連載コラム「工藤公康の野球ファイル」

工藤公康は「現役ドラフト」をどう見たか? 3度の移籍経験から綴る選手たちへの思い

工藤公康

現役時代にFA、トレードでの移籍を経験している工藤氏。移籍の経験からどんなことを学んだのだろうか? 【写真は共同】

 現役通算224勝。ソフトバンク監督時代にはチームを5度の日本一に導き、2022年から野球評論家として幅広く活躍する工藤公康さん書き下ろしの連載コラム。第2回目のテーマは「移籍」。現役時代にFA、トレードでの移籍を経験してきた工藤さんが、オフシーズンのFA移籍やトレード、日本プロ野球で今年初めて実施された「現役ドラフト」を見て感じたこととは? 移籍を経験した先輩として、新天地にかける選手たちへの思いも綴りました。

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現役時代の移籍で学んだこと

現役時代に3度の移籍を経験した工藤氏。それぞれの移籍で得たものに違いがあるという 【写真は共同】

 私自身、現役時代にFA移籍を2回経験したことがあります。

 FA移籍をしたことで、初めて見えてきた部分がありました。それまで一面しか見えていなかった物事の全体が徐々に分かるようになり、多くのことを学びました。球団が目指している野球、チームとしての方向性や選手の育成、監督の思いなどさまざまな側面を見ることで、自分自身が納得できたこともあります。当時は分からなかったことも、時間が経ったことで理解できたこともたくさんありました。

 最初に私は、西武からダイエーに移籍しました。対戦相手となって初めて西武の強さの理由を実感しました。「強いチームとは何か?」西武にいた時に“当たり前”だと思っていたことも、それは西武にいたからそう感じていただけだったことがわかりました。外の世界を知ることで、西武というチームの強さの本質がわかったのです。「勝つためには何をしなければいけないのか?」「勝つチームとは何か?」を自分自身に問いかけ、実践する機会をいただけたことも、移籍で外の世界を知った経験があったからだと思います。

 ダイエーから巨人に移籍する前も、当時の王貞治監督に相談すると、「他の球団を知ること、外の世界を見ることは自分自身の今後の野球人生につながる」とアドバイスをいただきました。巨人に移籍した時には、勝ち続けなければいけないチームのプレッシャーや、その中での自分の役割や立ち位置を理解することを学びました。

 トレードで横浜に移籍した時には、2年目にリリーフを経験しました。リリーフ投手の大変さや苦労を学び、その中でどう調整しなければいけないのかを学びました。トレードであっても、そのチームで自分が求められていること、勝つために、チームのために、自分がすべきこと、できることに応える努力をしてきました。これは後からもお話させていただきますが、FA移籍であってもトレード移籍であっても変わらない部分かと思います。

 これまでのすべての経験が、今の私につながっています。現役当時はここまで考えていなかったかもしれませんが、10年、20年経ってから見えてくるものや理解できたことがあり、大変貴重な経験だったと感じています。

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著者プロフィール

1963年5月5日生まれ。愛知県出身。名古屋電気高校(現:愛知名電高校)から1981年、西武ライオンズからドラフト6位指名を受け、入団。西武黄金期を支え、福岡ダイエーホークス、読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズに在籍。現役時代は14度のリーグ優勝、11度の日本一に貢献し、優勝請負人と呼ばれた。現役通算で224勝を挙げ、最優秀選手(MVP)2回、最優秀防御率4回、最高勝率4回など数多くのタイトルに輝き、正力松太郎賞は歴代最多に並ぶ5回受賞。2016年には野球殿堂入りを果たした。2011年に現役を引退後、2015年に福岡ソフトバンクホークスの監督に就任。7年で3度のリーグ優勝と5度の日本一に導いた。現在は野球評論家として活動しながら、筑波大学大学院博士課程に進学。スポーツ医学博士取得に向け研究や検診活動を行っている。

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