北京五輪開会式、印象に残ったのはアスリートを歓迎する市井の人々

沢田聡子

高い塀の中で行われている北京五輪

第24回冬季五輪北京大会が開幕。オミクロン株急拡大による異例の厳戒態勢が続く中、通称・鳥の巣で開会式が行われた 【Photo by Matthias Hangst/Getty Images】

 市井の中国の人たちが、巨大な“鳥の巣”で出演者として躍動している。

 2月4日の夜、厳寒の中、国家体育場(通称・鳥の巣)で開催された北京五輪開会式。クローズドループの中にいるメディアにとってはバスの窓から眺めるだけの北京市民が、確かにそこにいた。

 オミクロン株の急拡大により、今も世界中で続くコロナ禍の中で開催される北京五輪は、市街と隔絶した“クローズドループ”方式で行われている。ゼロコロナを掲げる中国の方針は、北京五輪関係者を徹底して市民から隔離すること。メディア関係者が市民と同じ場所にいることも皆無ではなかった東京五輪の緩やかな“バブル”方式と違い、北京五輪は文字通り高い壁に囲まれた別世界での開催となっている。

 一般の中国入国に伴う手続きよりも緩いとはいえ、北京五輪関係者も入国の際にさまざまな手続きを踏まなければならない。筆者自身、日本での2回のPCR検査を経て、ギリギリまで入国できるか否かという不安にさいなまれながらようやく北京入りを果たした。そして北京国際空港で最初に見たのは、防護服に身を包んだ人たち。鼻と喉から検体を採取するPCR検査を経て、ようやく「Welcome to China!」と笑顔で迎えられたが、笑顔の彼女たちもまた防護服を着ていた。

 北京五輪関係者専用のバスに乗ってホテルに着くと、フロントの男性からPCR検査の結果が確認されたら電話をするので、それまで部屋から出ないよう指示される。ホテルの部屋の入り口にも、毎日PCR検査を受けるよう説明する注意書きが貼ってある。陰性を知らせる電話がかかってきてホッとしたのもつかの間、またすぐにPCR検査を受けるように言われて唖然(あぜん)とした。

 このコロナ禍で世界中から人が集まる五輪を開催できたのは、感染対策を徹底できる中国だからかもしれない。その徹底ぶりには安心感がある一方で、やはり異様な状況での五輪という感覚も強くある。

開会式会場は、ホテルの近くだが…

 宿泊しているホテルは、開会式の会場となる鳥の巣から近いところにある。日本にいる時点では歩いても行けると思っていたが、先に北京入りしていた記者から、近くてもバスで移動することになると説明された。

 実際にその通りで、ホテルの周りは高い塀で囲まれており、公的な移動手段であるバスやタクシーが入ってくる時だけ、その高い塀の入り口がものものしい音を立てて開く。どんなに近くても五輪関係者の移動手段は決められており、いったんすべてのバスの拠点となっているメインメディアセンターにバスで移動し、そこから乗り換えて鳥の巣へ行くという遠回りをしなければならない。

 バスの窓からは、自転車に乗ったり歩いていたりする北京市民が見える。自分の住む街で開催されているこの五輪を、どんな気持ちで迎えているのだろう。私たちの乗っているバスは、一般の市民が乗っているバスの鼻先を我が物顔で通り抜けていく。窓から一般のバスに乗っている市民の顔が見えるが、彼らは私たちのバスをどんな思いで見ているのだろう。

 現地時間で20時に始まった開会式に先立ち、鳥の巣に入ったのが14時過ぎ。移動手段が限られているため、十分な余裕を持って会場入りする必要があったのだ。まだ明るい会場に行ってみると、普通の市民に見える大勢の人たちが、単純な動作を延々と繰り返している。

 開会式が始まる数時間前、Web上で公開されたメディアガイドには、「参加者全員が一般人」とあった。開会式の出演者にはプロの歌手やダンサー・俳優はおらず、一般市民が学業や仕事をしながら、空いた時間を使って準備をしてきたのだという。開会式の前には前座のようなショーがあり、その出演者はプロのエンターテイナーであるようだったが、開会式が始まってみるとその参加者は確かに素朴な雰囲気を漂わせている。
 

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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