米記者が見た東京五輪「感謝しかない」 一方で、自国でのスポーツ開催に危機感…

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一時期は感染者数が減少したが……

MLBオールスターでは大勢の観客が詰めかけ、マスクなしで声援を送った。従来の観戦が戻りつつあるが…… 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

――続いて、アメリカ国内のお話をうかがいます。新型コロナウイルスの感染について、現在の状況はいかがでしょうか?

 一時期は感染者をだいぶ減らしましたが、現在は(変異種である)デルタ株がかなり増えていて、それに伴って再び感染者がどんどん増えています。最大の問題は、一部のアメリカ人がワクチンの接種に反対しており、そうした人々の中でデルタ株の感染が爆発的に増えてしまっていることです。今の状況を見ると、今後をポジティブに捉えることはできませんね。また、アメリカは非常に広い国で、その状況は場所によって大きく変わります。

――ワクチンの肯定派と否定派も、住む地域によって分かれているのでしょうか?

 間違いなくそうです。東海岸の南部が最も感染者数が多く、ワクチンの接種率が一番低い地域ですね。

――先日私はMLBのオールスターを見ていたんですが、大勢の観客がマスクをつけずに歓声を上げていました。普段のような観戦体験が戻っているように感じたのですが、スポーツに対する捉え方はどうなっていますか?

 これは難しい問題です。先ほど言ったように一時期は感染者の数がだいぶ減り、一部の州は「コロナは終わった、普段の生活に戻りましょう」と発表し、その州の住民たちはコロナ前のような生活に戻りました。ただ、デルタ株の感染が爆発的に増え、再びロックダウンの状態に戻さなければいけないんですが、一度普段の生活様式に戻った州に住んでいる方は、またロックダウンに入りたくない。それが大きな問題です。そうした州で、先ほどのオールスターゲームのようにスポーツの観戦も普段の形に戻ったんですが、また無観客の開催に戻る可能性もあります。今後はどうなるでしょうね……。

 佐藤琢磨選手も出場した、アメリカの伝統的な自動車レースであるインディ500(日本時間の5月31日に開催)では、13万5000人もの観客が入っていました。クラスターは発生しませんでしたが、それはデルタ株がまん延する前だったから、というのも大きいです。デルタは本当に危険なので、今同じように集客するのは難しいでしょうね。
――そうした状況の中で、来年7月にはユージーン(オレゴン州)で世界陸上の開催が予定され、先を見ると28年にはロサンゼルス五輪も控えています。ビッグイベントの開催に対して、国民はどんな反応をしていますか?

 多くのアメリカ人は「もうコロナは終わった」と考えていますが、私はそうは思いません。コロナの方は「あなたたち(アメリカ人)は僕(コロナ)のことを終わったと思っているかもしれないけど、私と君たちの関係は終わらないよ」というふうに言っているでしょう。多くのアメリカ人はパンデミックと自分は無関係だと思っていますが、決してそんなことはないのです。

 正直に言うと、これからの道が見えなくなりましたね。アメリカが今どこにいるのか、分からなくなりました。皆パンデミックはもうすぐ終わると思っていましたが、そうではなかった。スポーツだけではなく、社会全体にいろいろな影響が出ています。

 ひどい状況ですね。製薬会社は、一生懸命頑張って抗体を発見し、ワクチンを開発しました。ワクチンを打てばほぼ安全になり、いい影響を及ぼすことは間違いありません。それでも、国民の一定数は「私はワクチンを打ちたくない」と言っています。アメリカ国民より何百万回分も多くワクチンの在庫はあるのですが、それを受けない人々がいる。一方で、ワクチンが欲しいのに手に入らない国も多いです。そうした国で多くの方が亡くなっていますし、本当に複雑です。

――もし来年ユージーンで世界陸上を開催するとして、大会関係者に反対派の方がいたとしたら、本当に複雑な事態になりますね。

 会場となるヘイワード・フィールドは、最大1万2500人を収容できますが、このままいくと満席にすることは難しいでしょうね。歴史のある場所で、本当にきれいなスタジアムなので、多くの人が入れるように開催してほしいと願っていますが、実際はどこまで減らすのか分かりません。

 ちなみに、ユージーンは人口わずか17万人の小さな町です。東京とは全然違います。多くの人が町に入ることになれば、(観客の)1万2500人に加えて選手や関係者が来るので、いろいろな影響があるでしょうね。本当に田舎で、車で30分も行けば森の中に入ってしまうほど何もないところです(笑)。

「日本人選手にマラソンでメダルを取ってほしい」

モンティさんが一番楽しみにしているのがマラソン。日本人選手のメダル獲得を期待する(写真は8月5日の男子20キロ競歩) 【写真は共同】

――来年以降の国際大会の開催へ向けて、何か東京五輪から教訓となるものはあったでしょうか? また、まもなく終わる今回の五輪に期待することがあれば教えてください。

 私は今回陸上の取材のために来日しましたが、国立競技場の雰囲気はまるで劇場のようですね。照明の使い方や選手紹介の時の演出、カメラのアングルの配置などは素晴らしいですね。10年前と比べて、会場全体のプレゼンテーションがすごく進歩していますし、参考になると思います。

 この後の五輪で一番楽しみにしているのは(7、8日に行われる)マラソンです。しかし、東京ではなく札幌での開催に変更となったのは、本当に残念な判断だったと思います。もし東京で開催されていれば、東京の皆さんが自宅の窓などからレースを見ることもできたのではないでしょうか。私は19年のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)も観ていたのですが、すごく興奮しました。東京に住んでいる人全員が沿道に来たのではないかと思うくらいの応援があり、私は「東京は歴代で1位のオリンピックマラソンになる、これはすごいことになる」と、本当にワクワクしていました。パンデミックの影響で無観客となり、それは望めなくなりましたが、札幌への移転はそれとは無関係で、暑さを考慮してのものだったので、その件については大きな損失だったと思いますね。

 また、日本人選手がマラソンでメダルを獲得するところが見たいです。私は07年に大阪で行われた世界陸上も訪れていて、その大会で日本は終盤までメダルを獲得することができなかったのですが、最終日に土佐礼子選手が女子マラソンで銅メダルを勝ち取りました。ゴールインしてから立ち上がれないほどに、全てを出し尽くして頑張りました。それによって、多くの日本人にとってこの大会が持つ意味がだいぶ変わったと感じています。このメダルは土佐選手から日本国民に届けられた、プレゼントのようなものだったのです。だから今回札幌で行われるマラソンでも、その時と同じように日本人選手が国民に「プレゼント」を届ける瞬間が見たいですね。

――最後になりますが、3年後のパリ五輪に今回の経験を踏まえて期待することはなんでしょうか?

 手洗いや人と人との間隔を空けるなど、基本的な予防対策は残るかもしれませんが、もし24年にパンデミックが終わっていれば、今までとあまり変わらない方式で実施できるのではないでしょうか。03年の世界陸上でもパリに行きましたが、大会のオーガナイゼーションはしっかりしていましたし、雰囲気もとても良かったです。パーティーがすごく好きな国柄で、盛り上がる五輪になると思いますね。いずれにせよ、どんな大会になるかはパンデミックがどこまで終わっているかによると思います。

(企画協力・通訳:ブレット・ラーナー、取材・文:守田力/スポーツナビ)

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