体操団体の流れを決めた北園丈琉の覚悟「僕から新しい日本がスタートする」

平野貴也

橋本の金メダルは「死ぬほど悔しかった」

個人総合は5位に終わりメダルを逃したが、「ほぼベストを出せた」。悔しさは残るが、出来栄えには納得している 【写真:ロイター/アフロ】

――若いメンバーながら、互いが互いを認めていて、誇りを持っているというのをとても強く感じるチームですよね。

 絶対に、今の日本で一番強い4人がメンバーに入ったって心の底から言えます。しかも、全員がエースになりたいというような、今までにないチームなので(笑)。団体戦をやる上では頼もしいですし、チームの中でも良いバチバチ関係というか、助け合いながらも、互いに負けてられへんみたいな、良い雰囲気でやれていました。

――団体の後の個人総合は86.698点で5位入賞(種目別の鉄棒は2度の落下があって6位)。正直、どの程度の動きができる状態でしたか? もっと良い成績を出したかったという思いが強いですか?

 うーん、ケガの影響でまだできない技は多少ありましたけど、それ以外は、ほぼ100パーセントの準備ができていました。ひじの痛みも、それほどありません。ただ、つり輪のDスコア(難度点)が低いだけ。Dスコアを今回は落としたということが、この結果になったのかなと思います(※優勝した橋本は88.465点で1.767点差)。今、(個人総合の6種目の難度点を)34.5点でやって、86点だから、Eスコア(出来栄え点)は52点くらい。今できる、ほぼベストを出せたので、これで「悔しい」って言ったらアホみたいというか。悔しがっても意味がないというか。ただ順位が悔しいだけで、内容はスッキリしています。ここから、どんどん強くなっていきたいです。

――個人総合、一緒に出場した橋本選手が金メダルを取った瞬間の気持ちは?

 死ぬほど悔しかったですね。高校の頃から競い合っていた人ですし、勝ったことも何回もあります。身近な人が、五輪の個人総合で優勝。そして金メダル2つというのを見て、いや、僕も(場合によっては)取れていたなという思いが、本当にめっちゃくちゃありました。でも、ケガをしたからという言い訳は、絶対にしたくありません。ケガは(調整が悪かったなど自己改善できるものでなく)突発的なものだったので、実際には、悔しがる要素が一つもないです。

 でも、やっぱり勝負の世界は、結果がすべてじゃないですか。内容や過程が良くても、最後に結果を見てしまうと、悔しさが残るというか。ここに来れた、出場できたというだけでも奇跡ということを忘れがちというか(笑)。ただ、金メダルを取れなかったのは事実なので、やっぱり、何か足りなかったことがあるということ。そこは、ほんまに3年後のパリに向けてモチベーションにしたらいいと思っています。

「僕も絶対、航平さんみたいになれる」

憧れの内村航平(左端)に追いつくために。北園の視線はすでにパリ五輪へ向けられている 【写真:ロイター/アフロ】

――3年後の自分には何が必要だと感じていますか?

(清風学園高監督の)梅本英貴先生には「技術のことは言わないけど、五輪のメダリストになって、ちやほやされて、人間性を間違ってしまわないかが心配だ」と言っていただきました。確かに、これまで僕が応援してもらえたのは、清風でしっかりやってきたことを見てくれた人がいたから。そこが横着になったり、適当になったり、偉そうになったりしたら、絶対に応援してもらえなくなると思います。これからは自分がどれだけ謙虚に人間性を高めていけるかだと思っています。それが、来シーズンからのルール変更への対応とかよりも一番大事かなと思います。

――それこそ、憧れの先輩が理想的な姿を見せ続けてくれている部分ですよね。

 はい、そういうところも格好いいなと思っています。航平さんは、素で話しているときは普通の人なんですけど、何か筋が一本通っているというか。すべて、体操に捧げた人なんですけど、冗談も通じるというか、身近に見えて遠い存在です。とことんまで体操を突き詰めて、僕なんかより何百倍も考えて体操に取り組んできたのだろうなと思います。

 体操について話をしていても、僕はまだまだ甘ちゃんだなと思わされます。意識している言葉一つとっても、違うんです。航平さんが難しい技の練習をしているのを見て、「これ、足、割れないんですね」とか言うと、「いや、当たり前だろ」って。ええっ、すげえなって(笑)。当たり前の基準にしている場所が僕らとは違うというところでもすごさを感じたり、体操に対する意識がすごく高いので、遠いところに感じます。

 でも、いずれは、僕もそうならないといけない立場だと思っています。航平さんには「18歳でこんなに考えているのはすごいな」みたいなことを言われたので、僕も絶対、航平さんみたいになれるはずなので。頑張りたいと思います。

* * *

 インタビューの前後、取材の多さについての感想を聞くと「オリンピックって感じですね」とはにかんだり、憧れの存在である内村航平の話をするときには「本当に、すごいんですよ、マジで」と笑顔が止まらなかったり、まだあどけない表情も見せる。一方で、試合内容や結果を振り返るときには、目にぐっと力が入り、迫力も感じさせる。ケガの影響もある中、初めてのシニア代表で見せた活躍は驚異的。北園が持つ大きな可能性は、ここからさらに膨らんでいく。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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