[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第17話 動き出した有芯の計略

木崎f伸也
サッカー日本代表のフィクション小説『I'm BLUE(アイム・ブルー)』の続編が決定!
これを記念して、4年前にスポーツナビアプリ限定で配信された前作をWEB版でも全話公開いたします(毎日1話ずつ公開予定)。

木崎f伸也、初のフィクション小説。
イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
 アスリートにとって、食事はトレーニングのひとつだ。それゆえに日本代表は活動中の食事にとてもこだわっている。

 ビュッフェに低脂肪の料理が並び、ビタミン摂取のために緑黄色野菜や果物が豊富にそろえられる。刺身といった食中毒のリスクがある生モノは禁止だ。

 ただ、おいしい食事ばかり並ぶので、逆にそれが選手を悩ませる部分もある。つい食べ過ぎてしまうのだ。

 サッカーは短距離走と長距離走の能力を同時に求められるスポーツで、選手の体脂肪率は12%以下が望ましいとされている。意識が高い選手は7〜8%に保っており、このレベルの体脂肪率だと少し食べ過ぎただけで数値が上がってしまう。それゆえにおいしい料理が目の前にあっても、我慢しなければならない。

「ドイツの選手が一番好きなのって、ソーセージに特製のカレーソースをかけたCurrywurst(カリーブルスト)っていうジャンクフードなんよね。ポテトフライをつけるのが定番。でも、ほとんどのプロクラブはカロリーが高いから、選手に禁止してんのよ。ごくごくたまに、たとえばW杯の大会中に出して、選手のモチベーションを上げるのに使うらしいワ。やっぱ食いもんは大事よね」

 かつてドイツユース代表でプレーしていた21歳のクルーガー龍が、同じ円卓にいる25歳の秋山大に話しかけた。その横には、18歳の小高有芯、20歳の水島海がいる。

「ほら、間に合ったでしょ」

 有芯は小声で隣の水島に言った。若手3人はぎりぎりまでVRルームにいたが、廊下を走り、23時半の夕食に間に合った。

 そして狙い通り、秋山と同じ円卓につくことができた。

 普段、秋山はロス五輪世代の望月秀喜、マルシオ、グーチャンと同じ円卓に座っている。だが今日は、クルーガーが「たまには席替えせえへん?」と提案し、望月らはすでに着席していたが他のテーブルへ動いてくれたのだった。

 このASミラン所属のMFは、自分から話すタイプではない。有芯が世間話を振った。

「アッキーって独身じゃないですか。普段イタリアで食事はどーしてるんですか?」

【(C)ツジトモ】

「近くに住んでいる駐在員の奥さんに、1週間分作り置きしてもらって、夜はそれを食べてる感じかな。昼はクラブで出されるしね」

「さすが要領いいなー。参考になるなー」

 有芯は相手を褒めながら一通り食事が終わるのを待ち、ようやくジャブを打ち始めた。

「アッキーって、子供のとき誰に憧れてました?」

 秋山は携帯をいじりながら、食後のコーヒーを飲んでいる。

「ASミランのマルディーノだ。父親が元代表ってところに親近感があって。まさか自分がその選手の後輩になれるとは思わなかったけどな」

「マルディーノって、ASミランの伝説のキャプテンじゃないですか。アッキーさんもパリ五輪ではキャプテンでしたが、将来、日本代表でもキャプテンをやるんですかね?」

「さあな。もちろん指名されたらやるさ」

「ほー、それは心強い。じゃあですよ、今回のW杯でキャプテンに指名されたらどうします? いっそのこと、キャプテンの座をジョーさんから奪っちゃいましょうよ」

「え?」

 予想外の流れに、秋山は手元の携帯から顔を上げて、有芯の顔をにらんだ。

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始

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