進化を止めない二人のメダリスト 水谷隼と石川佳純が描く、卓球界の未来

照井雄太

追う立場から追われる立場になった時が大変

東京五輪で金メダルを獲得した水谷。後輩たちから刺激を受けていたと振り返る 【Getty Images】

水谷 あと、石川が後輩たちをどう見ていたかは気になります。僕もずっと最年長でやって来て、張本選手が出て来たり、少し前だと丹羽孝希選手や松平健太選手が出てきた。指導者や周りが、その時、一番勢いのある選手にフォーカスするようになる。それはすごく辛かった。

 今、若くて強い選手がたくさん出てきている中、石川が全日本を優勝してくれたのはすごくうれしかった。そのあたりを気にしているのか、どのように考えているのか、聞けたらうれしいなと思います。

石川 なんて言うんですかね…。おこがましいかもしれないんですが、水谷さんと似たような思いがあります。若い頃は年上の選手に勝つと、何をやっても新記録で自分が取り上げられる。勝ったら超プラス、負けても気にされないで、「次がある」と言われる立場。

 それがチャンピオンになって、今度は年下の選手に負けると、周りからは「はい、もう終わり。交代、いままでありがとうね」みたいな感じの扱いというか…。「もう古い」と言われて、今までこんなにやって来たのに、今までなんだったんだろうと感じたりする時は、もちろんありました。

 その後、年下の選手の活躍を見て、単純にすごいなと思うようになったんです。すごいなと思ったし、こうやって変わっていくこと、いろいろなことに挑戦していくこと、すごく衝撃を受けた部分も大きくて、今までは年上の選手から学ぶことが多かったですが、年下の選手から学ぶこともすごくあった。

 それを認めて学んだり、吸収出来た時に自分自身も成長できたと感じています。今は年下の選手がほとんどですが、実力はみんな同じ位だし、みんな強いし、その中で、あまり年上とか年下とか関係ないと思っています。

 やっぱり、最初は負けた時はすごく辛かったし、「早く辞めなよ、交代しなよ」みたいに言われるのも辛かった。ただ、最近はあまりこだわりもなくなったというか、やれるところまでやればいいかなと思って、そこからすごく楽しくなりました。

水谷 追う立場から追われる立場になった時はすごく大変。周りもそういうことをよく言っていて、自分がその立場になると、本当に聞いている以上に大変だった。有名になればなるほど、勝つことよりも負けることの方が、面白おかしく扱われるようになってくる。扱われる量が増える程、それに対する声も大きくなってくる。

 今は卓球が注目されてきたから、例えば石川と伊藤選手が全日本でなくても、国際大会で対戦したら注目されると思うし、負けた方は大変。でも、まだまだ石川は乗り越えていかなければいけないので、大変だと思います。それだから余計に年齢も近いし、同じような感情だから応援したい、と感情移入している部分はあります。

石川 水谷さんとは歳が近いし、背中をずっと見てきたので、引退って聞いた時はやっぱり本当に寂しかった。なんか「えー、やめちゃうんだ」みたいな。でも、テレビですごく活躍されていて(笑)。

水谷 馬鹿にしているでしょ!(笑)

石川 やっぱり卓球をやめても、新しいステージで楽しく挑戦されていて、すごいなと思っています。

まだまだ成長、進化できるはず。諦めないで欲しい

日本のレベルはすごく高いと話す石川。全日本選手権で100%の力を出し連覇を狙う 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

――最後に、石川さんは1月の全日本に向けて抱負を。さらにお互いにエールを送って頂けますでしょうか。

水谷(人差し指を出して、優勝をアピール)

石川 日本のレベルはものすごく上がっていて、全日本選手権で優勝するのは、元々すごく難しいですが、今まで以上に難しくなりました。まずはしっかり、1戦1戦だと思っていて、自分の気持ちも技術も、しっかりまとめて、全日本選手権で100%力を出せるように準備したいと思います。

――水谷さんから石川さんにエールをお願いします

水谷 前回優勝しているから、酷かもしれないけど連覇して欲しいと思います。本人も優勝以外は求めていないと思いますし、優勝して欲しいですよね。次、優勝したらすごいよね。何回目?もう、結構優勝したよね?

石川 いやいや、まだ水谷先輩の半分なんで、5回です。10回って考えられないんですけど…(笑)。

水谷 卓球はなんだかんだ言って、勝ち負けは1本、2本の差なんです。中国選手とやってもライバル達とやっても、だいたい11-9で、勝ったり負けたり。本当にちょっとした差です。

だからこれから石川も、成長や進化を求めて練習していけば、今までギリギリで負けていた試合が、ギリギリで勝てる可能性もあるので、諦めずにがんばって欲しいです。

石川 はい、ありがとうございます。

――石川さんから水谷さんにエールをお願いします。

石川 今まではコートでの水谷さんから刺激をもらうことが多くて、今は新しい舞台で活躍されるのを見て、すごいなと思います。私も元気や刺激を頂くことが多いので、負けないようにがんばりたいです。現役は引退されたので、こらからもっとアドバイスとか、卓球面でいろいろなことを教えてもらえたらすごくうれしいので、またご飯連れてってください(笑)。

水谷 行きましょう(笑)。

石川 お願いします!テレビでの活躍も楽しみにしています。

水谷 ありがとうございます。

――素晴らしいエール交換をありがとうございました。本日は貴重なお時間、ありがとうございました

取材/文:照井雄太
構成:スポーツ企画工房

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著者プロフィール

1986年神奈川県生まれ。滝川第二高校、筑波大学で卓球に打ち込む。卒業後は、一般企業就職後、卓球の仕事がしたいと思い、2018年10月開幕直前から卓球の「Tリーグ」に転職。Tリーグでは試合運営の他、メルマガのコラム担当し、また不定期でスポーツメディアの卓球コラムを執筆している。

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