桃田賢斗、「五輪で金」の道はつながった 2021年の次なる課題とは?

平野貴也

良い課題の見つけ方をした

国内では圧倒的な力差があるが、課題を確認しながら実戦ができたのは良かったとも言えそうだ 【写真は共同】

 心身の課題でスピードを上げられないのだとすれば、大きな課題だ。しかし、朴ヘッドコーチは、合宿で動きを見ている限り、フィジカル面の問題はないという認識を明らかにした。スピードは「上がらなかった」というより、「上げなかった」という表現が的確かもしれない。

 桃田は、6月にオンラインの取材に応じた際、復帰戦に向けて不安に思うポイントを「試合勘」だと語っている。

「相手との駆け引きもそうですし、海外の大会は風があるので、そういったところに対応できるか。相手と対峙(たいじ)した時に強い気持ちを持ってスムーズに試合を進められるかというのが、一番不安な部分かなと思います」

 試合勘を構成する大きな要素である“駆け引き”をするため、コントロールを重視した結果、スピードの調整は多少苦しんだという印象だ。

 準決勝を勝った際に、桃田は「意識しているのは(配球を相手コートの)四隅に散らしていくこと。相手の読み(予測)をどれだけ外せるかを考えながらプレーしていました。(プレーの判断は)多少は良くなっていると思いますけど、打ってはいけないコースに打って、簡単に決められてしまうことが多かったので、そこはまだ(相手の動きを)感じることができていないなと思います」と話していた。

 桃田のように大会を勝ち続ける立場になれば、1回戦の第1ゲームからフルスロットルでプレーするというわけにはいかない。必要なときに、必要なだけスピードを上げ、試合展開と体力をコントロールしなければならない。フィジカル的なスピードを上げることはできるが、効果的に上げることは難しい。そういう意味でのスピードが「上がらない」のであり、スピードそのものが出ないわけではない。

 実際、2回戦と決勝戦では、桃田よりハイペースでプレーした相手に第1ゲームを奪われたが、終盤のスピードアップで勝利につなげた。特に決勝戦は、世界ランク11位の常山幹太(トナミ運輸)が相手で、ファイナルゲームの終盤まで競る形になり、スピードを落としたまま優位に進めるというわけにはいかなかったが、それでも最後は余力を残していたスピードの違いを見せつけて、粘る相手を振り切った。

 最もレベルの高い国際大会で、2019年に年間91.8%という驚異的な勝率を誇った桃田と、国内の選手とでは大きな力量差がある。その中で、桃田がフィジカルの能力を最初から開放して圧倒してしまえば、勝てたとしても課題を見つけることができなくなる。それよりも、よほど良い課題の見つけ方をした大会だった。

東京五輪で最強を証明するために――

1月にはタイで国際大会に臨む予定。2021年、桃田は「最強の証明」のため、歩みを止めない 【写真は共同】

 次の課題は、スピードを上げて戦ったときに、どうなるかだ。相手の動きを見られるか、駆け引きができなくならないか、コントロールが落ちないか、メンタルや体力はキープできるか。

 スピードを上げた状態での動きに自信を持てるようになれば、相手の強打をネット前にコントロールし、体勢の崩れた相手に球を下から拾わせて逆襲するという桃田の必勝パターンが蘇る。

 1月にタイで開催予定の国際大会3大会では、世界のライバルを相手に、これらの課題に取り組むことになる。まだ試運転の状態で全日本3連覇を果たした桃田。「次は、海外の選手とやっとできる。自分の力がどこまで通用するか、日本のエースの自覚を持って挑んでいきたい」と意気込む。

 復帰戦のコートで見せたプレーそのものは、まだ最強王者のそれではなくても、頂点に立つ男の歩みを続けていることは、その過程と結果で示した。世界で勝つ桃田へ、東京五輪で最強を証明する桃田へ――大丈夫、道はつながっている。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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