フェンシングで最注目の女子フルーレ団体 元代表選手がメンバーの特徴と素顔を解説

田中夕子

2大会連続五輪出場の西岡は「勝てるメンバーが揃った」と分析

個性派ぞろいの女子フルーレ代表メンバーの特徴について、2大会連続で五輪に出場した西岡詩穂が解説する 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 一瞬の攻防で勝敗が決まるフェンシング。東京五輪には過去最多となる、男女計6種目21名が選出された。2008年の北京、12年のロンドン五輪でそれぞれ男子フルーレ個人、団体で銀メダルを獲得した競技で、今大会最注目の種目が女子フルーレだ。

 世界ランクでも団体で5位と、メダル圏内に位置する女子フルーレ。過去最強のメンバーが揃った世界最年少のチームJAPAN、それぞれの武器や素顔、思わぬキャッチフレーズ。ロンドンと16年のリオデジャネイロ五輪日本代表で、東京五輪出場を目指し、共に日本代表として切磋琢磨してきた西岡詩穂選手が解説する。

――女子フルーレ団体出場4選手が決定しました。熾烈な競争を経て東京五輪に出場する選手を決める選考について、西岡選手はどのように受け止めましたか?

 個人としては出場がかなわず残念な思いもありますが、間違いなく言えるのは「勝てるメンバーが揃った」ということです。メンバー発表の瞬間は、それぞれいろいろな感情があって、中には涙する選手もいましたが、それぐらい必死で、熾烈な戦いだったのは確か。私自身2度オリンピックに出場し、そのたびに選ばれなかった選手の涙も見てきましたし、その悔しさ、気持ちは分かっているつもりです。選ばれた選手も、選ぶコーチ陣もとても苦しい選考だった。世界で戦うレベルの高い選手が揃っていると自信を持って言えます。

世界ランク7位の上野優佳は“反抗期”!?

西岡が「反抗期中です」と笑顔で語るのが、世界ランク7位の上野優佳。ただ、気持ちの強さはフェンシングにも生きているという 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

――まず個人戦に出場する選手について教えてください。世界ランキング順に、7位の上野優佳選手の特徴は?

 まず性格の面で言えば、根は明るい。でもものすごく気が強くて、その強さがフェンシングにも発揮されていますが、弱いところを見せるのが嫌なので、笑わなかったり、私に対してもすごく反抗します(笑)。でも根はかわいいので「私に構わないでください、放っておいてください」と言うから、「わかった、じゃあ放っておくよ」と言うと、「でもそれが一番いいかどうかは分かりません」って。照れ屋というか、あまのじゃくというか、絶賛反抗期(笑)。

 ただ、その強さはフェンシングに生かされています。ポイントを取る時の嗅覚、「ここで行ける」というところを逃がさず取りきる。その力はずば抜けていますし、とても頭のいい選手です。もともとお兄さん(男子フルーレの優斗)の影響で始め、男子と剣を交える機会が多くあったこともあり、女子選手の中でも動きがアクティブで手数が多い。迫力があって、男子に近いスタイルで戦う選手です。反抗期は反抗期ですが、それもワガママではなく、オリンピックを控えた時期は感情のコントロールが本当に難しくて、本人も毎日感情が変わるし、どうしたらいいのか分からなくなります。私も経験があるので、少しでも理解してあげたいと思っていますし、とても気になる、応援したくなる存在です。

妹・東晟良は「面白いぐらいシンプルな選手」

東晟良は人一倍純粋で、勝利に貪欲な選手だ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

――続いて、ランキング10位の東晟良選手の特徴は?

 晟良は素直です。ただ純粋にフェンシングが大好きで、だから勝ちたい。面白いぐらいシンプルな選手です。「人ってこんなに素直でいいの?」と思ってしまうぐらい、勝つことに対して純粋(笑)。フェンシングに限らず、オリンピックでメダルを獲りたいと望み、挑む選手はメダルを獲ったらこうなるんじゃないか、こうなりたい、と先のことも考えますよね。でも晟良にはそれがない。ただ純粋に、勝ってメダルが欲しい。とにかくシンプルです。

 フェンシングに関して言えば、優佳と同様、勝つために相手のここをこのタイミングで潰さなければならない、という状況を逃がさず攻める能力が非常に高いです。身体は小さいですが、スピーディでアグレッシブ。剣を置くとほわっとしていて「あれの何があれですよね」と通訳がいないと分からないような会話をする子ですが(笑)、剣を握れば負けず嫌い。私もリオ五輪の時は「日本で一番にならなければ五輪に出られない」と周りの選手とあえて距離を置いたり、練習から負けないことを常に意識することで強くなれた。優佳も晟良も、同年代のライバルとして競える相手が近くにいるのはとても大きいはずです。

優しくてしっかりした「THE長女」の莉央

晟良の姉である東莉央は、代表争いをしながらも常に妹のことを気遣っていたという 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

――次いで晟良選手の実姉、東莉央選手(世界ランク35位)が団体戦3番手、個人戦メンバーに選ばれました。莉央選手の特徴は?

 莉央は「THE長女」と言いますか、優しくてしっかりした性格です。チーム内のライバル争いをしながらも妹である晟良のことを常に気遣っていましたが、1人の選手としては先に晟良が結果を出して注目されるのは、とても辛かったはずです。2人ともずっと「姉妹で東京五輪に行く」と目標に掲げていましたが、晟良が結果を出すのに対して、莉央はなかなか結果が出なかった。でも五輪出場のポイントレースでもあった19年、プレッシャーがかかる中で一番いい結果を出したのが莉央でした。もともと頭脳派で、国際大会に出場する機会が増えたことで経験も重ね、ワールドカップやグランプリでベスト16、ベスト8と一気に壁を破った。

 もともとオリンピックは団体戦の出場枠を獲得すれば、自動的に3名が個人戦へ出場することができて、団体戦のみ出場できる1名を含む4名が選出されます。今回、日本は世界ランクで上位2名を決め、3人目、4人目はコーチが決める形だったのですが、その中で個人戦に出場する、勝てる選手として周囲を納得させる結果を出したのが莉央です。あれだけプレッシャーがある中、ポンポンポンと立て続けに結果を出し、強豪と渡り合った。誰もが納得する、文句なしの選出でした。

“笑わない女”辻すみれは流れを変える選手

ディフェンシブでトリッキーな動きが持ち味の辻は、4人目の選出枠ながら団体戦の鍵を握る選手だ 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

――では団体戦に出場する4人目の枠で選出された、辻すみれ選手(世界ランク41位)の特徴は?

 個人戦に出場できる3番目と4番目の選手選考に悩むように、団体へ出場できる4番目に誰を選ぶかというのも、大いに頭を悩ませたポイントだったと思います。その中で選ばれた辻ちゃん、彼女は世界の個人戦ではずば抜けた結果を出せたわけではありませんが、団体戦においては非常に重要な選手。何といっても、持ち味はディフェンシブでトリッキーな動きです。15点先取、もしくは3分×3セットでより多くポイントを取る個人戦と異なり、団体戦はどちらかが45点先取の勝負。個人戦以上に流れの行き来が激しく、前半大量に負けていても後半巻き返すのは可能で、その逆もあります。実際に負けている場面で何とかしたい時に、他の3選手とは全くタイプが異なる辻ちゃんが入って流れを変えるシーンが何度もありました。

 フェンシングを離れるとエヴァンゲリオンが大好きで、集合写真を撮る時も必ず「辻ちゃん、笑って」とリクエストされる、フェンシング界の“笑わない女”ですが(笑)、相手にとっては本当に嫌な存在。日本チームに勝利を引き寄せてくれる頼もしい選手です。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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