裏方として近江高を支えた球児 引退試合で母に見せた「初ホームラン」

センバツLIVE!

裏方としてチームを支えた3年間

バッティング練習でチームメイトにトスをする松岡選手 【センバツLIVE!】

 近江で1年生の教育係を務める松岡翔希(まつおかしょうき)選手(3年)。新入部員に私生活のことや、野球の基本を指導するなど、チームを陰で支える縁の下の力持ちのような存在だ。監督も3年間で最も人間的に成長したのは松岡選手だと話す。そんな彼が近江の門をたたき、目指したのはもちろん甲子園の舞台。しかし、春のセンバツで準優勝に輝いた強豪校のレギュラー争いはし烈で、松岡選手は3年間で1度も背番号をもらうことはできなかった。

「(甲子園で)楽しそうに野球をやっている姿を見て羨ましいと思った。メンバーとして活躍出来ない分、(裏方として)積極的に動こうとやっていました」常にチームのためにできることをやってきた3年間だった。

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特別な試合 初めてもらった背番号

高校生活初めて手にする背番号は『8』 【センバツLIVE!】

 近江では毎年、6月に行われる特別な試合がある。夏の地方大会にベンチ入り出来なかった3年生たちが出場する高校生活最後の試合、「引退試合」だ。6月19日、その試合に出場する3年生たちに背番号が渡された。松岡選手がもらった番号は『8』。近江に入学して初めてもらった背番号は素直に嬉しかった。

「悔いなく終わりたい。最後はかっこいい姿を見せて終われたら良いなと思います。」試合での具体的な目標を伺うと、少し考えた様子でこう答えた。「ホームラン打ちます!」最初で最後の晴れ舞台、強い気持ちで臨む。

有言実行!高校生活初めてのホームラン

高校生活最後の試合で『初ホームラン』にガッツポーズをする松岡選手 【センバツLIVE!】

 6月23日。引退試合当日。普段、練習を支えてもらっているメンバーのために、この日はレギュラーメンバーたちが試合をサポート。グラウンド整備や、スタンドからの応援も日頃の感謝の気持ちを込めて務めた。試合前のノックを打つのはエースで4番の山田陽翔主将だ。

 この日の対戦相手は過去に甲子園6度出場の彦根東高校。15年前から毎年、この時期に「引退試合」を行っている。松岡選手は「1番・センター」で出場。母・美穂(みほ)さんも地元・兵庫から駆け付け、息子の勇姿を見守る。

 第1打席、さっそくレフトオーバーの2ベースヒットを放ち、これが先制点につながる。息子が生き生きと野球をする姿を見た母・美穂さんは、寮生活を送る松岡選手について「いろいろな部分で大きくなったな。近江に行くまでは何にもできなかったんですけど、親元を離れて帰って来ると、いろいろなことができて成長したと思う」と頬をゆるめる。

 第2打席は、内野ゴロで惜しくも出塁とはならなかったが、1塁ベースまで魂のヘッドスライディング!全力プレーにベンチの仲間たちはハイタッチで迎え入れる。

 第3打席はフォアボール。迎えた第4打席、高めに浮いた球を逃さずフルスイング。打球はぐんぐん伸びていき、そのままライトスタンドへ。高校3年間の集大成となる引退試合、両親の前で高校生活初めてのホームラン。

「最後だし長打を1本でも多く打って頑張ると言ってくれていたので、鳥肌が立ちました。」母・美穂さんも有言実行の一発に満面の笑みだった。

 試合は松岡選手の活躍もあり、9-5で近江が勝利。3年間の汗と涙がつまった引退試合を有終の美で飾った。

18年間ではじめて直接言えた「ありがとう」

母・美穂さんに感謝の言葉を伝える松岡選手 【センバツLIVE!】

 試合後、ここまで支えてくれた両親の元へ向かった松岡選手は照れ臭そうにホームランの感触を報告。「ありがとう今日は。」今まではなかなか直接伝えられなかった感謝の思いが自然と口から出てきた。「初めてやな そんなこと言うてくれるの」と美穂さん。

 高校生活最初で最後のホームランは松岡選手にとって18年間育ててもらった両親への感謝の気持ちが込もった1本だった。

「12年間泣きながら練習して、努力して、やっとすごい。自慢の息子になります」と美穂さんが誇らしげに話した。

 選手としては「引退」も、松岡選手の夏はまだ終わらない。滋賀県勢初の全国制覇へ。この夏、部員103人一丸となって想いひとつに戦う。
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