なでしこMF杉田妃和「勝負に絶対はないし、W杯を楽しみたい」 米国リーグでV貢献、自身2度目の舞台へ

栗原正夫

2年前の東京五輪出場が杉田(右)の考えに大きな影響を与えた 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

 7月20日に開幕するFIFA女子ワールドカップ・オーストラリア&ニュージーランド大会。グループステージC組でザンビア(22日、FIFAランキング77位)、コスタリカ(26日、同36位)、スペイン(31日、同6位)と対戦するなでしこジャパン(同11位)で、攻守にカギを握る選手の1人が背番号6を背負うMF杉田妃和(26歳)だ。

 前回19年フランス大会ではボランチとして全4試合にフル出場した杉田だが、昨秋以降システムを3-4-3に変えた池田太監督のチームでは左ウイングバックが定位置。22年2月に移籍したアメリカNWSL(ナショナル・ウィメンズ・サッカーリーグ)のポートランド・ソーンズFCでは4-3-3の右のアタッカーとしてプレーオフ優勝に貢献するなど、どのポジションで起用されても高い技術力でチームに貢献できるのが杉田の魅力でもある。

 今季もポートランド・ソーンズはW杯前のリーグ中断時までNWSLで2位と好調を維持し、杉田も主力として15試合中12試合(3ゴール)に出場している。アメリカに渡り、技術だけでなくメンタル面でも大きく成長した杉田に、代表合流直前の6月下旬、オンラインで2度目のW杯を目前にした心境を聞いた。

自身2度目のW杯は「中心として」

アメリカ1年目の昨季はNWSLプレーオフで優勝も経験した杉田 【Craig Mitchelldyer】

――自身2度目のW杯ですが、前回と比べ大会に臨む気持ちに変化はありますか。

杉田 違いますね。前回は年齢的にも若い方でしたし、今回はメンバーも大きく変わったなか同世代の選手も多く、私自身プレーしている環境も変わりましたから。

 前回はW杯予選をかねたアジアカップ(18年)も出てなくて、大会前にメンバー入りし大会に出られるうれしさがあった一方、予選に出ていない自分が試合に出ていいのかとか、足を引っ張らないようにやらなきゃと変なプレッシャーもあって自分のことで頭がいっぱいでした。今回は2度目ですし、年齢的にもいい歳になって、中心としてやっていかないといけないとは感じています。

――ザンビア、コスタリカ、スペインと同居したグループには、どんな印象を持っていますか。

杉田 私としてはどのチームと対戦するかというより、前回大会は初戦のアルゼンチン戦(△0-0)にいい形で入れなかったことがすごく頭に残っています。だから、対戦相手うんぬんの前にまずは初戦からギアを上げていくことが大事かなって。選手としては、どこが相手だろうが目の前の1戦1戦に集中するだけ。もちろんトーナメント表を見れば、できれば強いチームとは早く当たりたくない気持ちもありますけど、W杯はそもそもランキングの上位が集まる大会で、そういう強豪チームを日本が倒していくのをみんなが期待していると思います。どことやっても勝たなければ上にはいけないですし、対戦前からどことやるからどうとか、そういうことはあまり考えていません。

サイドで「直接相手と勝負できるのは楽しい」

 昨年11月に欧州遠征でイングランド(●0-4)、スペイン(●0-1)に連敗したなでしこジャパンは、2月のアメリカ遠征(シービリーブスカップ)でブラジル(●0-1)、アメリカ(●0-1)、カナダ(〇3-0)に1勝2敗と負け越し。4月の欧州遠征でもポルトガル(〇2-1)には勝利したものの、デンマーク(●0-1)には敗戦と、4バックから3バックにしたことで内容的に改善の兆しもみえるが、いずれもW杯での対戦の可能性がある国に対して思うような結果が残せていないのも事実である。

――一連の結果にはどんな印象を持っていますか。

杉田 イングランドに大敗した昨年の試合に比べると、2月のアメリカ遠征では強豪と戦い、日本のよさを少しは出せたのかなと思います。負けたイングランド戦もただやられたわけではなく、自分たちが気づくこともたくさんあったし、シービリーブスでのアメリカ戦も悪くはなかった。ただ、まだ差があるなかで、その差をどう埋めるかというときに、自分も含めもっとひとり一人が相手の嫌がることなどを突き詰めていくことは必要かなとは思います。私ならテクニックなら自信はあるけど、足は速くない。じゃあ、試合で勝つためにそのテクニックをどう使っていくかは課題だし。当たって砕けろではないですが、ただ受け身になるだけではなく、もう少し長所をぶつけて相手とどう戦うかってことを考えるのは大事かなと。悪い試合ではない、でも良くもないっていうことではなかなか勝ちはついてこないですから。

――19年までは所属クラブでもボランチでプレーし、21年の東京五輪では主に4-4-2の左MFとして4試合に出場しました。ポートランド・ソーンズでは右のアタッカーが定位置ですが、3-4-3の左ウイングバックでプレーすることについてはどう感じているのですか?

杉田 違和感がないわけではないですし、得意か不得意かはわからないですが、3バックの方が(攻撃の)角度はつくとは思っています。それに4バックのときに比べれば、後ろをそれほど気にすることもないので、攻撃のスタートが切りやすくなったというのもある。真ん中でプレーするときはボールを持ちながらゲームをコントロールできますが、サイドでは展開によってポジション取りの位置も変わってきますし、流れを読むという点では真ん中にいたとき以上に頭を使っているかもしれません。

 もちろん5バック気味で守ることもありますが、そもそも3バックにしたのは攻撃により人数をかけたいという意図があってのこと。ワイドの選手が点を取りにいくための動きをしない限りチャンスも増えてこないと思う。そういう意味では、腰が引けたような安ぱいなポジションだけは取りたくないと思ってやっています。

――視野が広く、技術力のある杉田選手のプレースタイルを考えると、中央でのプレーが合ってるように思えますが、窮屈さとかはないですか?

杉田 真ん中にいると、どうしても人を使うプレーだったり、カバーしたり、コースを読むプレーが多くなりますが、サイドに出ると相手と直接勝負できる楽しさがあります。マッチアップする相手もわかりやすいですし、単純に相手との駆け引きを楽しめるので窮屈さはそんなに感じていません(笑)。

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著者プロフィール

1974年生まれ。大学卒業後、映像、ITメディアでスポーツにかかわり、フリーランスに。サッカーほか、国内外問わずスポーツ関連のインタビューやレポート記事を週刊誌、スポーツ誌、WEBなどに寄稿。サッカーW杯は98年から、欧州選手権は2000年から、夏季五輪は04年から、すべて現地観戦、取材。これまでに約60カ国を取材で訪問している

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