日本勢3人入賞、高木菜那が転倒のマススタート 勅使川原郁恵が「競技横断」の強化を提言
スピードスケートのマススタート種目が行われ、日本勢は男女合わせて3人が入賞を果たした 【写真は共同】
大勢の選手が集団(マス)でスタートし、400メートルのリンクを16周して争うマススタート。ショートトラックのような駆け引きやレース戦術が求められる点では、スピードスケートの他の種目とは一線を画す。長野、ソルトレイク、トリノと3大会連続で五輪に出場し、ショートトラックやスピードスケートの解説・リポーターも務める勅使川原郁恵さんに同種目の試合結果とともに、今後の強化の方針についても語ってもらった。
パシュートに続く転倒となった前回王者の高木菜那
団体追い抜きとはまた違った要因で転倒した高木菜那。マススタートという種目の特殊性が一因となった 【写真は共同】
マススタートでは、他のスピードスケート種目では使用されない内側にあるウオーミングアップレーンもコースとして採用されています。通常のコースよりもカーブが急な「インのレーン」になるため、体をより傾けないと遠心力に負けて転倒するという事態が想定されます。いつも以上にカーブで角度をつけて曲がらなければならず、さらに16周という長期戦ということもあり、疲れが出てしまったのでしょう。
高木菜那選手の無念を晴らす意味でも決勝で奮闘した佐藤選手に関しては、すごくいい位置取りができていたと思います。中盤戦で真ん中辺りをキープして、勝負どころでトップ集団に近いところに位置していました。ラストのスプリントでスパートをかけることができれば、メダル争いに食い込めたはずです。不運だったのが最終コーナー直前のエッジング(他選手との接触)ですね。一回エッジングすると、スピードが落ちますし、スパートのタイミングもズレてしまいます。どうしても「接触がなければ」とは思ってしまいますが、全体的には素晴らしい滑りでした。
男子に関しては、土屋選手が6位、一戸選手が8位とメダルには届かなかったものの、きっちり入賞を果たしましたね。特に土屋選手は攻めの姿勢でレース中盤では上位に食い込み、ポイントを獲得していました。逃げ切りは図れませんでしたが、自分らしい滑りで勝負できたところは良かったです。一戸選手も「楽しめるレースを心がけた」と言っていましたし、全力を尽くしたうえでの8位という結果は素晴らしいと思います。
歴史が浅いマススタートは今後の強化にも注目
歴史がまだ浅いマススタートは、今後の強化方針も重要になってくる。ショートトラックとの競技横断の強化などは非常に興味深い 【写真は共同】
マススタートでは、4周、8周、12周目を終えた時点の通過順が1、2、3位の選手にそれぞれ3、2、1ポイントが与えられますが、ゴール時の順位でのポイントは1位が60、2位が40、3位が20、4位が10、5位が6、6位が3ポイントです。つまり、通過によるポイントはあるものの、メダル争いは最後の順位で確定します。最後のスパート時まで爆発的な力をいかに温存して、勝負どころで他を引き離すことができるかが問われますね。
マススタートにはショートトラックの要素が多分に含まれています。ポジション取りの重要性やレース感覚で滑る点などはまさしくショートトラックのレースと一緒です。そのため、実際に大会で他国の選手と対戦することで培われるレース感覚をいかに養っていくかが強化のポイントになります。その点では、コロナ禍の影響などもあったかと思いますが、高木菜那選手も佐藤選手もマススタートは2年ぶりの実戦でした。選手個々の実力は申し分ないだけに、レース感覚にいかに適応するかが課題だったのだと思います。
そういう意味では、むしろショートトラックの選手がマススタートでの出場を目指すのも面白いと思います。実際に今大会のショートトラック女子1500メートルで8位入賞を果たした菊池純礼選手(富士急)や私も現役当時には、スピードスケートの試合にも出場しています。駆け引きやコーナリングに優れるショートトラックの選手としては、自身の強みを生かせるはずです。
前回の平昌大会ではオランダのヨリン・テル・モルス選手が、スピードスケートの1000メートルで金メダル、ショートトラック3000メートルリレーで銅メダルを獲得しています。「二刀流」という言葉で表現するほど両立は簡単なことではないと思いますが、ショートトラックとスピードスケートの両方で活躍する選手が出てくることに期待したいですね。強化においても競技の垣根を越えた連携があると、お互いが切磋琢磨(せっさたくま)してより高みを目指していけると思います。