島田チェアマンが考えるBリーグの未来 「良いときに構造改革をする」

大島和人

競技力での降格が廃止

番組は元サッカー日本代表の福西崇史(右)などをゲストに招き、これからの日本バスケットについて熱く議論した 【スポーツナビ】

 最大の変化が降格の廃止だ。一方で昇格制度は維持される。2026年以降は「入場者数」「売上」「アリーナ」の3条件を満たせば新B3から新B2や新B1、新B2から新B1の昇格が認められる。そして競技力を理由に降格を強いられることはない。

 2020-21シーズンは昨季の降格がなかった影響でB1が20クラブ、B2は16クラブの編成で行われている。まず気になるのが、新B1は何クラブで2026-27シーズンをスタートするかだ。これについて彼はこう述べる。

「要件を満たしたクラブが参入できる仕組みなので数をあらかじめ決めるものではありませんが、10クラブはマスト(必達目標)にしたいと考えています。18クラブくらいまで行けたら素晴らしいと思っていて、いわば努力目標です」

 2021年4月には、沖縄アリーナがオープンしている。琉球ゴールデンキングスのホームとして活用される施設で、国内トップクラスの収容規模であることはもちろん、質の部分においてもNBAに匹敵する「夢のアリーナ」が誕生した。沖縄の施設はBリーグ発足前から動いていたプロジェクトだが、他にも各地で2015年以降に撒かれたアリーナ計画の“種”が徐々に形となりつつある。

 B3に参入する長崎ヴェルカのホームとなる新アリーナや、佐賀のSAGAアリーナ(仮称)も既に着工している。この4月には、兵庫の大規模多目的アリーナ「KOBE Smartest Arena」が具体的な構想を発表した。プロジェクトの進み具合はそれぞれだが、他にも千葉ジェッツ、シーホース三河、名古屋ダイヤモンドドルフィンズなどが夢のアリーナの実現に向けて動いている。
 コロナ禍により、クラブ経営は大きなダメージを受けた。アリーナ計画の進行が遅れた例も耳にし、市長選挙の結果を受けて見直しが行われているプロジェクトもある。ただ、2021年4月というこのタイミングで島田チェアマンが強いメッセージを発したのは、条件を満たすアリーナのそろうメドが立ち、他の条件面も一応の成算があるからだろう。

 新B1が求めるアリーナの収容人員は最低5000人で、現行通りだ。その一方で質の評価が厳格になる。特に問われるポイントが運営の自由度だ。

 アリーナには「公設公営」「公設民営」といった類型がある。神戸や長崎のように「民設民営」で自前のアリーナが用意できればそれは理想的だが、やはりこのような施設の整備は自治体に頼る部分が大きい。例えばおおきにアリーナ舞洲は市が所有する施設だが、大阪エヴェッサが2015年から10年間の定期建物賃貸借契約を締結し、クラブ主導の運営を既に実現している。

B1クラスのアリーナに求めるのは「自由度の高さ」

4月には沖縄アリーナがオープン。琉球ゴールデンキングスを皮切りに各地で「夢の新アリーナ」が誕生していく 【(C)B.LEAGUE】

 島田チェアマンは新B1が求めるアリーナについてこう説明する。

「一番分かりやすいのは、自由度が高く運営できることです。平日にも試合が(毎日でも)できる状況にしたい。ある程度のイニシアチブをとって、われわれの試合が優先されるような協力関係を作るのが大前提です。コンコースの広さ、車椅子席の比率、トイレの数と細かい基準がいっぱいあります。あとは採算性を確保するためにもスイートルームも必要です。(プレー)するためだけの施設でなく観るための施設にしてほしい。沖縄アリーナが分かり易い例で、ファンが観戦体験を楽しめる施設です」

 クラブのアリーナ利用の自由度が高まり、試合を開催したい日にできる体制はプロバスケが次のステージに進む大前提だ。そうなれば日程も柔軟に組めるようになる。NBAのように毎日どこかでB1の試合が組まれている状況になれば、メディア側も露出しやすい環境になるだろう。

 日本の体育館は総じてコンコースが狭く、グッズ販売や飲食の提供の制約となる。またハーフタイムにトイレに大行列ができる、後半開始に間に合わないような施設では、ビールを買う時間が確保できないし、そもそも飲む気も起こらないだろう。

 客席のどこからでもコートやビジョンがしっかり見える。Wi-Fiに快適に接続できて、バスケットLIVEで気になる場面を見返せる。各席にドリンクホルダーがあって、飲み物をうっかりこぼす心配がない。Bリーグが提唱する夢のアリーナを言葉にするなら、そういう施設だ。
 もっとも新型コロナウイルス感染症のまん延がクラブ経営、アリーナ計画にどのような影響をもたらすのかといえば、それは未知数だ。今回の将来構想には、まだかなり高いハードルが残っている。特に新基準アリーナの確保はクリアが困難な一方で、決定的に重要な条件だ。島田チェアマンはいう。

「『4000人』『12億円』『アリーナ』と言っていますが、今の目標の2026年にそのようなアリーナで試合ができる状態にするのが一番高いハードルです。一番重要視をしているのもアリーナです」

 新B1の参入は2027年以降も可能で、いわゆる閉鎖型のリーグとは違う。ただ、新B2はおそらく新B1に比べて集客が難しいカテゴリーになる。昇格へのロードマップが見えず、投資の意欲が落ちる、アリーナ整備の機運が萎むことも懸念されるポイントだ。

 ハードルは「クリアできるギリギリ」に設定できれば理想だ。そうなればクラブやスポンサー、自治体などのもう一歩の努力を引き出し、リーグの価値を上げる呼び水にできる。しかしクラブを振り落とす方向に機能してしまうと、リーグの価値は落ちかねない。「努力したが(売上や入場者数、アリーナの完成が)ギリギリで届かなかった」クラブをどう扱うかは、ファンも気になる部分だろう。

 島田チェアマンは述べる。

「ちゃんとリーグの価値を作るためのセーフティーネットは考えています。アリーナ機運を醸成しているときに、それを断ち切りたくない。でも経営がルーズになっても困るし、ファンの皆さんが危機感を持って応援しているのに『まだ時間があるね』となっても困るのです」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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