柳田将洋も口にする「熾烈な争い」 男子バレー12名の枠を勝ち取るのは?

田中夕子

エース・石川との組み合わせで可能性は広がる

これまでと同様ならポジション2に入ると考えられる石川。エースの石川との組み合わせも選考に関わってきそうだ(写真は2019年のもの) 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 中国戦は16名、紅白戦は18名が登録されたが、単純な算数の計算をするならばここから12名に絞られると考えれば6名が削られ、ネーションズリーグからはここに石川も加わる。繰り返すようだが、ポジション争いは熾烈で個々の技術や能力、可能性もさることながら、誰がどこに入ればどんな効果が生まれ、どんなバレーボールができるか。組み合わせの妙も選考に大きく関わる。

 たとえば、前述にもあげたポジション2とポジション5に誰が入るか。一昨年までと同様に石川がポジション2に入ると考えれば、ポジション5に入る選手をより攻撃型にするか、それとも石川がサーブターゲットになるであろうことを考えれば、守備に特化した選手を対角に入るパターンも考えられるが、単に守備だけではなく前衛の攻撃枚数が2枚時はバックアタックにも常に入れる攻撃力と攻撃姿勢の高さ、サーブ力も必要だ。

 中国戦や紅白戦ではポジション2に高橋や大塚、福澤達哉(パナソニックパンサーズ)を入れる布陣も試した。実際、高橋、福澤が入れば守備力は上がり、ポジション5のアウトサイドだけでなくミドルを含め攻撃にバリエーションが加わる。しかし長年、日本代表にとって鬼門とされてきたS1でサイドアウトが取りきれず、連続失点につながるケースもあったように、長所だけでは補えない課題もある。

「すべてのポジションが熾烈」

Vリーグでチームを優勝に導いた柳田ら、経験や持ち味が日本代表に必要な選手も多い。誰もが欠かせぬ戦力の中、いったい誰が過酷なメンバー争いに生き残るのか 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 さまざまなシチュエーションやチームとしての利点を考慮し、誰を選ぶのか。長らく国際試合が遠ざかる中、初の国際試合で爪痕を残した若い3選手に注目も集まりがちだが、2017年のチーム発足時から現在に至るまでの4年、もっと言うならば2013年に東京五輪の開催が決定してから8年の経緯をたどれば、評価する基準は将来に向けた可能性だけではないはずだ、とも言いたくなる。

 年齢を重ね、コンディションの面では若手に劣ってはいても、ジャンプ力を武器に攻撃一本だったプレースタイルからオーバーハンドのサーブレシーブを磨き、五輪に懸ける並々ならぬ思いやコロナ禍のフランスで重ねた福澤の経験。勝負所のサーブや、チームをまとめる力に長け、東京五輪で日本代表が勝つために、とドイツやポーランドへ渡り、3季ぶりにVリーグへ復帰した今季、サントリーサンバーズを14季ぶりの優勝に導く原動力ともなった柳田将洋(サントリーサンバーズ)の経験。それぞれに持ち味や背景、信念があり、12名という枠があるとはいえ、現時点でも誰もが欠かせぬ戦力でもある。

 だが、それでもここから絞られていく過酷なメンバー争い。決して大げさではなく、近年類を見ないほど「熾烈な争い」と口にするのは柳田だ。

「サイドだけじゃなくすべてのポジションが熾烈な争いなので、僕自身も今出せることを出し切ることに集中しています。現実的な話として、ここから少しずつ誰かが減って削られていかなければいけない状況。そこで悔いが残らない動き、働きができればいいなと思っていますし、一瞬のこと、1プレーで転がることもあると思うので、サーブは自信を持っていかないといけないものの1つでもある。コンディションには気をつけつつ、ベストオブベスト、悔いのない状況をつくりたいです」

 アウトサイドヒッターのみならず、オポジットも西田有志(ジェイテクトSTINGS)、清水、大竹壱青(パナソニックパンサーズ)が2枠を争い、リベロも一昨年のワールドカップで活躍した山本智大(堺ブレイザーズ)だけでなく、今季初選出された小川智大(ウルフドッグス名古屋)もサーブレシーブやディグ、巧みなオーバーハンドでのセットなど、自身の持ち味を発揮し、存在感をアピールした。

 選手選考は5月28日からのネーションズリーグで最終的に行われ、すべてを終えた段階で12名を発表する、と中垣内監督も明言しているように、残された舞台はネーションズリーグのみ。限られた時間、それぞれにとって大切な1日1日を過ごした後、誰がコートに立つのか。熾烈な争いに胸が痛むが、一方では熾烈な争いを制する強者が集う、その先にある強い日本代表に胸を躍らせる。オリンピックイヤーの、争いを制するのは誰か。

 五輪までは残り74日。すべての選手がチャンスを生かし、悔いを残さず尽くせるように、と願うばかりだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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