村田諒太『折れない自分をつくる 闘う心』

村田諒太が挑んだ日本ボクシング史上最大の一戦 勝敗だけでなく「何らかのレガシーを残したい」

村田諒太

ビッグマッチを前に大きくなっていった“気持ち”

 この一戦は僕のプロデビューから一貫して試合を中継してきてくれたフジテレビではなく、アマゾン・ジャパンの動画配信サービス「プライム・ビデオ」のスポーツ参入第1弾の目玉として、ライブ配信されることがこの日発表されていた。

 全世界にはゴロフキンと複数試合の大型契約を結んでいるDAZN(ダゾーン)が配信する。白井義男さんが日本で初めてのボクシング世界王者になってから約70年、戦後のボクシングの大衆人気を支えてきたテレビ地上波ではなく、インターネットで配信される興行形態もスポーツビジネスの新たな潮流として大きな話題を集めたようだった。

 ゴロフキンには15億円以上、僕に6億円のファイトマネーが保証されるとメディアは報じていた。プロモーターとして交渉をまとめ上げた帝拳ジムの本田明彦会長は、およそ30年前に自身が手がけられたタイソンの東京ドーム興行を引き合いに「時代が違うけど、興行規模は今回が上回る」と語っていた。まさに日本ボクシング史上最大の一戦だった。

 この試合の交渉について本田会長から聞かされていた夏以降、僕の中で「ボクシング人生において集大成の試合になるだろうな」という確信に近い気持ちが徐々に膨らんでいた。本当にラストファイトになるかどうかは試合が終わってみなければ分からないが、キャリアを懸けて挑む一戦であることは間違いなかった。これ以上の相手、これ以上の舞台なんて次いつ巡ってくるか分からない。

 そう考えたとき、試合に勝つ、負けるだけではない、何らかのレガシーを残したいという気持ちが大きくなっていった。

 例えば、試合に向かうまでの軌跡を記録として残せないだろうか。後進のボクサーやアスリートの人たちに生かしてもらえるようなことがあるとすれば何だろうか。プロ入り以来ずっとお世話になってきた電通(当時)の大渡博之さん、長らく僕の担当マネジャーだったジエブ(当時)の野口哲男さんらと相談を重ねた結果、ある考えにたどりついた。

「ちょっとお話できる時間ありますか」

 試合発表記者会見の10日前、11月2日にメッセージアプリのLINEで連絡を取ったのはスポーツ心理学者、田中ウルヴェ京(みやこ)さんだった。ゴロフキン戦まで最終的には半年間に及ぶことになる、メンタルトレーニングというもう一つの僕の戦いが始まるのである。この本ではその一部も記していこうと思う。

折れない自分をつくる 闘う心

【写真提供:KADOKAWA】

村田諒太 プロボクサー引退後、初の著書

「強さとは何か」を追い求めてきたボクサー村田諒太の『世紀の一戦』までの半年間を綴ったドキュメンタリー。
コロナ禍で7度の中止・延期という紆余曲折を経て、最強王者ゴロフキンとの対戦に至るまでの心の葛藤、
スポーツ心理学者の田中ウルヴェ京さんと半年間にわたって続けてきたメンタルトレーニングの記録、
虚栄や装飾のないありのままの村田諒太を綴った一冊。

この試合で一番譲れないもの、それは自分を認めることができる試合をすることだった。
ゴロフキンに勝つことも大事だが、自分に負けないことはもっと大事だった。
それは逃走せずに闘争すること。
壮絶な心の戦いの果てに辿り着いた境地とは。

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