欧州目線で考えるJリーグシャレン! 佐伯夕利子理事のシャレン!アウォーズ評

宇都宮徹壱

清水は静岡市が官民連携で始めたシェアサイクル事業にブランド協力。自転車がクラブの広告塔になる 【(C)S-PULSE】

 清水のシャレン!は「静岡市シェアサイクル事業 PULCLE(パルクル)」。こちらは静岡市が官民連携で始めたシェアサイクル事業に、クラブが「ブランド協力」するというもの。クラブマスコットのパルちゃんが描かれた自転車が、街のあちこちで利用されている風景は、想像するだけで微笑ましい。

「清水エスパルスさんも、とてもよく考えているなと思いました。シェアサイクルというのは、ヨーロッパではどの街でもありますが、基本的には行政主導でやっているんですね。そこにフットボールクラブが介入している例は、私は今まで見たことがありませんでした。聞くところによると、清水は坂道が多いそうなので、地元のニーズにもきちんとマッチしているんですよ。しかも環境にやさしいし、自転車がクラブの広告塔になるし。これもまた、良いロールモデルになっていくのではないかと思いました」

メディア賞は2年連続でガイナーレ鳥取

鳥取は2年連続メディア賞受賞。今回は「地域のガキ大将づくり『復活!公園遊び』」に取り組んだ 【(C)GAINARE TOTTORI】

 最後にメディア賞。《記者として、自身の媒体に取り上げたいと思う活動であること》ということで、ガイナーレ鳥取の「地域のガキ大将づくり『復活!公園遊び』」が受賞した。鳥取は前回のシャレン!アウォーズでも「芝生で地域課題解決!『しばふる』で街も人も笑顔に!」で、やはりメディア賞を受賞している。

「これは単に『広い空間で駆け回って遊ぼう!』という次元ではない、そこに込めている想いや意図するところがすごく深いんですよね。加えてガイナーレ鳥取さんの場合、こうしたことを18年前からずっと継続してきていることもすごい。ヨーロッパでもクラブの社会貢献の話題は耳にしますが、一過性のイベント的なものも多いんです。それに対してJリーグの『地域密着』というのは、継続性や持続性を目指しているわけで、まさにガイナーレ鳥取さんの活動がそれを具現化していると感じました。

「永続性という点でJリーグの方向性は間違っていなかった」

Jリーグ25周年を記念したイベントでの村井満チェアマンと川淵三郎初代チェアマン 【宇都宮徹壱】

 以上が、佐伯さんによる各賞の講評である。実は常勤理事になる以前から、彼女はシャレン!に関心を抱いていたという。まず驚かされたのは、Jクラブのホームタウン活動や社会連携活動の多さ。2019年には年間2万5000回以上が記録されていることを知り、「こんなすごいことをやっているプロリーグが世界にはあるんだ!」と強い衝撃を受けたという。そしてもうひとつ、彼女を感動させたのが全57クラブの多様性である。

「Jリーグは多様性を大切にしていますし、逆に多様性こそがJリーグを豊かにするという想いを持っていると思います。フットボールのスタイルでいうと、なかなか多様性が見出しにくい中、このシャレン!活動には57の色が表れていると思っています。しかも地域によって抱えている課題も違うし、それぞれのクラブも資金力やリソースが異なります。そうした違いが多様性としてきれいに出ていて、とても意義のある活動だと感じています」

 われわれサッカーファンは、長いフットボールの歴史と膨大な資金力を誇り、綺羅星のごときスタープレーヤーがしのぎを削るヨーロッパを、無自覚に礼賛する傾向がある。しかし、そのヨーロッパに長年身を置いている佐伯さんからすると、むしろJリーグのほうが優れている面も少なくないと感じているようだ。

「ヨーロッパの場合、膨大な放映権料に頼ってきたために、今回のコロナ禍でそれがいかに脆い産業だったのかが露呈することになりました。Jリーグの場合、放映権料だけに頼ることなく自分たちの手や足を使い、地域とつながるところからスタートしています。逆にそれが、今の時代は武器になっているようにも感じますね。最初からそれを見込んでいたかどうかは別として、永続性という点でJリーグの方向性は間違っていなかったと思います」

 前述したように、シャレン!がスタートしたのは2018年。提唱者は、女性最年少(就任当時34歳)として話題になった、前理事の米田惠美さんであった。公認会計士出身の彼女は、佐伯さんとは真逆のキャリア。コロナの影響で帰国が遅れたこともあり、米田さんとの間に直接的な引き継ぎはなかったようだ。にもかかわらず、ふたりの女性理事の間で、シャレン!というプロジェクトがしっかり受け継がれているのが興味深い。最後に佐伯さんに、自身が取り組むべき課題について語っていただいた。

「米田さんは大変優秀な方だったので、完ぺきなフレームワークを作っていただいたと思っています。その一方で、発信力やリソースの不足、それからマネタイズの改善など、シャレン!には解決すべき課題もあります。加えて、一方的な献身や貢献だけでは、各クラブの体力も持ちません。皆が疲弊せずに、幸せを感じながら社会連携活動を続けていくこと。それが、今後のチャレンジになると思っています」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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