連載:元WBC戦士は語る―侍ジャパン優勝への提言―

「吐き気を感じた」WBC決勝・先発の重圧 岩隈久志が貫いた覚悟と目にした国民の大熱狂

小西亮(Full-Count)

イチロー決勝打の瞬間はベンチ裏のモニターで

WBCの優勝の記念写真におさまる岩隈久志。歓喜の瞬間、どんな思いが込み上げたのだろうか? 【Kevork Djansezian / Getty Images】

「最後の方は疲れてきているなと感じていた中で、自分の出来る限りの投球はできたんじゃないかと思っています」

 1点リードを保ち、胸を張って降板。ベンチから客観的に試合を見る立場となり、あらためて肌を刺すような空気をありありと感じる。「1個、1個のアウトが重たい」。9回、守護神として登板したダルビッシュが同点を許す。「これが野球、これが決勝の舞台なんだなと思いながら必死に応援していました」。自らの白星が消えたことなどは、岩隈氏の頭の片隅にもなかった。

 その瞬間は、ベンチ裏にいた。延長10回、アイシングをしている最中にイチローの勝ち越しタイムリーが飛び出した。「画面の映像をすごく食らいついて見ていましたね(笑)」。殊勲の右腕は奇しくも、海の向こうの日本列島でテレビ画面に張り付くファンと同じような状況で千金打を見届けた。

「みんなで勝ち取れたという思いが、一番強かったかな。チームの中心メンバーとして優勝した経験が初めてだったので、すごく最高の気分でしたね」

 プロ2年目の2001年に近鉄でリーグ優勝を経験したが、先輩たちに引っ張っていってもらった感覚しかなかった。近鉄、そして楽天のエースとなってからは、逃し続けていた頂点からの景色。しかも大役を果たして加わる歓喜の輪は、これ以上ないほど格別だった。

 大会を通じて4試合に登板し、1勝1敗、防御率1.35。抜群の安定感を誇ったが、何ひとつ簡単なマウンドはなかった。初登板は第1ラウンドでの韓国との2戦目。「どういうパフォーマンスができるか、投げる不安は一番大きかった」。援護なく結果的に敗戦投手となったが、5回1/3を2安打1失点で仕事を果たした。

 そして、負ければ敗退が決まる第2ラウンドでのキューバとの2戦目。「とにかく自分のできることをしっかりやることだけ考えて」。城島健司のミットを目がけて無心で腕を振り、6回5安打無失点。想像を絶する20日間だった。

WBCを経験して「メジャーに挑戦したい」

日本に帰国した岩隈久志。国民のフィーバーを見て、改めて世界一を獲ったことを実感したという 【写真は共同】

 米国で成し遂げた世界一の大きさは、帰国してから改めて実感した。「すごかったです。びっくりするくらい、すごかったです」。新幹線で降り立った仙台駅は、溢れんばかりの群衆で埋め尽くされていた。

 駅を出て、タクシーに乗り換える。赤信号で停止していると、なにやら外から「ありがとう!」と聞こえてきた。窓の外を見ると、隣に停まっている車からファンが降りて話しかけてきていた。「それくらい日本は盛り上がっていたんだなと思いました」と笑って思い出す。

 世界と戦った得難い経験は、自らのキャリアにも影響を与えた。「アメリカで投げるという空気や雰囲気。日本にはないものがあるんだなと思い、メジャーに挑戦してみたいなという気持ちが出てきました」。3年後の2012年に海外フリーエージェント権を行使してマリナーズに移籍。6年間、最高峰の舞台に身を置き、2015年にはノーヒットノーランも達成した。

 21年間の現役生活を終えても、輝き続ける侍ジャパンでのマウンド。「日本代表のユニホームに袖を通して戦えたのは、選手として名誉なこと。ただ、緊張やプレッシャーはすごい。覚悟がないとできるものじゃないです」。問われるのは、ただ結果のみ。2023年3月に後輩たちが決戦の地に立つ姿を、誇らしく見守っている。


企画構成:スリーライト

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著者プロフィール

1984年、福岡県出身。法大卒業後、中日新聞・中日スポーツでは、主に中日ドラゴンズやアマチュア野球などを担当。その後、LINE NEWSで編集者を務め、独自記事も制作。現在はFull-Count編集部に所属。同メディアはMLBやNPBから侍ジャパン、アマ野球、少年野球、女子野球まで幅広く野球の魅力を伝える野球専門のニュース&コラムサイト

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