創設30周年記念 鹿島アントラーズ 未来へのキセキ

鈴木満FDが語る、鹿島が30年で築いた財産と未来への自負【未来へのキセキ-EPISODE 14】

原田大輔

復活への引き出しは最も多い

アカデミーとトップの一貫性を築くために尽力しているのがOBたち。小笠原満男(写真)や柳沢敦といった存在こそが、他にはない鹿島の30年の厚み 【(C)KASHIMA ANTLERS】

――意地の悪い質問をしますが、海外移籍の流れが加速している今、手塩にかけて選手を育てても、数年でヨーロッパのクラブに移籍してしまう可能性もあります。

 そこはアカデミーの選手であろうとも、高卒の選手であろうとも変わらないと思っています。ですから、その流れを上回るくらい次から次へと選手が出てくるような組織にならなければいけない。ブラジルのクラブを見れば、次から次に選手を引き抜かれようとも、次から次に選手が輩出されていますよね。アントラーズもそうしたクラブになっていかなければと。ジーコの存在もあり、ブラジルの各クラブとは関係を築いてきました。コロナ禍もあり、近年は実施できていませんが、アカデミーではブラジル遠征を行い、選手だけでなく、スタッフもノウハウを学んでいます。その施策はこれからも続けていきたいと考えています。

――小笠原さん、柳沢さんを筆頭に、クラブ・リレーションズ・オフィサーを務める中田浩二さんと、さまざまな部分でOBが活躍していることも、この30年でアントラーズが築いてきた強みに思います。

 クラブにはフィロソフィーというものがなければいけないですし、チームとしても一貫性や安定したチーム作りをしていくためには、ベースが必要になります。そのためには、経験者である彼らの存在は不可欠。アントラーズは、この30年間で20個のタイトルを獲得してきましたが、リーグ戦における平均順位を算出すると「3.64位」なんです。その数字を見ると、この30年間で作り上げてきたもの、築き上げてきた成果を感じることができます。近年は、川崎フロンターレのように飛び抜けた力をつけたクラブや、ヴィッセル神戸のように財政力を生かしてチーム作りを進めているクラブも出てきました。サッカーを取り巻く環境は日々変化しているので、アントラーズとしてもフィロソフィーを大切にしつつ、サッカーの部分もアップデートしていかなければいけない時代に入ってきたという思いもあります。今までベースとして築いてきた部分をどう変化させていくか。そこをしっかりと見極めて、次の10年、次の20年とつなげていく時期に、今はあると感じています。

――アントラーズがタイトルを奪還するために必要なものとは?

 チーム編成には縦軸と横軸があり、縦軸としては資金力も影響してきますが、いかに戦力を集められるか。一方で横軸としては、その選手たちをいかにマネジメントして力を発揮させるかということが重要になります。今までのJリーグはその縦軸と横軸にそれほど大きな差がなく、横軸を伸ばしていくことで、タイトルを獲ることができていました。だからこそ、選手のマネジメントに力を注いできた。しかし、近年は縦軸も変動しつつあり、クラブとしてもう一度、しっかりと縦と横の両軸を整理して、伸ばしていく必要があると考えています。

 また、アントラーズというクラブは強くなければ生き残っていけない。その思いは、30年前から今も変わることのない普遍の考えです。アントラーズが常にリーディングクラブとしてあり続けるためには、チームが強いということが絶対条件。10年後、20年後、アントラーズが強豪として居続けるためにも、ここが意地の見せどころだと思っています。

――次の10年も、強いアントラーズを見せてくれることを期待していいですか?

 今はタイトルを獲れず、苦しんでいる部分はありますが、再び上昇できると思っています。この30年、何度も、何度も苦しい状況を繰り返しながらも、アントラーズは復活してきました。苦しい時期を経験するたびに、這い上がり再び黄金期を築いてきた。間違いなくこの30年間で、その引き出しが一番多いという自負もあります。アントラーズは常に安定して上位にいる。そして、チャンスがあれば、常にタイトルを獲れるようなチームであり、位置にいなければいけないとも思っています。そのためにはまず一つ。一つタイトルを獲ることで、また違った景色が見てくるということは、何よりも、この30年の歴史が証明しています。
鈴木満(すずき・みつる)
鹿島アントラーズフットボールダイレクター。1957年5月30日生まれ。宮城県出身。鹿島アントラーズの前身である住友金属工業サッカー部でプレーし、91年に引退した後は、コーチや監督を歴任。96年に強化責任者に就任すると、2000年、01年のJリーグ連覇、07年からの3連覇など、数々のタイトル獲得に尽力してきた。現在もフットボールダイレクターとしてチームの編成や強化を担っている。

2/2ページ

著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント