大谷とメキシコ・サンドバルとの奇妙な縁 準決勝で同僚対決、その初球は?

丹羽政善

WBCで対戦したい

今年のキャンプでも共に行動する機会が多かった2人。大会前は予想していなかった「まさか」の対戦が実現する 【Myung J. Chun/Getty Images】

 今年のキャンプでは、クラブハウスから練習グラウンドへ向かうときも一緒。キャッチボールも一緒。そして、そんなとき、大谷の表情は実に豊かで、笑い声が絶えない。サンドバルのあごひげを引っ張ったり、ひまわりの種の殻を投げたりして、イタズラを仕掛けることもしばしば。そんなときも大谷は楽しそうだ。今回、そんな二人が対戦するのだから、関係性を知るエンゼルスファンは、たまらないのではないか。

 それにしても、不思議な縁に導かれた。キャンプが始まってから、「大谷とWBCで対戦したい」と話したサンドバルだったが、同時にこう言っている。

「もっとも、どれだけその可能性があるのか。まずは、日本とメキシコが勝ち上がらなければならない。そうなったとしても、自分がその試合に登板する確率は、どの程度あるんだろう」

 そもそも今回、メキシコが順当に勝ち上がっても、日本と対戦するのは決勝の予定だった。準々決勝直前に日程が変わったことで準決勝での対決が実現したが、変更がなければ、両チームが決勝に勝ち上がっても、サンドバルがその試合で投げることはなかった。

「まさか、本当にこういうことになるとは」

 よって最初の段階では、「翔平の初球? インハイに真っすぐ」とジョークを飛ばしていたサンドバルだったが、対戦が現実になって、そんなこと言っていられなくなった。

「本当に投げたら、フィル(・ネビン監督)に怒られそうだ」

 チームメートと対戦する場合、どうしてもそういう制限が加わる。よって、WBCは真剣勝負ではないーーそれは否定派の拠りどころとなっているが、日本がイタリアと準々決勝で対戦したときも、確かに大谷はデビッド・フレッチャーに投げにくそうだった。しかし、それでもやはり興味深い。そもそもイタリアとの対戦も奇跡的だった。プールAは、全チームが2勝2敗で並んだ。失点率の差でイタリアが2位となったが、イタリア代表に選ばれながら、シーズンの調整に専念するために辞退を決めたマックス・スタッシから、こんなメッセージがアリゾナから届いた。

「まさか、本当に日本と対戦するとは。翔平とは対戦したくないけど、東京で日本と試合をしたかった。その場にいたかった」

 イタリアといいメキシコといい、まるで大谷に導かれたかのよう。

親友とのマッチアップ実現へ

準々決勝では意表を突くセーフティーバントを披露した大谷。準決勝、親友との対戦ではどのようなスイングを披露するのだろうか 【写真:ロイター/アフロ】

 さて、対戦前日の19日。久々に顔を合わせた大谷とサンドバルは、トラッシュトークを交わした。

 サンドバルが右翼でストレッチを始めると、練習を終えたはずの大谷が一塁側のダグアウトから出てきて、互いに歩み寄っている。大谷によればそのとき、「アリゾナに行く準備はできているのか? と互いに言い合った」とのこと。それは、負けたほうが早くアリゾナに戻らなければならないことを意味するが、大谷は腰を引くジェスチャーも見せていた。

 あれはどういうこと? サンドバルに聞くと、「内角に容赦なく投げるって言ったんだ」と苦笑した。こんなやり取りが伝わったら、本当にネビン監督が、「冗談じゃない」と連絡をしてきそうだが、一方で大谷は攻略に自信ありげだった。

「真っすぐでもスライダーでもチェンジアップでも、しっかり自分のスイングができるのであれば問題なく打てる」

 奇妙な縁に導かれし親友とのマッチアップが明日、実現する。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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