サニブラウン 「衝撃の敗退」の裏側 痛すぎる経験から学んだ成長への課題

スポーツナビ

「ジョギングをしているくらいの遅さだった」

決勝進出が期待されていたサニブラウンだが、まさかの予選敗退。本人も落胆の色を隠せなかった 【写真は共同】

 サニブラウン・アブデルハキーム(タンブルウィードTC)本来の、力強く伸びていく走りを知る者にとって、信じられない光景が国立競技場のトラックに広がっていた。

 優勝を果たした2019年6月の日本選手権以来となる、200メートルのレース。「プランでは50メートルをしっかり出て、50から100メートルでペースを切り替え、ラストの直線からリズムを作っていこうと思っていた」と、久々の実戦にそなえ、頭の中でイメージを膨らませていた。

 号砲が鳴ると同時に、最初の50メートルで飛び出した。ここまではプラン通り。だが、そこからの展開は全くの“計算外”だった。「50から100でうまく切り替えられず、ラスト100メートルのところで(前に)行く形を作れませんでした」。持ち味であるはずの中盤以降の加速が、思い通りにいかない。直線に入った後も全くスピードに乗れず、ごぼう抜きされると、そこから巻き返す力は残っていなかった。「最後の100メートルは、ジョギングしてるくらいの遅さだったかな、と思います。最後は気持ちが切れちゃった部分も、少しあると思いますが……」。2組で最遅となる21秒41(追い風0.9メートル)の6着。予選落ちで、サニブラウンの200メートルは早々に終わった。17年の世界陸上(イギリス・ロンドン)では、史上最年少で同種目のファイナリスト(7位)になった男にとって、あまりにも寂しい結果だ。

 飯塚翔太(ミズノ)は21秒02(向かい風0.3メートル)で1組6位、山下潤(ANA)は20秒78(向かい風0.6メートル)で3組5位となり、こちらも予選落ちが決定。日本勢は2004年のアテネ五輪以来、17年ぶりに100、200メートル出場の全選手が準決勝に進めず姿を消した。

まさかの結果に、落胆の色を隠せず

男子200メートル予選 ゴールするサニブラウン・ハキーム(左)。2組6着で敗退した=国立競技場 【共同】

 サニブラウンはこれまで、結果にかかわらず、常に泰然自若として取材エリアに現れ、質問に答えてきた。今年6月の日本選手権決勝で6着に終わり、悲願としていた100メートルの出場権を逃した時も、「自分のできることは最大限やった結果」と、冷静に事態を受け止めていた。そんな22歳も、この日はさすがに何が起きたのかを受け止め切れなかったのか。いつものハキハキとした口調とは打って変わり、落胆の色を隠せなかった。

「いやー……。なんでこうなったか、ちょっと自分でも全然分からないですね。調子が悪かったということもないですし、レース中もプランを頭に入れて、アップ中も意識しながら色々やっていたので……。自分でもなんであんなに遅かったか分からないですね」

 日本選手権では、100メートル決勝の翌日に出場予定だった200メートルを欠場。左太ももに違和感を覚えたのが理由だった。明らかに本調子ではなかったこの日の走りを見ていると、その左足太ももなど体の不調を疑ってしまう。しかし、これについて本人は「痛いところはどこもないですし、体はフレッシュです。アップの時も『しっかり動いてる』とコーチに言われていたので、そこに関しては全然問題ありませんでした」と、明確に否定した。

 それならば、やはり大会前から指摘されていた実戦不足の影響か。カタール・ドーハでの世界陸上や、100メートルで当時の日本記録となる9秒97(追い風0.8メートル)をマークした全米大学選手権など、多くのレースをこなした19年以降、フォームの再現性を高める練習に重きを置いてきた。「やるべきことをしっかりやって、練習でしっかりやったことを出せれば、試合でも問題ない」というのが、以前から繰り返してきた22歳の信条である。20年シーズンには一度も試合に出ず、五輪イヤーとなる今年も、実戦については日本選手権を含めて100メートル4本をこなしたのみだった。

 もちろん、200メートルの代表に内定してからは、そのための準備も行ってきた。「(直前まで拠点としていた)ヨーロッパでは、200のレースを想定しながら、レイナ・レイダーコーチと相談して調整してきました。150メートルをカーブから走るのと、カーブをフルで走ったり、色々な練習を行っていました」

 サニブラウンはかつて200メートルで、前述の17年世界選手権での7位入賞や、さらにその2年前の世界選手権(北京)では弱冠16歳ながら準決勝進出を果たしており、輝かしい実績を残している。その経験をもとに、練習で磨いてきた動きを試合で再現すれば、いいパフォーマンスが発揮できると信じていた。しかし、結果を見れば、今回に関してはそのアプローチが実ることはなかった。

「練習で200を走るのと、試合で走るのとはものすごく変わってくることがありますが、練習でできていることをしっかりやればちゃんとした結果が出ていたと間違いなく思います。メダルを取るような選手になるためには、そういうところを規則的にやらなければ駄目なのかなと、身に染みて感じたレースでした」

 あまりにも痛い敗退から、成長するための大きな課題を叩きつけられた。

リレーで挽回のチャンスはあるか?

リレーメンバーに選ばれる可能性は残されてはいるが……果たして挽回のチャンスはあるか? 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 4×100メートルリレーを指揮する土江寛裕五輪強化コーチは、短距離チームが合同合宿に入った初日の取材対応で、サニブラウンに対する期待をこう話していた。

「200メートルをしっかり走れる状態であれば、ドーハのように走ってもらえるのは分かっています。金メダルを取るためには、必要なメンバーだと考えています」

 ドーハの決勝で4走を務めた時は、銀メダルに輝いたリオ五輪を上回る37秒43のアジア記録をマークし、日本の銅メダル獲得に貢献した。ただ、きょうのパフォーマンスに関しては「しっかり走れる状態」と言い難いのは事実だろう。100メートルでも日本記録保持者の山縣亮太(セイコー)、多田修平(住友電工)らが予選落ちを喫しており、各走者の配置について、土江コーチは頭を悩ませることになりそうだ。

 サニブラウン本人は、5日に控えたリレー予選に向けて「こないだのバトン練習の時も悪くはなかったので、ここから合わせていけばもっと出られるようになると思います」と、意気込みを示した。初めての五輪で味わった悔しさを、東京で挽回できるチャンスは訪れるか。

(取材・文:守田力/スポーツナビ)
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