村岡桃佳「攻めの滑り」で掴んだ金メダル “二刀流”生かし、アクシデントを乗り越える

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北京パラリンピック直前に右肘を負傷

前回2018年平昌大会で出場全5種目でメダルを獲得。今大会は日本選手団の主将も務める 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 今季前半の村岡は、破竹の勢いで勝利を積み重ねていた。シーズン最初のワールドカップ(W杯)オーストリア大会で2勝すると、続くスイス大会では4連勝。W杯で6勝を挙げ、好調をキープしたまま21年のレースを終えた。

 年が明け、1月は世界選手権(ノルウェー)の出場を予定していたが、新型コロナウイルス「オミクロン株」の世界的な流行と感染リスク、 帰国後の隔離期間の練習継続が不透明な状況を考慮し、障害者スキー連盟が座位チームの派遣中止を決定。(編集注:ヨーロッパ遠征中だった立位チームは参加)北京パラリンピック前の貴重な実戦機会を失うことになった。

 世界選手権の派遣が中止となり、国内で調整していた村岡に悲劇が襲う。1月17日のトレーニング中に転倒し、右肘を負傷。そのため、国内で開催された北京パラリンピック前最後の大会「ジャパンパラ・アルペンスキー競技大会(2月1日〜4日)」はケガの影響で全てのレースを欠場することになった。

「肘を痛めてしまったことによって、お箸がうまく使えなかったり、車いすの移動など、日常生活を送ることも大変でした。3日以上雪上に立てなくなるような大きなケガをこれまで経験したことがなく、不安もありました。幸い重度のケガではなかったので、痛みが引くまでリハビリや体幹トレーニングに励んでいました」

 ケガが完治して、本格的な練習を始めたのがパラリンピック開幕1カ月を切ったタイミング。ほとんどぶっつけ本番で挑んだレースだった。

アクシデントを乗り越え、掴んだ金メダル

夏冬「二刀流挑戦」を経て今大会も5種目に出場。メダルラッシュに期待だ 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 実戦から2カ月以上離れ、調整不足が不安視された中、村岡はなぜ金メダルを獲得できたのか。日本人初の冬季パラリンピック金メダリストで、現在は日本障害者スキー連盟の大日方邦子強化本部長は村岡の対応力について、次のように話していた。

「彼女(村岡)は能力が高く、陸上競技も本格的に取り組んでいるので、スキーをする時間がほとんどない、短い時間の中でもこれまで調整することができていました。この経験が今回も幸いするんじゃないかなと期待しています」

 村岡は平昌パラリンピック後の19年春から本格的に陸上競技に挑戦。目標であった昨年の東京パラリンピックに出場し、女子100メートル(車いすT54)で6位入賞を果たしていた。夏冬“二刀流”挑戦によって、アルペンスキーにも思わぬ収穫があったことを村岡は明かす。

「久しぶりに雪上に立った時に、『いつもより体を動かしやすいな』『ターンの質が変わったな』と感じることが多かったです。陸上競技のトレーニングを積んだことによって、アルペンスキーに向けたトレーニングでは得られなかった体の使い方や筋力アップなどができていたんだなと感じました」

 大会前のアクシデントを乗り越え、掴(つか)みとった金メダル。北京パラリンピックはまだまだ続き、6日はスーパー大回転、8日にはスーパー複合が控えている。

「初日に金メダルを取れたことで、気持ちとしては少しだけ楽になりました。攻めた結果の金メダルだと思うので、明日からも『守りの滑り』ではなく、自分らしい『攻めた滑り』をしたいと思います」

 陸上とアルペンスキー、夏冬“二刀流”の経験が生きた金メダル。攻めの滑りを貫き、平昌大会に続くメダルラッシュに期待したい。

(取材・文:赤坂直人/スポーツナビ)

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