すべて出し切るもメダルなしの瀬戸と萩野 競泳界の強化ポイントを岩崎恭子が解説

久下真以子

男子200メートル平泳ぎ決勝を泳ぎきり、すがすがしい表情を見せる瀬戸大也(左)と萩野公介 【写真は共同】

 7月30日に行われた東京五輪・競泳男子200メートル個人メドレー決勝に、瀬戸大也(TEAM DAIYA)と萩野公介(ブリヂストン)がそろって出場。日本勢による表彰台を期待されるも、瀬戸が1分56秒22で4位、萩野が1分57秒49の6位に終わり、メダル獲得には至らなかった。

 試合後の両選手はプレッシャーから解放されたのか晴れやかな表情。萩野が「順位は悪かったけど、一番幸せな五輪だった」と語ったように、小学校の頃から互いを知るライバル同士で五輪の決勝を戦えた喜びを語った。

 五輪の素晴らしさを感じさせるレースだった一方で、瀬戸、萩野ら日本のトップスイマーがメダルなしに終わった事実は見逃せない。3年後のパリ五輪での躍進を見据えるうえでも、日本競泳界全体の底上げが不可欠だ。今回は1992年バルセロナ五輪の金メダリストで、現在は競泳指導者・解説者の岩崎恭子さんに男子200メートル個人メドレー決勝のレース内容とともに、日本競泳界の強化ポイントを解説してもらった。

好レースを演じるも2個メで日本勢のメダル獲得ならず

最後までメダル争いに食い込んだ瀬戸大也。3位とは100分の5秒差だった 【写真は共同】

 男子200メートル個人メドレーの決勝は、メダルまで本当に僅差でした。瀬戸選手と萩野選手が一番悔しい思いをしていると思いますが、100分の1秒が勝敗を分ける世界なのだということを改めて思い知らされたレースでしたね。この2人だからこそ最後までワクワクさせてくれましたし、いろんな苦労を背負いながらも東京五輪にたどり着いたことを思うと、「最後まであきらめない」ことの大切さを教えてもらったようにも感じます。メダルこそ獲得できませんでしたが、レース後の力を出し切った2人の笑顔に、胸を打たれた人も多いのではないでしょうか。

 この種目では、リオデジャネイロ五輪で銅メダリストの汪順(中国)が金メダルを獲得しました。金メダル候補のマイケル・アンドルー(米国)が5位に終わり、意外な結果となりましたね。アンドルーは前半から仕掛けてくる選手ですが、一方で汪順や銀メダルを獲得したダンカン・スコット(英国)は後半の追い上げが強い選手です。彼らは瀬戸選手や萩野選手が万全の調子じゃないということも分かっていたうえで、作戦通りに展開できたように思います。「記録よりも金メダルを狙うレース」というのがしっかり出ていました。

 瀬戸選手も萩野選手も泳ぎそのものは良かったです。瀬戸選手は最初のバタフライで力まずに入っていけていましたし、準決勝と同じように後半の勝負を仕掛けられていました。大きなプレッシャーのなかで気持ち的に沈む部分もあったと思いますが、よくここまで期間中に盛り返してきました。萩野選手も得意の背泳ぎで伸びてきたし、ターンのあとの動作もすごく上手だった。自分のコンディションを自覚しながらこの種目1本に絞ったというのは、相当な覚悟も必要だったはずです。そういう状況の中で、2人ともいま出せるものをすべて出し切った泳ぎを見せてくれました。

 瀬戸選手がレース後のインタビューで「これからも競技人生は続く」と言っていたので、今後の活躍にも期待したいです。競泳のトップ選手がチーム対抗で争う「国際水泳リーグ」にも参加すると発言していますし、2022年の夏には福岡で世界選手権が行われるので、そこで活躍する姿も見たいですね。パリ五輪が行われる3年後は瀬戸選手も萩野選手も30歳になる年ですが、35歳で金メダルを獲ったアンソニー・アービン(米国)のような選手もいますので、まだまだ成長し続けられると思います。

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著者プロフィール

大阪府出身。フリーアナウンサー、スポーツライター。四国放送アナウンサー、NHK高知・札幌キャスターを経て、フリーへ。2011年に番組でパラスポーツを取材したことがきっかけで、パラの道を志すように。キャッチコピーは「日本一パラを語れるアナウンサー」。現在はパラスポーツのほか、野球やサッカーなどスポーツを中心に活動中。

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