19歳・金近が衝撃的な代表戦デビュー W杯予選イラン戦から見えた日本バスケの“希望”とパリ五輪出場

大島和人

東海大の経験と縁

イラン戦は金近(写真)を含めて東海大OBが4名登録されていた 【写真は共同】

 代表チームにおける金近の登録は「196センチ・84キロ」だが、これは過去の数値が更新されずにそのまま残っているものだ。東海大の登録は「196センチ・87キロ」で、さらに本人によると「今は91キロくらいで、多分(大学入学後に)7,8キロ増えている」とのこと。緻密なウエイトトレーニングへの取り組みで知られる東海大の2年間で、彼は国際舞台に耐える身体を手に入れていた。

 東海大では外国人留学生をマークしつつ、自分でボールを運び、試合を作る役割も担う。しかし代表ではシューターに専念できる。金近はイラン戦が“やり易かった理由”をこう振り返る

「自分が初めて試合に出るので、(イランが)僕の特徴を分かっていないなかで、少しマークが甘くなっている部分もあった。ガード陣がひきつけてパスをくれたので、本当にフリーで打つことができました。東海大でやっているときより、すごく打ちやすい環境だったと思います。ハンドラーの人たちがプレーを作ってくれて、僕はオフボールの動きをしっかりして、パスコースを作ってそこで思い切りよくシュートを打つ役割。そこははっきりできたのでよかった」

 イラン戦で登録された12名のうち、4名が東海大バスケ部出身。河村は2年で中退しているものの1年後輩の金近とは1シーズン、プレーを共にしている。そんな関係性も代表への適応を助けた。

「自分1人だけが大学生ですけど、東海大の先輩が3人いて、他の方も優しい方ばかりで、そんなに年の差は気にせずにできている。(河村)勇輝さんは僕のことを一番分かってくれているし、今日もシュートを落とした後に『次もっと打っていいよ』と声をかけてくれた。1年だけですけど(一緒に)やっていたので、他の選手たちよりはよりコミュニケーションがうまく取れていると思います」

若手の活躍、選手層でイランを圧倒

 イラン戦の収穫はここまで名前を挙げた各選手にとどまらない“全員の活躍”だ。金近の出場は25分6秒と結果的に伸びたが、余裕のある試合展開のなかで大黒柱ホーキンソンの出場は23分28秒に抑えられた。登録12人中、11人が10分以上のプレータイムを得ている。96得点のうち、ベンチメンバーの得点は61点を占めた。

 PGの富樫勇樹は若手の活躍をこう喜ぶ。

「周りを見ると比江島(慎)、須田(侑太郎)と僕、永吉(佑也)以外は24歳以下で、それでこの結果なので僕としてはすごく嬉しい。今回は(テーブス)海が活躍しましたし、河村もそうですし、金近がこんなにできると思っていなかった。シュートの入る・入らないもそうですけど、あそこまで代表の初戦で打てるのがまずすごい。真横に僕がいて、ちょっとボールをもらおうかなと思ったのに、目も合わせてくれなかった(笑)」

 イランはインサイドの大黒柱で37歳の元NBA選手ハメド・ハダディを負傷で欠いていたとはいえ、ベナム・ヤクチャリ、モハマッド・ジャムシディという強力なウイングプレイヤーがいる。彼らはそれぞれ30分以上コートに立ち、15得点ずつを挙げた。ただこの試合の日本は“選手層”で相手を圧倒した。

 日本にとってイラン戦の収穫は大差の勝利という結果だけでなく、若手の底上げだ。今夏のワールドカップと来年のパリ五輪、そして未来に向けて希望が広がる内容だった。

アジア最上位でパリ五輪へ

ホーキンソンは速攻の先頭に立てて、パスや外のシュートもある万能インサイド 【写真は共同】

 バスケファンには説明不要だが、W杯予選はNBAやNCAAのスケジュールと開催時期が重なるため、アメリカでプレーする選手が基本的に合流しない。サッカーならばFIFA(国際サッカー連盟)は各国のリーグやクラブに優越した存在だが、バスケ界にはそれと違う協会とリーグの力関係がある。

 しかしW杯、五輪の本番になれば“海外組”も合流できる。イラン戦のメンバーに渡邊雄太(ブルックリン・ネッツ)と八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)のNBA勢、NBA Gリーグでプレーする馬場雄大(テキサス・レジェンズ)、ネブラスカ大の富永啓生らが加われば、それは間違いなく魅力的なチームになる。

 W杯は32カ国が出場する世界一決定戦だが、バスケはサッカーや野球に比べて五輪の優先度が高い。そして五輪は出場国も「12」と少ない。W杯は2024年に開催されるパリ五輪の予選を兼ねていて、アジア、オセアニア、ヨーロッパなど各大陸内の最上位国が出場権を得る仕組みだ。

 日本はFIBAによる推薦で出場した前回の東京大会を別にすると、1976年のモントリオール大会以降は五輪から遠ざかっている。しかし今回のW杯は「アジア最上位」「パリ五輪」を充分に狙えるーー。そんな手応えを得たイラン戦の内容と、ホーキンソンや金近の台頭だった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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