欧州目線で考えるJリーグシャレン! 佐伯夕利子理事のシャレン!アウォーズ評

宇都宮徹壱

スペインで指導歴のある佐伯理事がシャレン!担当となった理由

スペインからインタビューに応じるJリーグシャレン!担当の佐伯夕利子理事 【宇都宮徹壱】

 5月10日、2021Jリーグシャレン!アウォーズが開催され、ソーシャルチャレンジャー賞、パブリック賞、そしてメディア賞の各賞が発表された──。といっても、この話題にビビッドに反応するJリーグファンは、残念ながらそれほど多くはないだろう。シャレン!とは「Jリーグ社会連携」の略で、Jリーグが25周年を迎えた2018年からスタート。第1回のシャレン!アウォーズは昨年に開催され、私もメディア賞で審査員の末席を汚していたのだが、コロナ禍の影響もあってほとんど話題にならなかった。

 よって第2回のシャレン!アウォーズは、多少なりとも話題提供に貢献したい。そんな思いもあって今回、シャレン!担当のJリーグ常勤理事、佐伯夕利子さんにインタビューさせていただくことになった。佐伯さんは1992年にスペインに移住。翌93年からサッカー指導者の道に進み、日本のS級に相当する指導者ライセンスを現地で取得している。2003年には日本人女性として初めて、3部クラブのトップチーム監督となり、20年にはスペイン在住のままJリーグ常勤理事に就任した(今回のインタビューもオンラインで行われた)。

「理事就任が決まったあと、自分の得意分野についてのヒアリングがありました。私がJリーグでお役立ちできるところとしては、まずはフットボールの現場、そしてシャレン!ということになるのではないか、というお話をさせていただきました。逆に事業やマーケティング、財務や法務といったところには、あまり知見はありませんでしたから(笑)」

 そう語る佐伯さん。2008年から12年間、久保建英も所属していたビジャレアルの育成部門で働いてきたキャリアを思えば、フットボールの現場は当然として「シャレン!」というのは少し意外に思える。そんな私の疑問に対する、佐伯さんの答えは「ヨーロッパにおけるフットボールは、105×68メートルで収まる競技の話ではないんです」。そして、こう続ける。

「つまり、そこに関わるすべての人々や社会や地域、その他さまざまなエモーショナルな部分を含めて『フットボール』であると私は理解しています。日本のJリーグは地域密着を謳っていますが、一方でフットボールと社会連携活動が切り離されて考えられがちですよね? 皆さん『サッカーを文化にしたい』とおっしゃいますが、実際にはそうはなっていない。サッカーがより良い社会、人を幸せにするための機能を果たすようになれば、『サッカーを文化にしたい』という最終目標は達成されるのではないかと思っています」

ソーシャルチャレンジャー賞は横浜F・マリノスとアルビレックス新潟

横浜FMは「【地域を応援】ホームタウン テイクアウトマップ」を展開してソーシャルチャレンジャー賞を受賞 【(C)Y.F.M】

 コロナ禍というアクシデントがあったとはいえ、佐伯さんがスペイン在住のまま常勤理事という重責を任されているのは、現地で培ったキャリアや人脈だけが理由ではない。日本にいては気づきにくい、Jリーグの強みや違和感といったものを指摘していくのも、実は彼女に期待されているところだ。シャレン!そのものについての、佐伯さんの視点はのちほど語っていただくとして、ここから各賞の講評をお願いすることにしたい。

 まずはソーシャルチャレンジャー賞。こちらは横浜F・マリノスとアルビレックス新潟が受賞した。この賞の選考基準は《その地域にある社会課題解決に対してチャレンジしていること》。とはいえ、昨年は「3密回避」という絶対条件があったため、シャレン!活動は容易ではなかった。そんな中、横浜FMの「【地域を応援】ホームタウン テイクアウトマップ」について、佐伯さんの第一印象はあまり良いものではなかったという。理由は「ヒューマンリソースをかけずに行っている」と感じられたからだ。

「でも資料を読み込んでいくうちに、普段から地元のさまざまな方々にクラブが支えられているという背景があることを知りました。そしてサポーターの中から『いつもポスターを貼らせてもらっているお店が、コロナ禍で困っているから助けたい』という声が上がるようになっていったんですね。そうした声をクラブが拾い上げて、独自の発信力を使って多くの人たちに使ってもらえるような、テイクアウトマップが完成したと。こうした地域貢献というのも、とても意味があるということで評価されたんだと思います」

新潟はGKを起用して自殺予防のための啓発活動を行った。佐伯理事も「素晴らしいアイデア」と評価 【(C)ALBIREX NIIGATA】

 もうひとつは「守れ、ニイガタのいのち。自殺予防のための啓発活動」。自殺の危険を示すサインに気づき、適切な対応を図ることができる「ゲートキーパー」という職業を知ってもらおうというのが、新潟の試みである。そこでクラブは、所属するゴールキーパー3選手を起用。頭文字が同じ「GK」であり、なおかつ「命の門番」という役割を重ねることで、ゲートキーパーの重要性をわかりやすく表現することに成功している。

「私たちの社会で、どうしても避けられないのが『死』と『病』。これらをテーマに取り組むというのは、ものすごくハードルが高く難しかったと思うんですが、あえてアルビレックス新潟さんが取り組んだことが印象的でした。それと『自死』という重大かつデリケートな課題に対して、本当に上手にフットボールクラブの発信力を活用できていたと思います。GKの選手を起用しての啓発活動というのも、素晴らしいアイデアでした」

パブリック賞は福島ユナイテッドFCと清水エスパルス

福島はクラブ内に農業部を創設。地元農家と一緒に「福島県産品PR・販路拡大事業」に取り組んだ 【(C)Fukushima United FC】

 続いて《国や自治体が掲げる政策を活用し、地域の課題解決に向けて、多様なステークホルダーと連携し、持続可能な活動となるように取り組んでいる》パブリック賞。こちらは福島ユナイテッドFCと清水エスパルスが選ばれた。まずは福島の「福島県産品PR・販路拡大事業」。クラブスタッフと選手が地元の農家と一緒になって、農作物の育成から収穫までを行っていることが、佐伯さんにはいたく新鮮に感じられたようだ。

「福島さんの場合、シャレン!活動をきれいに整理されて、実施されている良い例だと思います。何がすごいって、クラブ内に『農業部』というセクションが創設されていることなんですね。地産地消というのを絵に描いたような取り組みだなと思っています。私が大切にしている、シャレン!の評価軸のひとつが『選手のプレゼンスがあるかどうか』。福島の場合、クラブスタッフだけでなく選手も泥まみれになって、農作物を作り販売に参加している。他クラブも真似できる、良いロールモデルでないかと思っています」

1/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント