群雄割拠の男子100mを朝原宣治が解説 桐生の勝因、五輪代表争いの行方は?
異例なシーズンの日本選手権を戦う意味
右から2位のケンブリッジ、3位の小池、5位の多田。ゴールは横並びの接戦となった 【写真は共同】
小池選手は今シーズンあまり調子が上がらなくて、「大丈夫かな」と思っていたんですが、ここに来てちゃんと合わせてきましたね。トップとも0.03秒差ですし、そこまで迫ってきたのはすごいですね。多田選手もしかりです。飯塚(翔太)選手はベテランらしく4位にしれっと入ってきましたね(笑)。200メートルが本職の選手なので、やはり後半に強いですよね。200メートル予選を走った後の決勝だったので、体力的な負荷はあったと思うのですが、意地というか、ベテランの味を見せてくれました。
――小池選手は去年9秒台を出すなど大ブレークしましたが、今年は本調子を出せないレースが続いていましたね。
まだまだ9秒98を出した時のように、正確に速い動きをするというレースにはできていないと思います。今回は結構強引に持っていって3位になった形でしたが、出力がようやく高まってきたという印象です。
強い選手はしっかりと本番に向けて仕上げてきますし、決勝でもちゃんと戦えていたので、みんな実力をつけて100メートルのレベルを上げていっていますね。
――優勝タイムは例年に比べると遅かった印象がありますが、そこについてはどう見ていますか?
1つの要因は気温の低さだと思います。予選と準決勝のインターバルが長かったので、それによって体が動かなかったのかなと見ていました。決勝はもしかしたら変わるのかなと思っていたんですが、タイムとしてはもう少し欲しかったかなと思います。これに関しては、いろいろな気象条件なども関係してくるので、分からない部分はありますね。
――今大会は直接的に東京五輪の選考に関係するわけではなく、選手としては位置づけが難しかった印象もあります。
すでに五輪の標準参加記録を上回っている桐生選手や小池選手は、「今シーズンは捨てて来年に向けての準備に充てる」という選択肢もあったと思います。ただ僕の持論では、選手としては1年のどこかでピリッとした動きをしておかないと、次の年に悪影響がある可能性も出てきます。なので、特に何かにつながらなくても通常のシーズンのように「日本選手権はしっかり戦おう」と思って準備してきたんでしょうね。
サニブラウン、山縣の今後は?
日本選手権を欠場した、日本記録保持者のサニブラウン。来年の東京五輪代表の有力候補 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
本来、今年がオリンピックイヤーで、そこに向けた冬季練習は気持ちを込めて積んできていたと思います。この短いシーズンでそれをいったん出してみて、仕上がりを確認したんですよね。そこで課題を見つけて、今年の冬はさらなる調整をしていくと思うんですが、海外のさらにレベルの高い選手たちとは走っていないので、修正点を見つけきれないという難しさはあると思います。
ただ、オリンピックに向かう気持ちというのは、4年に1回ということもあって、ものすごい消費をするんです。それを「もう1回やろう」というモチベーションが出てくるまでは、オフにしっかりとリラックスしなければいけませんね。優勝後のインタビューでも言っていましたが、桐生選手は本当にオフを楽しみにしていると思います(笑)。モチベーションの維持に加えて、怪我をしないための調整というところが大切ですね。
――来年の東京五輪に向けて100メートルの選考争いについては、今回参加しなかったサニブラウン選手と山縣選手も加わってきます。
サニブラウン選手は今季の試合に出ないという選択をしたので、これがどう来年に影響するかですね。コーチも以前師事していたレイナ・レイダー・コーチに戻しているので、環境の変化もあります。来年は室内シーズンくらいから実戦で試しながらやるのかもしれません。どちらにせよ、彼が強い選手であるということに変わりはないですね。一番期待が高い選手だと思います。
――山縣選手は今シーズンも怪我の影響で思うような結果が出せませんでしたが、来年に向けてどのような期待をしていますか?
山縣選手は僕が個人的に応援している選手でもあります。桐生選手と同様に、日本のスプリント界を引っ張ってきた選手ですし、探求心が高い。「もう駄目かもしれない」という逆境に何回も立たされながら、不死鳥のように蘇ってきた選手ですので、「今回もまた復活してくれる」と期待しています。今年はほとんど走れなかったので心配です。でも、みんな「山縣なら」と信じていると思いますよ。リオデジャネイロ五輪の時もそうでしたが、怪我をしてからオリンピックイヤーに鮮やかな復活を遂げているので、1年ずれた来年に力を合わせてくれると思います。
(取材・文:守田力/スポーツナビ)