岩隈久志、悲願の金メダルへ想いを託す 「何もできなかった」五輪からの学び
バランスの取れたチーム、稲葉ジャパンのキーマンは……
銅メダルを獲得した2004年のアテネ五輪にチーム最年少で出場した岩隈氏。日本代表への想いを言葉にした 【花田裕次郎/ベースボール・タイムズ】
実績のある選手が多いですけど、その中でも調子の良い選手も多く選ばれていて、全体的にバランスの取れたチームだと思います。今回が侍ジャパン初選出という選手たちも、ちゃんと実力を認められた上で選出された訳ですから、自分の力を信じて、堂々とプレーしてもらいたいですね。
――その中でチームの鍵となる選手、キーマンを挙げるとすれば誰になるでしょうか?
まずはやっぱり、田中(将大)投手、マー君でしょう。他の選手にはない経験値がある。周りの他の選手たちからも頼られるでしょうし、マー君自身も周りを引っ張っていってもらいたい。五輪(2008年)、WBC(2009年、2013年)の経験もありますし、メジャーでの実績も含めて、大舞台での経験が豊富な選手がチームにいるというのは大きい。僕が出場した2009年のWBCの時には、松坂(大輔)さんがみんなを引っ張ってくれましたし、僕自身も助けてもらった部分がたくさんあった。マー君にもチーム全体を引っ張っていってもらいたい。
――投手陣を見ると、当初の発表メンバーから菅野智之投手と中川皓太投手が代表辞退となり、千賀滉大投手と伊藤大海投手が追加招集されました。彼ら2人も含めて、大会へ向けたコンディション調整が非常に大事になってくると思います。
その意味では今回、日本で開催されるので、選手にとっては間違いなく調整しやすいはずです。時差もないですし、環境もそれほど変わるわけじゃないですからね。これから急に技術を上げるということは難しいので、まずは自分のできることをすること。自分の持っている力を、普段通りに出せるようにする。そのために何か特別なことをする必要はない。普段通り、しっかりと体調管理をしておけば大丈夫だと思います。
国際大会で重要な「捕手とのコミュニケーション」
アテネ五輪の予選リーグ第2戦・オランダ戦で先発した岩隈。自分の力を発揮することはできなかった 【写真:ロイター/アフロ】
普段とは違う雰囲気の中でのピッチングになるのは間違いない。でも、さっきも言ったように、そこで自分の持っている力以上のもの出そうと思う必要はない。世界の中でも日本の投手陣の実力は間違いなく高いです。コントロールが1番大事になってくると思いますけど、フォークボールなど、縦の変化というものはメジャーリーグでも有効ですし、そういうボールを投げられる投手が今回の日本代表にも多くいる。自信を持ってマウンドに上ってもらいたい。
――投手にとって「普段とは違う」という部分では、自分のボールを受ける相手、キャッチャーの存在もあると思いますが?
そうですね。投手としては、そこがすごく重要。まずは投手一人一人が、捕手といろいろ話をして、しっかりと打ち合わせをすること。チーム方針として、「この相手には、このバッターにはこうやって抑えていこう」というものはあると思いますけど、ピッチャーは人それぞれ球種も投球スタイルも違いますし、まずは「自分はこういうピッチャーなんだ」ということをキャッチャーに伝えておかないといけない。キャッチャーとの意思疎通が非常に大事になる。大会が始まる前までに、今回のメンバーで言えば、投手陣が甲斐(拓也)捕手、梅野(隆太郎)捕手としっかりとコミュニケーションを取っておくこと。捕手はいろいろと気を配って、性格も含めてピッチャーのいろんな部分を見てくれていますけど、投手の方から伝えることは、非常に大切です。
――捕手とのコミュニケーションの重要性は、岩隈さん自身が過去の国際大会で感じたものでしょうか?
2009年のWBCでは、城島(健司)さんとしっかりコミュニケーションを取ることができて、試合の中でも無駄球がなく、リズム良く投げることができた。城島さんの出すサインにほとんど首を振ることなく、阿吽(あうん)の呼吸で投げられたと思います。でも、2004年のアテネ五輪の時は、それが十分にできなかった。自分の中で遠慮があった。あの時もキャッチャーは城島さんだったんですけど、僕自身がまだ若くて、自分を出すことができず、自分がどういうピッチャーかを伝えておくことができなかった。緊張もすごくしましたけど、それ以前に自分の力を出せる準備ができていなかったということだと思います。
――それは今回選ばれた投手陣たちへのアドバイスにもなると思います。
はい。特に若い投手たちは、若いからと言って遠慮などせず、どんどん自分からキャッチャーとコミュニケーションを取って、「自分はこういうピッチャーなんだ」と伝えてもらいたい。キャッチャーとしっかりと意思疎通をした上で臨んでもらいたい。
アテネの記憶、「震えたマウンド」と「先輩たちの姿」
「アテネの経験と反省が2009年のWBCに活きた」と語る岩隈氏。東京五輪の投手陣も学ぶべきものがあるはずだ 【花田裕次郎/ベースボール・タイムズ】
先輩方が先頭に立ってチームを引っ張ってくれて、先輩方がメダル(銅)を獲ってくれた大会だったなという印象ですね。自分は何もできなかったですし、足を引っ張ってしまった。でも、自分が投げていなくても、強い想いを持って戦う先輩たちの姿を見て、日本代表のユニフォームを着て戦う意味、日の丸の重みを感じましたし、自分としては貴重な経験、良い経験だったと思います。
――2004年は近鉄のエースとして開幕から12連勝をしたシーズンでした。調子自体は良かったと思いますが?
そうですね。悪くはなかったはずです。でも、普段とは違う五輪の舞台で、その環境違いに対して柔軟に対応できなかったということだと思います。僕自身、代表チームに入ったのも初めてでしたし、日の丸のユニフォームを着るプレッシャーというものも、あの時に初めて感じたことでした。とにかく緊張したという記憶がありますね。
――アテネ五輪での岩隈さんは、予選リーグの第2戦・オランダ戦に先発しました(1回2/3を3失点で降板、試合は8対3で日本が勝利)。普段とは違う緊張感があった?
マウンドに上がった時は足が震えましたから…。今までにない緊張感がありました。もちろんどんな試合でも緊張はするものですし、いいパフォーマンスをするためには緊張することも大事なんですけど、あの時は緊張しすぎてしまった。緊張しすぎた結果として、自分の持っている力を発揮することができなかった。
――しかし、その経験が優勝した2009年のWBCで陰のMVPと呼ばれる活躍(4試合20イニングを投げて防御率1.35)に繋がったのではと思いますが?
自分の年齢が上がって、いろいろ経験を積んだということはありますけど、2004年の五輪の経験が、2009年のWBCに活きたことは間違いないと思います。ただ、WBCと五輪は別物だとも思います。WBCはメジャーリーガーも出てきますし、メジャーリーグの球場で試合をする。大会の雰囲気もぜんぜん違います。僕は出ていませんが、北京五輪をテレビで観ていても、それは感じたことですね。
メリットとデメリットを踏まえて期待すること
スポーツ専門動画配信サービス『DAZN』で放送中の『野球トレンド研究所』(毎週月曜18時配信)に出演した岩隈氏。トクサン、アニキ、ライパチと熱い野球談議に花を咲かせた 【花田裕次郎/ベースボール・タイムズ】
ドミニカ共和国と言えば野球大国。常に良い選手がいて、パワーもスピードもあって、チームとして強い。その相手に日本が、自分たちの野球をどれだけできるか。もちろん緊張感はあるでしょうけど、日本で開催しているという部分をプラスに捉えて戦ってもらいたい。初戦でどういう戦いができるかは、大きな鍵になる。
――そのドミニカ共和国には現巨人のメルセデス、サンチェスの2投手が選ばれ、他にもアメリカ代表にはマルティネス(ソフトバンク)、マクガフ(ヤクルト)、オースティン(DeNA)とNPB所属の選手が多く参戦します。これは日本にとってプラスになるのでしょうか?
メリットとデメリットの両方があると思いますけど、やっぱり相手選手を知っていて対戦したことがあるというのは、選手の立場からするとやりやすいですし、メリットの方が大きいと思います。同じように、自国開催についても、無観客ついても、メリット、デメリットの両方があると思います。ただ、日本代表のユニフォーム着て戦うことに対する気持ちは変わらないですし、プレッシャーもありますけど、日本で戦えるということは間違いなく強みです。その強みを自信にして、試合に臨むことが大事だと思います。
――現地には行けなくても、テレビの前では多くのファン、特に時差のない今大会は多くの子どもたちが侍ジャパンの試合を見て、応援することができると思います。
大会が始まれば必ず盛り上がると信じていますし、そこで日本代表が期待に応える戦いをして金メダルを獲得することができれば、子どもたちの記憶にも残るはずです。そこから「自分も将来、オリンピックに出たい」、「野球で金メダルを獲りたい」と思う子が出てきてもらいたい。そうなるためにも、子どもたちに夢を与えられる戦いをしてもらいたい。堂々とプレーして、改めて日本の野球を世界に見せつけてもらいたいですね。
(構成:三和直樹/ベースボール・タイムズ)
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