連載:元WBC戦士は語る―侍ジャパン優勝への提言―

大谷、ダルビッシュが侍ジャパンの中心になる 内川聖一が彼らに重ねるイチローの存在感

小西亮(Full-Count)

短期決戦は「逃げられないから良かった」

イチローのグラウンド内外での存在感がチームにとって大きかったと内川聖一は振り返る 【写真は共同】

 3大会で美酒を味わったのは一度だけとはいえ、それぞれで存在感を放ったのは確か。2009年は打率.333(18打数6安打)、1本塁打、4打点。2013年も打率.348(23打数8安打)、1本塁打、4打点と気を吐いた。2017年は代打の切り札として貴重な決勝犠飛を記録。NPBの舞台でもクライマックス・シリーズで3度、日本シリーズで1度、MVPに輝いた「ミスター短期決戦」たる勝負強さは、世界の舞台でも健在だった。

 ただ、自身の感覚はいくばくか違う。「大舞台に強いと言ってくださる人がたくさんいるんですが、たまたま短期決戦というのが逃げられないところだったから良かったんだと思うんです」。半年以上に渡るペナントレースだと、いつトンネルを抜けられるか分からず悶々とする日々が続くこともある。

「どちらかと言うとマイナス思考の人間。でも、考えていても試合は始まるから、割り切ってやっちゃおうというのが得意でした。だから短期決戦で結果が出た。やるしかないというところに行き着いちゃうとやれるタイプでした」

 選手によってそれぞれ思考は違うが、悩む時間を強制的になくすというのも、ひとつの手。大会期間中に出力を凝縮しなければならないからこそ、邪念を取っ払う。「試合前のセレモニーの時間が一番嫌でした」。そう言って笑う“鬼”の言葉や経験には、WBCを勝ち抜くための真髄が込められている。

 ともに勝利を目指すチームメイトも、戦う相手も、プレーする環境も、何もかもが普段とは違う国際舞台。異質な空間なだけに、自然とチームが同じ方向を向けるような「リーダー」の存在が欠かせないと、内川は3大会を経験して強く思う。「チームの中で、誰しもが一目を置く存在が必要」。そのイメージにぴったりと重なるのが、第2回大会のイチローの姿だった。

「イチローさんが『ああしよう』『こうしよう』と問いかけながら、常にチームが100%いい状態で臨めるように考え、提案してくれていました」

プレー以外でもチーム助けるメジャー選手

食事などの生活面においてもメジャーリーガーたちの存在がとても頼りになったと内川聖一は振り返る 【写真提供:ポリバレント株式会社】

 メジャーリーガーの存在は、グラウンドの外でもチームメイトを助ける。決勝を含めた大会の最終局面は、米国が舞台。日本のプロ野球に所属する選手たちにとっては、プレー以外の生活面の勝手が違ってくる。内川は2009年の第2回大会で、食事する店の情報など身の回りのことで助言を受けた経験を思い出す。

「メジャーの選手たちがすごく教えてくれた。イチローさんが『みんなで焼肉行くぞー』って言ってくれたこともありました。日本と同じように普段通りの生活ができて、野球に臨めたのは思った以上にありがたかった」

 3大会ぶりの悲願が求められる来春。その役目を担う適任として、内川は「メジャー選手がチームに与える影響はすごく大きい」と言い切る。その期待に応えるかのごとく、大谷翔平投手(エンゼルス)、ダルビッシュ有投手(パドレス)、鈴木誠也外野手(カブス)が相次いで参加を表明。「『もっとこうしましょう』『この方がいいよ』と意見を出し合って中心になれる存在だと思います。いろんな経験をしている方が、間違いなく引き出しは多い」と見据える。

 栗山英樹監督率いる侍ジャパンの戦いは、来年3月9日に東京ドームで幕を開ける。押し潰されそうなほどの期待を3度も体感した内川は、その期待をも超越してくれる日本代表選手たちだと信じている。

「もちろん最後にみんながマウンドで喜んでいる姿は見たいですが、自分の持っているベストを出せる状態でグランドに立って、悔いのない大会にしてもらいたいという気持ちが強いです」

 裏を返せば、頑張れと言うまでもなく誰もが日の丸に誇りを持ち、死力を尽くすメンバーが集う。米国の空の下、昂る思いで胸を張る後輩たちの姿を、今から心待ちにしている。


(企画構成:スリーライト)

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著者プロフィール

1984年、福岡県出身。法大卒業後、中日新聞・中日スポーツでは、主に中日ドラゴンズやアマチュア野球などを担当。その後、LINE NEWSで編集者を務め、独自記事も制作。現在はFull-Count編集部に所属。同メディアはMLBやNPBから侍ジャパン、アマ野球、少年野球、女子野球まで幅広く野球の魅力を伝える野球専門のニュース&コラムサイト

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