アジア勢が健闘する中での開催国敗退 短期連載「異例づくめのW杯をゆく」

宇都宮徹壱

カタールの敗退決定直後に覚えた猛烈な違和感

セネガルとの負けられない試合を落としたカタール。試合後、潮が引くように空席が広がる 【宇都宮徹壱】

 今大会に出場しているアジア勢は、いつもの4.5枠に加えて、プレーオフを勝ち抜いたオーストラリア、そして開催国のカタールを加えた計6カ国(この数字は、過去のW杯の中でも突出している)。1巡目の勝敗は、2勝1分け3敗となっている。

 前回のロシア大会では、日本の他に、イラン、韓国、サウジアラビアが1勝を挙げているが、サウジの勝利はグループ敗退が決まってから。その意味で、ここまでのアジア勢は大健闘と言える。さらに2巡目に入ってから、イランがウェールズに、そしてオーストラリアがチュニジアに勝利し、グループ突破に望みをつないだ。そうした中、あえなく2敗を喫してしまったのが、他ならぬ開催国カタールである。

 エクアドルとの初戦に0-2で敗れていたカタールは、続くセネガルとの第2戦でも前半終了間際にDFのクリアミスから失点。さらには後半開始早々、CKから追加点を奪われてしまう。後半33分には、モハメド・ムンタリがカタールの本大会初ゴールを決めるも、その6分後に3点目を決められて万事休す。裏の試合でオランダとエクアドルが1-1で引き分け、ともに勝ち点を4としたため、ここにカタールのグループステージ敗退が決まった。

 開催国がグループステージ敗退となったのは、2010年大会以来だが、この時の南アフリカは3戦目まで突破の可能性を残していた。2戦目で敗退決定というのは、今大会が初めて。やはりW杯未経験のホスト国には、あまりにもハードルが高すぎたのだろうか(余談ながら、ホスト国としてW杯初出場を果たしたのは、1930年大会のウルグアイと34年大会のイタリアのみ)。

 今大会の開催のために、カタール政府は30兆円とも40兆円ともされる莫大な予算を投下している。スタジアムや地下鉄のインフラだけでなく、W杯開催決定以前の2004年には、世界最先端の技術と戦術が学べるアスパイア・アカデミーを創設。結果として、2019年のアジアカップでは頂点に輝いたものの、世界を相手に好成績を収めるには至らなかった。

 カタールの力不足は、ある意味、大会が始まる前から予想されたことだ。しかし、それ以上に猛烈な違和感を覚えたのが、終戦が(ほぼ)決まったスタジアムで、今回の結果を嘆き悲しむ人々がまったく見当たらなかったこと。せいぜい「ああ、負けちゃったね」という感じで、潮が引くように空席が広がっていった。

 大会はまだ3週間続く。ホスト国が早々に敗退し、国民も冷めた感覚でいる中、カタールでのW杯はどれだけ盛り上がれるのだろう。そこで鍵を握るのは、ブラジルやフランス以上に、実はアジア勢の躍進なのではないか──。開催国の早すぎる敗退以降、そんなことを考えている。

<11月28日につづく>

2/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント