姫野和樹『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』

名将の共通点は「人をよく見ている」こと 姫野和樹が受けた意外な“ダメ出し”とは?

姫野和樹

【写真:アフロスポーツ】

 「意識する」「受け入れる」「行動する」「率いる」「フォーカスする」「整える」――。
 ラグビー日本代表〝最強の男〟が初めて明かした〝最高の準備〟のためのシンプルな思考習慣。

 選手として、チームのキャプテンとして、これまでのラグビー人生の中で学んできた、考え方や意識作り、自分との向き合い方、「弱さ」の受け入れ方、目標設定術といった姫野流セルフコーチング・メソッドからリーダー論、組織マネジメント論までを余すところなく書き下ろし。ラグビーファンの間ではお馴染みの、姫野さんが7年間にわたって書き溜めているラグビーノート"姫野ノート"の一部も初公開&収録しています。

 ラガーマンやアスリートはもちろん、学生や新社会人、ビジネスマンまで、誰もが実践&応用できる「考える力の作り方」が満載の一冊。姫野和樹著『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』から、一部抜粋して公開します。

名将に学ぶ「個別アプローチ」

 帝京大学の岩出先生、トヨタの元ヘッドコーチだったジェイクや日本代表ヘッドコーチのジェイミー……僕が選手としても人間としても幸運だと思うのは、〝名将〟と呼ばれている人たちのコミュニケーションの取り方、伝え方を一番近くで学べたことだ。
 そこで見たこと聞いたこと感じたことが、今、チームでリーダーという立場にいる僕の大きなバックボーンになっているからだ。

 名将と呼ばれる人たちは、やはり例外なく、人をよく見ている。
 そして選手1人1人を、よく理解している。
 それぞれに合うように細かくアプローチの仕方を変えている。

 例えばジェイクは僕に対して、めちゃくちゃにプレッシャーをかけてきた。もちろんわざと、だ。
 ここまで何度も書いてきたが、僕は元々が自分勝手で感情のおもむくままに行動する性格。だから上手くいっている時ほど、ふわふわと浮かれてしまい調子に乗る。そういう時の僕には〝隙〟ができるということを、ジェイクは観察して知っていた。

ジェイク・ホワイト氏は2017年から3シーズン、トヨタ・ヴェルブリッツの指揮を執った 【写真:アフロスポーツ】

 ある時のことだ。
 日本代表の活動を終えてトヨタに合流してすぐ、突然、ジェイクに呼ばれた。
「おいヒメ、ちょっとこっちに来い」
「え、なんだろう? チームのことで話があるのかな?」
 呼び出された理由の見当がつかないままジェイクのもとへ向かうと、彼は少し前のリーグ戦の話を始めた。
「お前、あの時の試合、ダメだったところがある」
「それがどこか、自分でわかっているのか?」
 まったく思い当たるフシがなくて返事に困っている僕に、ジェイクは試合の映像を見せ始めた。それは試合中、双方のチームがプレーを巡ってエキサイトするシーンだった。
 敵味方の選手が胸倉を掴み合っているところで、僕はキャプテンとして2人を引き離してその場を収めようとしていた。少し落ち着いたタイミングで、相手選手に「悪かったね」というような感じで笑顔で声をかけていた―と、ジェイクはそこを指差した。
「ここだ」
「ええ!? ここですか!?」
 キャプテンとしてエキサイトしてしまった状況を収めることの、どこが悪いのかわからない。むしろ、キャプテンとして当然の、正しい行動だったと思っていたくらいだ。驚いている僕にジェイクはこう続けた。
「グラウンドの中でこんな馴れ合いをするな!」
「こんな表情をする必要はない! ノーサイドの後で十分だ!」
「グラウンドでやられたら、必ずやり返せ!」
 きっとジェイクは、僕のその振る舞い自体を本気で問題視していたのではない。日本代表での試合で活躍して、いい気になって浮ついた気持ちで帰ってきたであろう僕を戒めたに違いないのだ。心を引き締めさせるために〝喝〟を入れたわけだ。
 グラウンドに出ると、さらに叱咤が飛んだ。
「その程度で日本代表だって!? 全然いいプレーができていないじゃないか!?」
 悔しかったが、それこそがジェイクの狙いだ。僕の人間性や性格を掴んだ上で、あえて厳しいアプローチをして、僕をさらに成長させようとしてくれているのが伝わってきた。真意が伝わるから、彼の物言いが頭にきたりすることもない。
「ちゃんと見て、わかっているんだな」
 ジェイクは僕に対してだけでなく、他の選手にもそれぞれアプローチの方法を使い分けていた。そのどれもがピタリとハマっていて、観察眼の精度の高さに驚かされた。
 監督やヘッドコーチという立場にいる指導者は、それだけ人を見抜く力がズバ抜けている。帝京大学の岩出先生も、学生1人1人の性格を理解しながら指導してくれていた。岩出先生も僕の自信過剰で調子に乗りやすい性格と、負けず嫌いの人間性はもちろんわかっていたので、「褒めるよりも凹ませたほうがいい」と考えたのだろう、4年間、僕は人一倍怒られた。

 最近では、ヘッドコーチや監督が言っていることを「選手として聞く」だけではもったいない、と感じるようになりつつある。
 コーチは何を見て、何を伝えようとしているのか。
 どんな真意を選手に伝えようとしているのか。
 指導者側の目線、指導者側の意図を考えながら聞くクセをつけているところだ。
 それはキャプテンとして新しい学びになるのはもちろん、いずれ、僕が指導者の道に進むようなタイミングが来るようなことがあれば、きっと役に立ってくれるはずだ。

書籍紹介

【写真提供:飛鳥新社】

「意識する」「受け入れる」「行動する」「率いる」「フォーカスする」「整える」――。
ラグビー日本代表〝最強の男〟が初めて明かした〝最高の準備〟のためのシンプルな思考習慣。

選手として、チームのキャプテンとして、これまでのラグビー人生の中で学んできた、考え方や意識作り、自分との向き合い方、「弱さ」の受け入れ方、目標設定術といった姫野流セルフコーチング・メソッドからリーダー論、組織マネジメント論までを余すところなく書き下ろし。ラグビーファンの間ではお馴染みの、姫野さんが7年間にわたって書き溜めているラグビーノート”姫野ノート”の一部も初公開&収録しています。

ラガーマンやアスリートはもちろん、学生や新社会人、ビジネスマンまで、誰もが実践&応用できる「考える力の作り方」が満載の一冊。
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