連載コラム「工藤公康の野球ファイル」

工藤公康が取り組む球界への恩返し「いろんなスポーツも楽しもう」

工藤公康

「野球を辞めた」ことで学んだこと

野球をプレーする子どもたちにとって、野球以外のスポーツも観て、楽しむことも大切だと工藤氏は考える 【写真:REX/アフロ】

 実は私は、小学生から中学生にかけて、野球を2回ほど辞めた経験があります。小学生の頃、校内のクラブ活動で野球部に所属していましたが、苦手な先輩がいるという理由で体操部に行き、そこでマット運動や柔軟運動などをしていました。結局6年生になって野球部にまた戻るのですが、中学校に入ってからは、今度はハンドボール部に入部しました。ただ結局、当時のハンドボール部の顧問の先生が野球部の顧問を兼任していたことなど、いろいろな巡り合わせもあって、中学1年生の夏頃に野球部に転部をしました。

 何が言いたいのかというと、野球以外のいろいろなスポーツにふれた時間こそ、野球に活きた部分もあったのではないかということです。小学生の頃に体操部にいたことで、身体の柔軟性や調整力が養われ、ハンドボール部に入ったことで空間認知の感覚や自分の身体をコントロールする力、フットワークなども鍛えることができたのではないかと思っています。

 私はよく投球指導の際に、リズム・バランス・タイミングの3つが大切だと伝えます。子どもの時の遊びで動きや感覚が養われ、さまざまなスポーツを通して、自分の身体をコントロールするための神経の伝達や調整力が身につき、動きの中でのリズム・バランス・タイミングの感覚やイメージが養われていくのではないでしょうか。だからこそ、子どもたちには、たくさん遊び、いろいろなスポーツを体験して、視野を広げて楽しんでほしいと思います。

“野球のチームに入っていたとしても、冬の時期は違うスポーツをする”

“野球の試合観戦も企画するけど、プロバスケットボールの試合やサッカーの試合も観に行く企画をする”


 など、野球界だけでなく、各スポーツ界の選手やOBの方々とも協力しあって、相互でスポーツ教室を開催したり、それぞれのプロの試合を観に行くような活動も一緒にしていきたいと思っています。子どもの時のプロスポーツ観戦の記憶というのは、印象的な思い出になり、きっと大人になってもそのスポーツ観戦が趣味になったり、ファンになったり、結果的にそれがスポーツ界全体の活性化にもつながっていくかもしれません。

「野球を選んだから野球だけ」ではなく、いろんな活動やスポーツにふれて、自分の目で見て、聞いて、感じて、自分たちの感性を養ってほしいなと私は思います。そのためにも、子どもたちのその先につながるような活動も今後は積極的に取り組んでいきたいです。

 野球を選んだとしても、他の競技を経験する機会を作ったり、他のプロスポーツの観戦に行けるツアーを取り入れたり、もっと言えば、スポーツだけでなく文化人の方を招いたり、いろいろな職種のプロフェッショナルの方の話が聞けるカリキュラムも子どもたちのために作っていきたいと思っています。

 いま、インターネットで検索すれば、情報が得られるような時代になっています。だからこそ子どもたちには、ネットだけでは知ることができない人とのつながりや関わりの中で、本質的なことを学べる機会やプログラムをいろんな方と協力し合って創り上げたい。

 そして、プロ野球という興行を支えてくださった同世代の方々や先輩方が、これからも野球を楽しんでいただけるように、“生解説会”というのも引き続き、いろいろな場所でやっていきたいです。

 WBCで日本代表が優勝してくれて野球界を盛り上げてくれたからこそ、それぞれの野球の形や楽しみ方ができるように、私自身にできることを精一杯取り組み、これからも恩返しをしていきたいと思っています。

(企画構成:スリーライト)

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著者プロフィール

1963年5月5日生まれ。愛知県出身。名古屋電気高校(現:愛知名電高校)から1981年、西武ライオンズからドラフト6位指名を受け、入団。西武黄金期を支え、福岡ダイエーホークス、読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズに在籍。現役時代は14度のリーグ優勝、11度の日本一に貢献し、優勝請負人と呼ばれた。現役通算で224勝を挙げ、最優秀選手(MVP)2回、最優秀防御率4回、最高勝率4回など数多くのタイトルに輝き、正力松太郎賞は歴代最多に並ぶ5回受賞。2016年には野球殿堂入りを果たした。2011年に現役を引退後、2015年に福岡ソフトバンクホークスの監督に就任。7年で3度のリーグ優勝と5度の日本一に導いた。現在は野球評論家として活動しながら、筑波大学大学院博士課程に進学。スポーツ医学博士取得に向け研究や検診活動を行っている。

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