思わぬ結果の小平奈緒、1000mに覚悟を持って臨む 高木美帆の銀メダルはコーチとともに「挑戦した証」

沢田聡子

スピードスケート女子500m、滑走する小平奈緒 【写真は共同】

 五輪では、何が起きるか分からない。そう痛感させられる女子500メートルのレースだった。

 現地時間21時56分という遅い時間に国家速滑館で始まった女子500メートル、15組中4組目で滑走した高木美帆は、いきなり37.12という記録をたたき出した。この記録は優勝したエリン・ジャクソン(アメリカ)が14組目で滑るまで超えられず、高木は五輪では初めて出場した500メートルで銀メダルを獲得している。

 一方、平昌五輪金メダリストで連覇の期待を背負う小平奈緒は13組目で出場。重荷を引きずるような印象の滑りで38.09という記録に終わり、予想外の17位という結果になった。

「自分自身にがっかりした」と小平

 小平は、心なしか青ざめた表情で現れたミックスゾーンで「思うようにいかなかった」とレースを振り返っている。

 「最初の一歩目で足がちょっとひっかかってしまって、その後立て直せなくて。自分のスケートがどんどん遠くに離れていく感覚で、自分のやりたい表現はできなかったのかな」

 「準備もしっかりやっていましたし『後はスタートに反応していくだけ』というふうに思っていたのですが、足がとられてしまった瞬間に頭の中が真っ白になってしまって……その後はもう前を向いて、歯を食いしばって最後まで滑るしかないという気持ちで滑りました」
 
 「ここまでタイムが落ちるとは思っていなかったので、正直どう振り返っていいのか分からない」とショックを隠せない小平だが、彼女らしく真摯(しんし)にレースを振り返ろうとしていた。

 「圧倒的な力があれば戦えていたのかなと思うのですが、つまずくということはその時点でもう体が対応していなかったのだと思う」

 最初につまずいた後、小平は「済んでしまったことは取り返しがつかないこと。残りの480メートルはもうとにかく自分の滑りに夢中になるしかない」という気持ちで滑っていたのだという。

 思いがけない展開に取材陣も動揺を隠せない中、小平はメダリストたちへの敬意を示している。ローラースケートから転向して金メダリストとなったジャクソンについては「彼女もローラーから上がってきて、似ているスポーツとはいえ氷上でかなり努力をしてスピードスケートに取り組んできたと思う」と話した。

 「今シーズン前半戦から競い合えていたことが『新しい仲間ができた』という気分ですごくうれしかったのですが、そんな彼女がこうやって最後金メダルを手にして、純粋にすごいなと思いました」

 また、高木の記録を知った時には「今日は氷が滑るんだな」と思ったという。もともと36秒台を目指していたため「そんなに気にすることはなかった」とコメントしつつ、後輩をたたえている。

 「まったく私が何もできなかったので、悔しいという気持ちよりは、この舞台で自己ベストで滑ったことは本当にすごいなというふうに思うので。彼女の歴史の中に刻まれる一つの瞬間として、大事にしてほしいなと思います」

 衝撃的な結果となったレースの後にメダリストに対して称賛の言葉を述べる行為は、小平の人格を表すものだ。「こんなに自分自身にがっかりした500メートルはないです」という小平には、まだ1000メートルのレースが残っている。

 「1000メートルは、後はもう覚悟を持ってやり遂げるだけです」

 1000メートルの小平は、きっと本来の滑りをみせるはずだ。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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