ベイスターズ再建録―「継承と革新」その途上の10年―

DeNAオリジナル醸造ビール誕生の裏側 担当者が憧れたドルトムントの「黄色い壁」

二宮寿朗
アプリ限定

球団球場一体化によって球団が主導できる形になったため、飲食改革第一弾として球界初のオリジナル醸造ビールの販売に着手していた 【横浜DeNAベイスターズ】

 野田尚志はベロベロに酔っぱらっていた。

 仕事上のつきあいでたまたま? それともプライベートで飲み過ぎた? いやいや違います。ビールをしこたま飲まなければならない理由があったのだ。

 球団球場一体化がスタートした2016年シーズン。元来、スタジアムの飲食はフェンスなどスタジアム内の広告と並び、横浜スタジアムの重要な収入源であった。つまり球団がタッチできない領域。しかしそれが一体化によって球団が主導できる形になったため、飲食改革第一弾として球界初のオリジナル醸造ビールの販売に着手していた。MD (マーチャンダイジング)部部長になった野田が、その責任者となっていた。連日の試飲が続いていた。

※リンク先は外部サイトの場合があります

 実は2年前から準備は始まっていた。池田純社長がクラフトビールの聖地とも言われるアメリカ・ポートランドに視察し、ドイツにも足を運んでいた。オリジナルビールを模索する一方で既存の大手ビール会社をないがしろにしてしまえば「継承と革新」にはならない。これまでのお付き合いを大事にしつつ、新しいものを来場客に提供したいと考えていた。

 シーズン開幕に何とか間に合わせた。

 その名も「BAYSTARS ALE」。上面発酵製法を用い、15℃から20℃で発酵させるエールビールで、フルーティーな味が特徴だ。アルコール度数を抑え、柑橘系の香りの希少ホップを加えることで女性も楽しめる味にしている。

 チェコ最大のビール審査会で金賞を受賞した地元・関内のクラフトビールブランド「横浜ベイブルーイング」に依頼。飲食企業への勤務経験もある野田は試飲して味を確認しては、微調整の相談を繰り返してきた。

「最初はもの珍しいからといって一杯は飲んでくれると思うんです。でもリピートしてもらわないと意味がないし、美味しくなければ名物にもならない。BAYSTARS ALEは香りの高い、凄く希少なホップを使って、とことんこだわりましたよ」

 スタジアム直営売店で販売を開始すると、クラフトビールブームにも乗っ掛って飛ぶように売れていく。狭いスタジアム内にビール樽の冷蔵保管という問題も、一体経営となったことでクリアできた。
  • 前へ
  • 1
  • 2
  • 次へ

1/2ページ

著者プロフィール

1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技 、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。 様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「 松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)「 鉄人の思考法〜1980年生まれ、戦い続けるアスリート」(集英社)など。スポーツサイト「SPOAL(スポール)」編集長。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント