連載:我がマリノスに優るあらめや 横浜F・マリノス30年の物語

川口能活、レジェンドたちの引退で生まれた使命感 「伝統」と「革新」の両方を兼ねそなえた男

二宮寿朗
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1995年のJリーグ新人王に選出された川口。その後もマリノスの守護神として活躍し、大舞台で類まれた強さを見せた 【写真:アフロ】

 この年の夏、木村和司の引退試合が行なわれている。1994シーズン限りで引退を表明したレジェンドはあまりに遠い存在すぎて、サッカー以外のことではずっと話しかけられないでいた。トップチームに合流するようになってからはフリーキックの練習にも付き合わせてもらった。最後のほうになってようやく止めることができるようになって、成長を感じたものだ。
「1994年の天皇杯が終わって次の日のミーティングで和司さんがみんなの前で引退するって言って、僕も驚いた記憶があります。じつはずっと和司さんのサインが欲しくて、そのとき初めてロッカーで“サインしてください”ってお願いして。和司さんも“おお、分かった”って色紙に書いてくれて。会話らしい会話って言うなら、それが初めてでした」

 木村の引退試合を終えると、今度はもう一人のレジェンドである水沼貴史が引退を表明する。水沼の自宅にはよく食事で呼ばれて、小さかった宏太少年とも遊んだ。

「僕のことをいつも気にかけてくれていました。貴史さんがケガから復帰するときにはサテライトに来て、練習でよくシュートを打ってくれていましたね。これがなかなか止められないんですよ」

 木村、水沼、そして松永。日産自動車サッカー部の輝かしい栄光を築いた偉大な先輩たちがチームを離れたことは寂しかった。と同時に、タイトルにこだわる常勝日産の伝統を受け継いでいかないといけないという使命感に似た気持ちも生まれていた。

大舞台で本領発揮して初優勝に貢献

 4月にJリーグデビューを果たしたころとはもう別人だった。
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著者プロフィール

1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技 、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。 様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「 松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)「 鉄人の思考法〜1980年生まれ、戦い続けるアスリート」(集英社)など。スポーツサイト「SPOAL(スポール)」編集長。

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