鳥谷敬がメモをやめた理由 思い浮かべたイメージがWBCの“神走塁”で生きた
【Photo by Koji Watanabe/Getty Images】
「カッコイイほうを選べ」「空気を読むな、自己主義で行こう!」
18年にわたるプロ野球人生で培った、自己肯定感を高める35のメソッド!
阪神、ロッテで活躍した鳥谷敬が現役時代のエピソードを踏まえて説く「人生訓」が詰まった一冊から一部を抜粋して公開します。
「あれも、これも」ではなく、「あれか、これか」に絞る
翌日から新しい対戦相手との3連戦が始まるときに、スコアラーを中心とした全体ミーティングが行われる。ルーキーだったわたしは、その内容を「ひと言も聞きもらすまい」と真剣に耳を傾け、ホワイトボードに書かれたものを必死にメモしていた。
しかし、チームの主力選手たちはほとんどメモを取っていないことに気がついた。ノートに向かってひたすらペンを動かしているのは試合に出ていない選手ばかり。金本知憲さんや赤星憲広さん、今岡誠(現・真訪)さんなど、チームの中心だった選手は試合前のミーティングの内容をメモすることはほとんどなかった。むしろ、試合中や試合直後に、その日感じたことをメモしていたのだ。
このときから、わたしは試合前にメモを取ることをやめた。その代わりに頭をフル回転させて、ホワイトボードに書かれている内容を自分なりにイメージすることに努めた。
「こういう場面、自分ならこうするよな……」
「この投手の場合、自分ならスライダーを狙うだろうな……」
スコアラーが提示するデータやコーチからのアドバイスを自分のなかできちんとイメージしたうえで、ミーティングに臨むようにしたのだ。
実績を残していない選手ばかりが前に集まって必死にメモを取っている。一方で、すでにチームの中心として何年も活躍している選手は部屋の後方に座って話を聞いているだけだった。わたし自身はルーキーではあったけれど、メモを取ることをやめることにした。
そして、その効果はてきめんだった。試合中のふとした瞬間に「そういえば、ミーティングではこういう指示が出ていたな」とか、「こういう場面では初球にストレートを投げることはほぼなかったはずだ」などと、ミーティングで話された内容が降りてくるのだ。そう、それは「思い出す」というよりは、「降りてくる」という感覚だった。
「記憶力」というよりは「感受性」といったほうがいいのだろうか?
ミーティングで話されたことを「記憶」したり、「暗記」したりしたつもりはない。その代わり、自分の頭できちんとイメージを浮かべながら、真剣にシミュレーションをした。もちろん、記憶力も大切だとは思うが、重要なのはその場面ごとにきちんと自分の「思い」を込めることだと気がついた。「思い」が入っていたら、似たようなシチュエーションになったときに「あっ、そういえば」と記憶が鮮明によみがえるのだ。それは単純な「記憶力」とは、やはり違うものだと思う。
メモを取っているときにはホワイトボードの文字がよみがえることなどほとんどなかった。しかし、メモを取ることをやめ、自分の感情を入れたことでクリアな映像として脳裏によみがえることは何度もあった。
ペンを走らせなくても、きちんとミーティングの内容を思い出すことができるのならば、間違いなくわたしにとっては正しいやり方なのだ。そう確信した。
メモを取っていたときは、学生時代の授業と同じで「先生のいうことをきちんとノートに取らなくては……」という思いだったけれど、実はただ手を動かしているだけで、「やった気」になっていただけなのだ。
それよりも、「思い」を込めて、具体的なイメージを頭に思い浮かべていれば、必要なときに必要な情報、データは降りてくるのだと気づいた。
これが最大限に発揮されたのが、2013年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での「神盗塁」である。
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