[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第28話 ラストピース
「ここで1つ提案をしたい」
声を張り上げて、一歩前へ出た。
「私のプロ指導者としてのキャリアは、オラルのコーチとして始まった。私は再びその原点に帰りたいと思う。今この瞬間から、私が日本代表のヘッドコーチになり、オラルが再び監督になることを提案する。それによって日本代表はあらゆる面で進化できるからだ。この案に賛成の者は立ち上がって拍手をしてくれ」
「すげー、おもしれーじゃん」
有芯がクルーガーの肩の上で拍手を始めた。クルーガーもすぐに大きな手をたたいて呼応する。高木も「ここまで来てもらってノーとは言えないよな。オラルさん、退院おめでとう!」と拍手に加わった。
クルーガーを皮切りに、選手たちがオラルのもとへ行って順番に握手を始めた。大逆転で勝った試合後のようだ。
だが丈一は輪に加わらなかった。祝福ムードを壊したとしても、やらなければならないことがあった。
「ちょっと待ってください!」
丈一はそう叫ぶと、人垣をかきわけて輪の中心に躍り出た。
【(C)ツジトモ】
ノイマンは腕を組んだまま答えない。オラルが自ら許可を出した。
「ジョー、相変わらず気合いが体からほとばしっているな。もちろん、どんな質問にも答えよう」
「ずっと疑問だったことがあります。なぜオラルさんは、俺をキャプテンに指名したんでしょうか?」
丈一がそう告げると、オラルからゆっくりと表情が消えていった。そして穏やかだった目つきが一瞬にして鋭くなった。
「ジョー、まだ気づいていなかったのか。FWとして、すでに別の風景が見えていると信じていた。これでは何のためにキャプテンマークを託したのか分からない。おまえには……失望したよ」
失望? パンチを繰り出したつもりが逆にカウンターを食らい、丈一は頭が真っ白になった。
拍手は止み、無音の世界になった。後ろにいる選手たちからは息の音すらも聞こえてこない。
祝福ムードはもうない。オラルの一言によって、試合の真っただ中のような緊張状態に引きずり戻された。
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【(C)ツジトモ】
新章を加え、大幅加筆して、書籍化!
【講談社】
代表チームのキーマンに食い込み、ディープな取材を続ける気鋭のジャーナリストが、フィクションだから描き出せた「勝敗を超えた真相」――。
【もくじ】
第1章 崩壊――監督と選手の間で起こったこと
第2章 予兆――新監督がもたらした違和感
第3章 分離――チーム内のヒエラルキーがもたらしたもの
第4章 鳴動――チームが壊れるとき
第5章 結束――もう一度、青く
第6章 革新――すべてを、青く
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