五輪レースで大きく出遅れた奥原希望 厳しい現実の中で、描き続ける巻き返しのストーリー

平野貴也

駆け引きに手応えを示した意味

「厳しい中でも駆け引きはできていた」と、奥原にとっては一定の手ごたえをつかんだ試合だった 【撮影:平野貴也】

「後半は(息が上がって)足が出なくて苦しい展開でしたが、身体がきついところまで戦えたのは、ポジティブ。ここから上積みするだけ。厳しい中でも、相手の位置を見て(姿勢を)変えたり、スピードを変えたりという駆け引きはできていたので、バドミントンの楽しさ、難しさをあらためて感じられました。ここから少しずつ、世界のトップに立ち向かえるかを課題に。もっと、フィジカルとフットワークの強みを磨かないといけない。またケガをしてしまうと帰って来れないと思うので、最大に気をつけながら(周りのスタッフに)助けてもらいながらやっていきたい」

 1点を奪うのが遠かった試合を振り返った奥原の言葉だ。ポジティブな要素を強引に拾っているようにも聞こえるが、フィジカル要素以外では、今でも勝っている部分があるという確固たる自信も感じた。満足には動けない状態で、相手に振り回され、試合時間30分で息が上がる。そんな状態でもいくつかの点が取れた「できる自分」を大事にしているのが印象的だった。復活を誰よりも強く、彼女自身が信じている。

「8月の世界選手権でプランを立て直す」

 レースで出遅れた現状では、本調子に戻すことができるか、そして五輪出場権を獲得できるかの2点を追うので手一杯のはずだ。そうした目線に変わっているものだと思っていたが、3度目の五輪挑戦で頂点に立つという大目標を変えたつもりはない、という気持ちが言葉の節々から伝わって来た。

 まだ1試合を戦い切るのが精一杯であるにも関わらず、奥原は五輪レースについて聞かれると「自分の中でまったく見えていない。次の世界選手権でパリへの道がようやく見えてくるかなと思う。残り3週間、自分のできることをこなして、世界と勝負して、自分の立ち位置、世界のトップとの距離を測って、どういう道のりで行くかプランを立て直して歩んでいけたらと思う」と次戦以降のステップアップについて語り始めた。

 3週間で世界のトップと勝負できる状態まで上げるのは容易ではない。客観的に見れば、まだ世界のトップレベルとの差を測れる段階にはないと言える。しかし、夢を描き、努力の中でつかんだ手応えを自信に変え、自分が持つ可能性を膨らませて自分自身を前進させてきた奥原は、今の追い込まれた状況から這い上がるストーリーを自分自身に与えている。

 次は、勝ち負けを争う姿を。その次は、勝つ姿を。さらに、その次は勝ち上がる姿を。そして3度目の五輪で――。復帰戦は、わずか30分。完敗に終わった1試合ではあったが、追い込まれても可能性を捨てず、前を見続ける芯の強さは健在。厳しい現実の中で、奥原は巻き返しのストーリーを描き続けている。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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