欧州目線で考えるJリーグシャレン! 佐伯夕利子理事のシャレン!アウォーズ評
スペインで指導歴のある佐伯理事がシャレン!担当となった理由
スペインからインタビューに応じるJリーグシャレン!担当の佐伯夕利子理事 【宇都宮徹壱】
よって第2回のシャレン!アウォーズは、多少なりとも話題提供に貢献したい。そんな思いもあって今回、シャレン!担当のJリーグ常勤理事、佐伯夕利子さんにインタビューさせていただくことになった。佐伯さんは1992年にスペインに移住。翌93年からサッカー指導者の道に進み、日本のS級に相当する指導者ライセンスを現地で取得している。2003年には日本人女性として初めて、3部クラブのトップチーム監督となり、20年にはスペイン在住のままJリーグ常勤理事に就任した(今回のインタビューもオンラインで行われた)。
「理事就任が決まったあと、自分の得意分野についてのヒアリングがありました。私がJリーグでお役立ちできるところとしては、まずはフットボールの現場、そしてシャレン!ということになるのではないか、というお話をさせていただきました。逆に事業やマーケティング、財務や法務といったところには、あまり知見はありませんでしたから(笑)」
そう語る佐伯さん。2008年から12年間、久保建英も所属していたビジャレアルの育成部門で働いてきたキャリアを思えば、フットボールの現場は当然として「シャレン!」というのは少し意外に思える。そんな私の疑問に対する、佐伯さんの答えは「ヨーロッパにおけるフットボールは、105×68メートルで収まる競技の話ではないんです」。そして、こう続ける。
「つまり、そこに関わるすべての人々や社会や地域、その他さまざまなエモーショナルな部分を含めて『フットボール』であると私は理解しています。日本のJリーグは地域密着を謳っていますが、一方でフットボールと社会連携活動が切り離されて考えられがちですよね? 皆さん『サッカーを文化にしたい』とおっしゃいますが、実際にはそうはなっていない。サッカーがより良い社会、人を幸せにするための機能を果たすようになれば、『サッカーを文化にしたい』という最終目標は達成されるのではないかと思っています」
ソーシャルチャレンジャー賞は横浜F・マリノスとアルビレックス新潟
横浜FMは「【地域を応援】ホームタウン テイクアウトマップ」を展開してソーシャルチャレンジャー賞を受賞 【(C)Y.F.M】
まずはソーシャルチャレンジャー賞。こちらは横浜F・マリノスとアルビレックス新潟が受賞した。この賞の選考基準は《その地域にある社会課題解決に対してチャレンジしていること》。とはいえ、昨年は「3密回避」という絶対条件があったため、シャレン!活動は容易ではなかった。そんな中、横浜FMの「【地域を応援】ホームタウン テイクアウトマップ」について、佐伯さんの第一印象はあまり良いものではなかったという。理由は「ヒューマンリソースをかけずに行っている」と感じられたからだ。
「でも資料を読み込んでいくうちに、普段から地元のさまざまな方々にクラブが支えられているという背景があることを知りました。そしてサポーターの中から『いつもポスターを貼らせてもらっているお店が、コロナ禍で困っているから助けたい』という声が上がるようになっていったんですね。そうした声をクラブが拾い上げて、独自の発信力を使って多くの人たちに使ってもらえるような、テイクアウトマップが完成したと。こうした地域貢献というのも、とても意味があるということで評価されたんだと思います」
新潟はGKを起用して自殺予防のための啓発活動を行った。佐伯理事も「素晴らしいアイデア」と評価 【(C)ALBIREX NIIGATA】
「私たちの社会で、どうしても避けられないのが『死』と『病』。これらをテーマに取り組むというのは、ものすごくハードルが高く難しかったと思うんですが、あえてアルビレックス新潟さんが取り組んだことが印象的でした。それと『自死』という重大かつデリケートな課題に対して、本当に上手にフットボールクラブの発信力を活用できていたと思います。GKの選手を起用しての啓発活動というのも、素晴らしいアイデアでした」
パブリック賞は福島ユナイテッドFCと清水エスパルス
福島はクラブ内に農業部を創設。地元農家と一緒に「福島県産品PR・販路拡大事業」に取り組んだ 【(C)Fukushima United FC】
「福島さんの場合、シャレン!活動をきれいに整理されて、実施されている良い例だと思います。何がすごいって、クラブ内に『農業部』というセクションが創設されていることなんですね。地産地消というのを絵に描いたような取り組みだなと思っています。私が大切にしている、シャレン!の評価軸のひとつが『選手のプレゼンスがあるかどうか』。福島の場合、クラブスタッフだけでなく選手も泥まみれになって、農作物を作り販売に参加している。他クラブも真似できる、良いロールモデルでないかと思っています」