なでしこMF杉田妃和「勝負に絶対はないし、W杯を楽しみたい」 米国リーグでV貢献、自身2度目の舞台へ

栗原正夫

アメリカに渡る決断をした理由とは……

東京五輪を終え「このままでは……」と渡米を意識するようになったと話す 【Craig Mitchelldyer】

 かつて海外志向をそれほど持っていなかった杉田は、自分が海外に行ってまでプレーするイメージはなかったと話す。ただ、東京五輪を経験したことで、そうした考えが変化し、海を渡ることを決意。アメリカに行ったいまは日本にいた頃以上に、プロサッカー選手として伸び伸びプレーできているように見える。

――改めてアメリカに渡った経緯を教えてください。

杉田 海外に行くのを意識したのは、東京五輪が終わってからですね。それまでは、日本が好きだし日本のご飯が美味しいし、海外に行こうなんて思わずサッカーをしていました。でも、五輪が終わってこのまま日本で頑張っていても何も変わらないだろうっていうのが自分のなかで見えてしまい、だったら出るしかないみたいな。別に前が見えずにお先真っ暗みたいな感じでもなかったんですが、一度海外に出てみようという感じでしたね。

――アメリカに行ったことでの自身の変化を感じますか?

杉田 プレーについて言えば自分に集中できています。向こうの選手は「自分の仕事はこれ」と割り切っていて、日本人の器用さみたいな部分は黙っていても強みになるところがありますから。無駄に考えることがなくなった分、自分の役割に徹し、素直にゴール前に入っていけるようになったかなとは思います。あと、失敗は追いかけなくなりましたし、アメリカでは女子サッカー選手が大事に扱われているというか。日本にいた頃は、どこか「女子サッカー選手です」と自信を持って言えない部分もありましたが、いまはサッカーをちゃんと仕事だと思えるようになりましたし、気持ちよくプレーできているとは感じます。

――ポートランド・ソーンズFCの平均観客動員数は約15000人。アメリカでの女子サッカーの盛り上がりについてはどう感じますか。

杉田 たくさんのお客さんがいつも試合を見に来てくれているのは感じます。日本では、女子サッカーの試合に多くの人が集まるのは稀でしたので、「最初はなんだこりゃ」って驚きもありました。アメリカではW杯への関心も高く、なでしこジャパンのメンバー発表があったときもチームメートや知人から「ワールドカップに出るんだね、おめでとう! 応援するね」って本当にたくさん声をかけてもらいました。日本のいまの事情はわからないですが、アメリカに来たことでW杯が凄い大会だということを改めて感じた部分はあります。そういう意味では、前回以上にW杯を楽しみにしている自分がいます。

勝ち負けに絶対はない「私は勝つ気満々です」

オフでの1枚。外出時は、趣味のカメラを欠かさず持ち歩く 【本人提供】

 昨年のカタールW杯での男子日本代表の躍進は、大きな刺激になった。

杉田 戦前の予想を覆してグループステージを突破し、日本中のサッカーファンがその戦いを注目している様子は、同じサッカー選手として単純にうらやましく見ていました。女子サッカーも、ああいうふうに国全体に応援されるようになりたいし、そこがゴールではないですが、やっぱりあの一体感は作り出そうと思っても作れないじゃないですか。周りが「絶対に無理」と言っていた相手に対し、チームとして向かっていき勝っていく姿には私自身鳥肌が立ちました。

――今回のW杯は賞金のアップも話題の1つで、前回大会から3倍以上となり、グループステージに出場すれば約420万円、ベスト16で約840万円、優勝すれば選手1人に約3800万円のボーナスが出ることになっています。

杉田 そこは素直にうれしいし、モチベーションにもなります。サッカー選手は一生できる仕事ではないですし、そこに人生をかけてやっている選手がほとんどですから。女子サッカーが夢を与えられる職業になるという点でも大事ですし、それが人としての価値にもつながると思っています。

――ポートランド・ソーンズではアメリカ代表の主軸FWソフィア・スミスやカナダ代表のクリスティン・シンクレアらとチームメートです。昨季はNWSLのプレーオフ優勝も経験しましたが、W杯を前にして世界の強豪との対戦について、どんなことを感じていますか?

杉田 試合ですから、どことやろうと「絶対勝つ」「絶対負ける」ということはないと思います。アメリカでやっていて感じるのは、彼女たちは常日頃から持っているものを最大限出そうとすごくポジティブなんです。多少苦手なことがあっても、長所を前面に押し出してくるというか。そこで気持ちで負けてしまうと苦しくなる。ただ、そこは心持ち次第で、別に相手がスーパー速かったり、スーパー強かったりしても、弱点もあるわけで勝てなくもない。そういう意味で、私は(どこが相手でも)勝つ気満々というか。W杯は4年に1回の舞台ですし、めったにないチャンス。楽しみながら、やりたいと思っています。

杉田妃和(すぎた・ひな)

 97年1月31日、福岡県北九州市出身。15年に藤枝順心高からINAC神戸入りし、16年なでしこリーグ新人賞。アンダー世代から日本代表として活躍し、優勝した14年FIFA U-17W杯と、3位となった16年FIFA U-20W杯ではいずれもゴールデンボール(大会最優秀選手)を獲得。18年になでしこジャパンにデビューすると、19年フランスW杯、21年東京五輪に出場。22年からアメリカNWSLのポートランド・ソーンズFCでプレーし、同年のレギュラーシーズンを2位で終えプレーオフ優勝を経験。本来の利き足は右だが、現在は左と公言するなど、両足を器用に使った高いボールキープ力が光る。

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著者プロフィール

1974年生まれ。大学卒業後、映像、ITメディアでスポーツにかかわり、フリーランスに。サッカーほか、国内外問わずスポーツ関連のインタビューやレポート記事を週刊誌、スポーツ誌、WEBなどに寄稿。サッカーW杯は98年から、欧州選手権は2000年から、夏季五輪は04年から、すべて現地観戦、取材。これまでに約60カ国を取材で訪問している

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