連載:夏の甲子園を沸かせたあの球児はいま

甲子園を魅了した代打男・今吉晃一 なぜ打席で「シャー!」と叫んだのか?

沢井史
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鹿児島工時代の今吉さん(前列)。「シャー!」という雄叫びだけでなく、きれいに丸めた坊主頭と明るいキャラクターも、彼が甲子園の人気者になった理由だ 【写真:本人提供】

 斎藤佑樹の早稲田実と田中将大の駒大苫小牧が決勝で激闘を繰り広げた、2006年夏の甲子園。“ハンカチ王子フィーバー”に沸く中で、つるつるの坊主頭が印象的な一人の球児もまた、大きな注目を集めていた。初出場でベスト4に躍進した鹿児島工の代打の切り札、今吉晃一。打席に入るたびに「シャー」と雄叫びを上げ、スタンドから拍手喝采を浴びた今吉さんは、今どこで何をしているのか。現在、彼が暮らす岡山県倉敷市を訪ねた。

“ハンカチ王子”とは違った形で注目を

 ちょうど15年前の夏。打席に入るたびに「シャー!」という掛け声で甲子園を沸かせた鹿児島工の背番号11を、どれだけの人が記憶しているだろうか。

 2006年に開催された第88回全国高校野球選手権大会の決勝は、早稲田実の斎藤佑樹(現日本ハム)と駒大苫小牧の田中将大(現楽天)の息詰まる投手戦となり、引き分け再試合の激闘の末に早実が勝利を収めた。この大会を通じて、優勝投手となった“ハンカチ王子・斎藤”の人気が沸騰。一大フィーバーが巻き起こったが、その一方で、初出場ながらベスト4にまで勝ち上がった鹿児島工・今吉晃一の独特のキャラクターも、また違った形で注目を集めた。

 時は流れ、今吉は現在、岡山県倉敷市にいる。JFEスチール株式会社西日本製鉄所(倉敷地区)で鉄鋼マンとして働き、今年で15年目。複数ある倉敷地区の高炉のうちの第3高炉に勤務し、製鉄プロセスの最も川上である「炉前」と呼ばれるポジションにいる。

「製鉄所のシンボルである高炉が自分の担当です。高さ100メートルもある巨大な炉に鉄鉱石を投入し鉄を取り出す工程です。高炉から出てきた鉄をトピードカーという大きな貨車に入れるまでが、僕のやっている仕事ですね。管理する鉄の重さはトン単位なんですよ」

 鉄の温度が1500℃ほどの高温になる現場での作業時は、夏でも長袖、裏地にアルミ状の加工がされた長ズボンを着用。1日に4〜5回も着替えをしなくてはならないほど汗だくになるという。さらに高炉は24時間、休むことなく稼働するため、社員は三交替勤務を行い、常に高炉の動きを把握しておかなくてはならない。

「仕事の内容としては監視、検査、点検といったオペレーター業務も多いのですが、身体を動かすのは好きですし、汗をかく作業は自分に合っていると思います。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で苦しい世の中ではありますが、こうして長く仕事に携わらせてもらっているのはありがたいことです」

名前をコールさせるたびに起こる拍手と歓声

現在、今吉さんは岡山県倉敷市で鉄鋼マンとして働いている。この夏には7人の部下を率いるグループリーダーに就任。左腕の腕章を見せて照れ臭そうに笑う(新型コロナウイルスの感染防止に努め、撮影時のみマスクを外しました) 【沢井史】

 製銑部製銑工場に勤務する今吉はこの夏、第3高炉の炉前グループで7人の部下を率いるグループリーダーに就任した。左腕の腕章を見せて照れ臭そうに微笑んだその表情は、15年前、甲子園の大観衆を魅了した笑顔となんら変わりない。

「あの夏の甲子園のことは……、今でも思い出します。年々、記憶は薄れてしまっていますけどね」
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著者プロフィール

沢井史

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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