桃田賢斗、「五輪で金」の道はつながった 2021年の次なる課題とは?

平野貴也

「ホッとした気持ちが7割、嬉しい気持ちが3割」

12月末、全日本総合バドミントン選手権で11カ月ぶりに実戦復帰した桃田。果たして今の桃田の状態はどうだったのか 【写真は共同】

 桃田が帰って来た。

 11カ月ぶりの復帰戦で全日本3連覇は、さすがとしか言いようがない。決してパーフェクトな試合内容ではないが、それでも勝ち切る王者の強さは、見事だった。

 バドミントン男子シングルス世界ランク1位の桃田賢斗(NTT東日本)が第74回全日本総合選手権(2020年12月22〜27日、町田市立総合体育館)で3連覇を飾った。「11カ月のブランク」は、単に試合から離れたわけではない。2020年1月にマレーシアでの国際大会を優勝した翌日、運転手が亡くなるほどの交通事故に遭って負傷。帰国後にはシャトルが二重に見える症状が出て、右目の眼窩底(がんかてい)骨折が発覚し手術。ようやく復帰に向けて動こうとした頃には、新型コロナウイルスのまん延によってBWFワールドツアーが中断し、復帰の場がなくなっていた。

 2021年に延期された東京五輪の金メダル筆頭候補として、少しでも早く実戦復帰を果たして調子を取り戻したい時期に、我慢に次ぐ我慢を強いられた。そのプレッシャーは大きかったはずだ。桃田は、安堵(あんど)した表情で復帰戦の手応えをこう語った。

「ホッとした気持ちが7割、嬉しい気持ちが3割。コツコツと積み上げてきたものをコートで出していくスタイルなので、ある程度、結果を出してから自信が付いていく。久しぶりの試合で1球1球が不安で、この大会では、一度も(自分に)王者としての風格を感じられなかった。でも、今回、優勝できて、次からは堂々とプレーできるかなと、今は思います」

復帰戦で見えた桃田の現在地

離脱前のパフォーマンスと比較して、決して良い出来ではなかった桃田。スピードを上げるプレーに課題を残した 【写真は共同】

 多くの人にとっての関心は、事故や手術で長く実戦から離れた桃田が、東京五輪の金メダル筆頭候補としての力をキープしているかどうかだ。キープしていると言い切れるパフォーマンスだったかと言われれば「ノー」である。

 桃田は、ブランク前との比較について、試合展開の違いを挙げた。

「(久々の実戦で)ショットの精度に自信がない分、ギリギリを狙うのではなく、相手に強打されないところに(シャトルを)運ぼうとする展開が多い。以前は、相手のウイニングショットを引き出して、それを返して、自分の得意パターンに持っていって、相手の打つ手をなくすようにしていた。今は、ウイニングショットを打たれないようにしていて(フットワークの)スピードを上げられなかったり、思うように主導権を握る展開ができていない」

 では、元の強い姿に戻れそうにないのかと言うと、それも「ノー」だ。

 プレーのパフォーマンスで気になったのは、大会を通してフットワークのスピードを異様なほど抑えていたことだ。桃田は元々、スロースターターで、第1ゲームのインターバル(21点ゲームの11点目)までは、スピードを上げずに相手の様子を見て試合を組み立てるタイプ。しかし、この大会では試合終盤までスピードを上げない試合が多く、試合を視察した日本代表の朴柱奉(パク・ジュボン)ヘッドコーチが「スピード面では、ちょっと足りない。1月のタイでの国際大会(タイOP、2021年1月12〜17日)では、もっとスピードを上げないとダメですね」と指摘したのも、納得できる話だった。

 桃田本人もスピードを上げた状態でプレーしている時間が短いことは、自覚している。1ゲーム目を奪われた決勝戦で逆転勝ちを収めた後で「(最後は)フルスピードで動こうとプレーしたのが良かったかなと思いますが、それだけ余裕があるなら、1、2ゲームでもっと出せよという感じなんですけど、思い切っていけない気持ちの弱さが、5試合を通して良くなかったところかなと思います」と分析した。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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