【ラグビー/NTTリーグワン】重圧を振り払った松田力也のキャリー。 千両役者の活躍で王座奪還まであと1勝<埼玉パナソニックワイルドナイツ>

埼玉パナソニックワイルドナイツ 松田力也選手 【©ジャパンラグビーリーグワン】

マッチエピソード&記者会見レポート
埼玉WK 20-17 横浜E


これがプレーオフトーナメントの難しさなのか。埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)は、横浜キヤノンイーグルスに対してジャパンラグビー トップリーグ時代からリーグ戦12連勝中だったが、そのデータは意味を成さなかった。それでも、独特の重圧が掛かる中で突破口を切り開いたのは、松田力也だった。

一瞬のスキを見逃さなかった。前半4分、ハーフウェイライン付近手前でパスを受けた松田はトンネルをくぐり抜けるようにして相手をいなすと、約30mのキャリー。それを起点にして最後は竹山晃暉がトライを決めた。

「外のコミュニケーションがなかなか合わない中で、相手がかぶっていて、キャリーを選択した。良いゲインにつながって、その流れでトライが生まれて良かった」(松田)

前半9分にはジャック・コーネルセンがトライを決めたが、難しい角度のポイントだったこともあり、松田のコンバージョンキックは決まらなかった。

「難しい角度だったかもしれないが決めたかった。昨季の決勝では自分がキックを外して、最終的にはそれが影響して負けてしまった。イヤな思いがよぎった」

13対3で前半をリードして折り返した埼玉WKだったが、後半4分と13分にトライを許して逆転される展開となった。埼玉WKの“青き壁”を崩した横浜Eのアタックは見事だった。しかし、騒然となるスタジアムの雰囲気を一変させたのはまたしても松田だった。

後半19分、ハーフウェイライン付近でパスを受けると、相手ディフェンスのギャップを突いてラインブレイク。豪快なキャリーでインゴールに迫った。その流れから最後はダミアン・デアレンデがパワーでねじ込んで逆転のトライ。松田はコンバージョンキックを確実に決めた。残り20分間は一進一退の攻防となったが、埼玉WKが3点差を守り抜いてファイナル進出を決めた。

「勝った瞬間、堀江(翔太)選手、内田(啓介)選手の顔が浮かんだ。引退を表明している二人のためにも、ここで負けるわけにはいかなかった。あと1勝、チーム全員で勝利をつかみにいく」

松田は、昨季のファイナルでつかめなかったモノを取り戻すために国立競技場へ向かう。王座奪還まで、あと1勝だ。

(伊藤寿学)

埼玉パナソニックワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督(右)、坂手淳史キャプテン 【©ジャパンラグビーリーグワン】

埼玉パナソニックワイルドナイツ
ロビー・ディーンズ監督

※総括はなく、質疑応答からスタート

――接戦になった要因と、それでも逆転勝ちできた要因を教えてください。

「本当に、接戦だったと感じております。横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)さんが非常に良いプレーをしましたし、毎年、この時期になると横浜Eさんと出会っていますが、(難しい相手なので)来年は、違う相手と戦いたいところです。戦術的にも磨きがかかっていて、自分たちにプレッシャーを掛けてきました。その中で自分たちのゲージ(担保する方法)というものを見つけ出してくれました。

質の高い選手がそのレベルに見合わないミスをしてしまうのは、だいたいがタフな試合であり、レベルがはね上がった試合で、それだけの強度の試合だったと言えると思います。先ほど申し上げたように、その中でも(修正が)できたなと感じておりますし、来週に対しても良い準備ができたと思います」

――(今季引退を決めている)堀江翔太選手、内田啓介選手の花道の準備が整ったと思いますが、いかかでしょうか?

「良い準備ができたと思いますし、チャンスをつかみ取りたいと思っています。最後のところで、けが人やコンディションのところ(に問題)が見受けられたので、内田選手は最後のほうでの投入となってしまったんですが、これは試合をあとで振り返ったときには、(内田には)もしかしたら恨まれるかもしれません(笑)。彼はチームが何かというものを理解していますし、チームマンだと思っていますので受け入れてくれるでしょう」

――ペナルティが多かった理由についてはどう考えていますか?

「ペナルティがいくつかありましたが、その中では必要のないペナルティもあったと思います。先ほど坂手選手が言ったようにラインアウトでのペナルティがあったと思いますが、(相手に)モメンタムを与えてしまうときは、タフな試合になっている影響もあるんですが、ブレイクダウンでの攻防が接戦になっていくことで、(ブレイクダウンで)勝っているほうが勢いに乗れるので、そのエリアについては自分たちが改善していかなければいけないと思っています。そこで相手に(勢いに乗る)機会を与えてしまったなというところがあるのですが、自分たちにプレッシャーが掛かっていたときも、解決策を探し出していて我慢できていたと感じました」

埼玉パナソニックワイルドナイツ
坂手淳史キャプテン

※総括はなく、質疑応答からスタート

――横浜Eのアタックに対して、どんな印象を受けましたか?

「(田村)優さんを中心に非常に良いアタックをしてきました。キックをうまく使いながら、両サイドにアタックがありましたし、フォワードも力強いアタックをしてきたので、僕たちディフェンスとしてはタックルしたあとの二人目のところで食い込まれ続けてしまったところが、少し自分たちを後ろに下げてしまった要因です。ロールアウェイやジャッカルができなかった要因も、少しずつ下がることによってそこでなかなかチャンスが作れなかったところが大きいのではないかと思います。タックルしたあとの二人目のところを修正すれば、自分たちのディフェンスはもっと脅威になると思います。ただ、横浜Eさんが良いアタックをしてきましたし、スピードも良く、いい分析をした上で自分たちの弱いところに対してアタックをしてきたと思います」

――ペナルティは、想定よりも多かったのでしょうか?

「もちろん想定よりも多かったです。(ペナルティが)いくつだったのかは、まだ(試合直後で)分かっていないですが、ゲームをしながら、先々週の対戦よりも多かったですし、同じペナルティはそこまで多くなかったですが、いろいろなところでペナルティを犯してしまったという印象です。同じペナルティを繰り返した印象はないですが、スクラムやラインオフサイド、ノットロールアウェイにノットリリース(ザ・ボール)などいろいろなペナルティがあったので、そこはレフリーとのコミュニケーションが大事だと思いますし、試合でアジャストしていかなければいけないと思っています。(横浜Eのプレッシャーが要因だったのでしょうか?)ディフェンスのペナルティは、ほとんどがそうだったのかなと思っています」

――あれだけペナルティがあっても相手がスコアしたいところはしっかりと抑えました。そこは埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)らしさが出たのではないでしょうか?

「プレーオフトーナメントの戦いは、ペナルティがすごく大事になってくるというのは理解していますし、ロビー(ディーンズ監督)さんからもそういう話は、チームで何度もしてもらっていますので、意識はしていました。特に自陣に入られる要因としては、ペナルティが多くなってきます。横浜Eさんはモールも得意ですし、今日も一本(トライを)を取られました。相手にチャンスを与えてしまう要因というのはほとんどがペナルティからスタートしたときだというのは試合前から分かっていました。(意識していたのは)繰り返さないこと。ペナルティを2回繰り返すと、何十mも前へ来られるので、そこをケアしながら、一度ペナルティをしてしまったら同じことをしないところは、常に言い続けている部分です。そこが自陣に入られたときに相手の得点に絡むようなペナルティがあまりなかったというのは、そういうところかなと思っています」

――相手の先発メンバー、例えば、シオネ・ハラシリ選手が(フランカーで)先発だったのを見て前半に勝負を懸けてくるという分かりやすいメッセージがあったと思います。埼玉WKとしては前半をどのように進めていこうと考えていて、実際はどうだったのでしょうか?また、後半に向けてはどう入ろうと考えていて、試合が終わって振り返ったときにどう感じていますか?

「あまり相手のメンバーについては意識して練習しているわけではありません。実際に、僕らの練習での準備が終わったあとにメンバー発表がありますし、準備の段階で、そこを意識することはないです。ただ、ゲームの意識としては前半からブレイクダウンやキャリー、ランなど縦にどんどん来るのは分かっていましたので、そこをしっかり止めていくところで意思は統一されていました。前半は悪くはなかったと思います。良いエリアも取れていましたし、スコアはなかなか取れずに13対3で折り返しましたが、出来はそんなに悪くなかったと思います。(良くなかったのは)ペナルティの部分くらいだったと思っています。後半に入るときは、自分たちがどうなるのか、何を取りたいのかを意識して、後半20分までを意識したのですが、そこで点数を取られて、相手にモメンタムを与えてしまいました。そこは今後に向けて修正が必要だと感じています。3点差でしたけど、この試合を勝ち切ることができて、プレーオフトーナメントは1点差でも2点差でもとにかく勝てば次に進めるので、そこを目標にしてきたので、そこについては満足しています。すごくしんどい、タフなゲームでしたが、そこを取り切れたことだけを評価して、また成長して、次へ向かえるというのが一番ですね」

――今週のテーマは何だったのでしょうか?試合を終えたあとにチームにはどんな言葉を掛けたのでしょうか?

「たぶん、今回は(予想していても)当たらないと思います(笑)今週は、色にたとえて、自分たちがセーフティな状況にいたり、ゲームを支配するなど、良い状態にいたりすることを“ブルー”という言い方をしているのですが、“ブルー”でい続けるのが今週のテーマでした。ゲームの中でも焦らずに、相手の時間帯が来るときもあるし、しんどい時間が絶対にあるのも分かっていました。そこを一人ひとりで解決するのではなく、全員でコネクションを取って、全員でその問題を解決していくのが今週のテーマでした。なので、こういう接戦を勝ち切れたと思いますし、“ブルー”じゃない時間ももちろんありましたが、全員が“ブルー”になろうとし続けた80分だったのでそこについてはすごく満足しています。試合のプレーについては、まだ何も話してはいません。『勝って良かったのが一番だったね』と言いましたし、勝ち切れたことによってもう1週間、自分たちはまた成長して、強くなれる時間ができたので、そこをみんなで大事にして、ファイナルへ向けて、対戦相手は明日(19日)決まりますけど、大事な時間をみんなで過ごしたいと思います」

――逆転された時間もグラウンドの中では「ブルー」という声があったのでしょうか?

「あまり焦らずに時間もまだまだあったので、みんなで“ブルー”になり続けようとしていました。僕はもう交代していましたが、堀江さんを中心に『ブルー』という声がよく聞こえていましたし、みんなでそういう意思統一する声が大事になる。そこでスイッチを入れたり、スイッチを変えたりして、良いコミュニケーションにつながったなと思います」
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著者プロフィール

ジャパンラグビー リーグワンは、「あなたの街から、世界最高をつくろう」をビジョンに掲げ、前身であるジャパンラグビー トップリーグを受け継ぐ形で、2022年1月に開幕した日本国内最高峰のラグビー大会です。ラグビーワールドカップ2023を控え、セカンドシーズンとなるリーグワン全23チームの熱戦をご期待ください。

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