーグで勝利を挙げたアジア唯一のチームだ。

後半は強豪をリード

 試合を終えたトム・ホーバスヘッドコーチ(HC)はこのように語っていた。

「今日の後半は54点でした。オフェンスはみんなアグレッシブにやっているし、(守備やルーズボールへのチャレンジ、ボックスアウトといった)仕事もやっているから、自信がある。相手も自信があったし、強い。でもとりあえずステップ・バイ・ステップで少しずつ、ウチの目標は近くなっている。目標は消えてないし、変わってない。今日は悔しいし、痛い。だけど、終わってないです。長い間このチームと一緒にプレーやりたいです」

 29日のオーストラリア戦は、25日のドイツ戦と似た展開だった。前半に22点のリードを奪われたものの、ハーフタイムに立て直して後半に限れば勝っている。後半は「54-52」で相手を上回っていた。

 日本代表唯一の現役NBAプレイヤー・渡邊雄太(フェニックス・サンズ)はこう振り返っていた。

「本当に勝ちに来ているメンバーに対してあれだけやれたのは、もう間違いなく自信につながった。例えば後半、自分たちのペースに対して相手はスゴく疲れていて、それは今までやってきたことの成果です。自分たちのバスケットがこういう相手にも通用することは、最後の20分間で皆さんに証明できたと思う」

何が足りなかったのか?

渡邊雄太は36分53秒の出場で24点を記録した 【(C)FIBA】

 オーストラリアは現役NBA選手が「12分の9」というスター軍団で、東京オリンピックの銅メダルチームでもある。個々の力量、チームの地力には明確な差がある。しかし渡邊は手を尽くせば差が埋まる実感を得ていた。

「お互いに体力がある時間帯は、力の差が多少なりとも出てしまいます。ただ、もし(前半を)10点差くらいで終われていたら、後半は自分たちが体力の部分で勝って先手を取っていけたと思います。第4クォーターが始まるときに点差が一桁だったら、相手は精神的に余裕がなくなる。もちろん前半をリードして終える展開は理想ですけど、10点以内で終わることができたら、オーストラリアにもドイツにも、十分勝てるチャンスはあった」

 キャプテンの富樫勇樹も前半の試合運びを悔いていた。

「1人ひとりが孤立した状態からシュートを打ってしまって、相手のトランジション(切り替えからの速攻)につながってしまった。相手のスイッチ(受け渡し)に対する打開策がなくて、打たされるシュートが続いてしまった。前半のような足が止まっているオフェンスは、なかなか機能しない」

 2020-21シーズンにオーストラリアリーグ(NBL)でプレーした経験を持つ馬場雄大はこう口にしていた。

「前半はディフェンス(DF)でうまく流れを作れなかった。もう少しプレッシャーをかけられれば自分たちのバスケットボールを展開できるけれど、冷静に対応されたことで、逆に僕たちが甘さを見せてしまった。そこは3試合目にして初めての経験で、さすがオーストラリアだなと思いました」

 馬場はこんな差も感じていた。

「課題は本当に細かいところだと思います。サプライズ(奇襲)を仕掛けるだけでは、このレベルでは通じないと改めて感じました。サプライズをする中でも本当に細かいポジショニング、ボックスアウト(リバウンドで相手に身体を寄せてボールに行かせないプレー)はまだまだ自分たちの課題です」

ハイペースで相手の疲れを誘う試合運び

 ただし3人のコメントは「もっとやれた」という文脈だ。特に渡邊と馬場は4年前のW杯を経験しているが、当時とは表情もコメントのニュアンスも違った。

 日本は2019年に中国で開催されたW杯に出場し、予選リーグと17-32位決定戦を合計0勝5敗で終えた。

 フリオ・ラマスHC率いる当時の日本代表はテンポ、ペースを抑えたスタイルだった。ホーバスHCの現日本代表は攻撃時の24秒を不必要に使わず「走り合い」を挑む対照的なスタイルだ。相手のシュートが決まったとき、ラインを割ったときのリスタートも速く、相手に一息つく間を与えない。率直に言って「ボコボコにされる」リスクもあるが、今回はドイツやオーストラリアに対して一定の成果を出している。

 日本は3試合とも後半のスコアで相手を上回った。オーストラリア戦ならゾーンDFの多様といった戦術的な要素もあるが、シンプルに打ち合い、走り合いで相手を消耗させていた部分が大きい。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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