サイドアタッカーの出現は進化の証し C大阪ロティーナ監督が見た日本サッカー

小澤一郎

日本サッカーは成長しているのか。Jクラブを率いて4年目を迎えるロティーナ監督に聞いた 【(C)J.LEAGUE】

 スペインの知将ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督が率いるセレッソ大阪が好調だ。監督就任2年目となる今季、チームはアグレッシブなサッカーを展開して上位につけている。昨季5位のC大阪は今季それ以上のステップアップが期待されており、まずは上々の前半戦となった。これも指揮官の手腕の賜物(たまもの)と言えるだろう。

 そのロティーナ監督の目に、現在の日本サッカーはどう映るのか。来日4年目を迎え、指導法に変化はあるのか。また、日本サッカーは成長しているのか。日本人のメンタリティーについて……。ロティーナ監督には3年前にもインタビューを行っている。当時からの進化を聞いた。(取材日:9月14日)

久保はもう少し様子を見るべき

――9月13日に行われたビジャレアルとウエスカのラ・リーガ開幕戦で、久保建英と岡崎慎司による日本人対決が初めてピッチ上で実現しました。スペイン人監督から見ても、これは日本サッカーにとっての新たな一歩と言えますか?

 はい。ラ・リーガはもちろん、プレミアリーグ、ブンデスリーガのように欧州の重要なリーグで日本人選手がこれだけ多く活躍することは数年前までは考えられなかった。少し前まで日本人選手はまだまだエキゾチックな存在として欧州でよく知られていなかった。日本人の活躍が欧州で当たり前になっている現状というのは、日本サッカーのレベルアップを示している。

――ビジャレアルに移籍した久保、彼の適正ポジションをどう見ていますか?

 彼は昨季、マジョルカで大きな飛躍を遂げた。特に後半戦は出場時間も増え、それに伴い個の質の高さを披露した。まだ19歳だが精神的に強く、ピッチで表現していくための精神的成熟すら感じる。ポジションは、マジョルカでやっていた右サイドが個人的には気に入っている。

 ただ、ビジャレアルには前線に良い選手がそろっており、ウナイ・エメリ監督は各選手の適正ポジションを探っている段階だ。まずはビジャレアルとしてのプレーモデルがあった中で、少しずつ時間をかけて選手のポジション適正を見つけていくはず。右サイドにはサムエル・チュクウェゼというタレントもいる。私の好みは右サイドだが、久保は中央でもプレーできるし、選手の組み合わせも重要なのでもう少し様子を見るべき。

指導法はロティーナが日本に合わせるべき

ロティーナ監督が心掛けてきたのは、日本に合った指導法を確立すること。決してスペインのやり方を押し付けない 【(C)J.LEAGUE】

――日本で4年目を迎えていますが、これまでの日本での3年をどう総括しますか?

 いつも言っているが、日本サッカーのレベルの高さに驚かされている。技術、フィジカル面でのレベルが高く、戦術面でも最近は向上している。その意味ではトレーニングのやり方が進化しているのだろう。技術、戦術を切り離した練習ではなく、相互作用をもたらすように技術、戦術、フィジカルの3要素がすべて組み込まれた練習が主流となりつつある。ピッチ外での食事面での管理やメディカル部門の充実も見られるようになってきた。

 例えば、私が東京ヴェルディに来た1年目のプレシーズン初日、選手たちはスパイクではなく、トレーニングシューズを履いてグラウンドに出てきた。選手たちは「2週間はボールなしで走る」と思っていたようだが、それはスペインで30年前にあった古い考え方。もちろん、プレシーズンのある時期においてフィジカル面強化のためにボールを使わないメニューはあってもいいが、技術、戦術の要素を入れながらもフィジカル面の強化を図る練習は可能。さらにフィジカル面についてはGPSなどテクノロジーの進化と導入によって、より具体的な数値として扱えるようになっている。

――昨季からセレッソ大阪を率いてJ1を戦っていますが、J2とJ1の違いは?

 多くの違いは感じないが、選手の質の違いは存在する。基本的に良い選手はJ1でプレーしている。もちろん、J2にも将来性ある若いタレントがいるが、チームとしての選手層、レベルを見たときには選手の質に一番の違いがある。ただ、J2には戦術面で特徴のある監督が多く、J2の戦いは熾烈(しれつ)を極める。上位に入れるような予算や選手層を誇るチームが中位以下の順位で終わることもよくあり、J2はとても厳しいリーグだ。

――J1に上がったことで、試合への準備やトレーニングで変えたことはありますか?

 ない。スペインから日本に来た当初は多少やり方を変えたが、日本の中では指導のやり方を変えていない。日本に来てからは日本の良い部分を活用した指導にしている。スペインから来た監督だからといって、「スペインのやり方はこう」と押し付けるようなことはしていない。重要なのは日本の選手やファンの特徴を見極めた上で、日本に合った指導法を確立すること。日本がロティーナのやり方に合わせるのではなく、ロティーナが日本の特徴、文化に合わせるべき。C大阪でもそのやり方でうまくいっている。

――そこはとても興味があります。スペインで500試合以上の指揮、実績を持つ名将でもあるあなたのような監督がなぜ日本に来て、日本の文化に合わせようと適応できるのですか?

 いくつかの理由がある。まずは日本に来る前にカタールでの経験があったこと。スペインとは全く異なるメンタリティーを持つ国での指導歴があったので、日本に来たときにはその必要性が分かっていた。それからカタールで知り合った右腕のイヴァン・パランコのような優秀かつ、日本での指導歴あるコーチを自分のそばに置けたこと。彼はバルセロナアカデミー福岡校で3年間指導した実績があり、日本人のメンタリティーもよく理解している。当時から日本語も多少理解していて、彼の存在は来日当時の私には適応への大きな助けとなった。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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