高校生たちへ、大迫・桐生・寺田が団結 オンラインで議論「陸上で新しい形作る」

構成:スポーツナビ

今、困っている高校生にアドバイス

時に厳しく、特にやさしく、インターハイがなくなった高校生たちへメッセージを送った大迫(写真は東京マラソン=代表撮影) 【写真は共同】

――代替大会の有無だったり、9月入学のニュースなんかもありましたが、振り回されちゃってる子も多いですよね。気持ちの切り替えはすごく難しいという声が挙がっているみたいです。大迫選手、気持ちの切り替えに困ってる高校生たちにアドバイスできることがあればお願いします。

大迫 日本にいて特に思ったんですけど、情報が多すぎて一喜一憂してしまってモチベーションを上げるのに苦労している印象を、SNSを見ていて受けるんです。実際、必要なことってシンプルで、陸上を大学以降も続けたいっていう人はトレーニングを続けていくべきですし、練習ができない理由を探すのは簡単で、そういう人って多いと思うんですよ。ただ、他の種目は分からないけど、長距離だったら朝早くロードに出て、インターバルだってできるし、それがダメなら夜遅くだってできるし、できることは探せる。まず陸上続けていく人にアドバイスとして言うんだったら、「やれることはやっておいた方がいいよ」だと思います。自分自身が高校生の時もそういうタイプの選手だったので、やれることを探してやっていたと思いますし、逆に今、状況を言い訳にして走らない選手が多くなってると思うんですけど、そういう選手を追い抜くチャンスだと思えばモチベーションアップには困らないんじゃないかなと思いました。

 捉え方次第だと思うので、できない理由を探すんじゃなくて、どうやったらできるんだろうって探すことが今の高校生に大事なんじゃないかと思っています。

――ここから徐々に始めるならどこから始めていけばいいのですかね? 長距離選手に向けてどんなことがありますか?

大迫 1つ喝をいれるなら「今始めてる時点で遅いよ」ってところですかね。やっぱりしっかりした選手はこういう自粛の中でもやれることをやっていて、そういう選手は焦る必要もないですし、質の高いポイント練習をしっかり走れると思うんですよ。ただ、今こうやって焦っている選手に、唯一アドバイスできるとしたら、「現状を受け入れて1から下地からつくっていくしかないよ」という現実を知るしかないのかなと。少し厳しいかもしれないですけど、そういうことが言えると思います。

――日本の高校生だったり、選手っていうのは、情報に過敏に反応してるっていう印象ですか?

大迫 そうですね、いろいろメッセージとかも来るんですけど、外の誰かがやってくれることを求めるんじゃなくて、自分が何をしたいか、どうしたら自分を高められるかというところに集中しなければならないんじゃないか。もちろん僕らができることはやってあげたいですけど、それ以上に高校生、選手自身でやれている人はできていると思うんです。もうちょっと自分を高めるために努力するというベクトルでもいいのかなと思います。

――大迫選手が将来的に指導者になる道も考えているということで、「今後考えていることもたくさんある」とよく目にするんですけど、そういった観点からはいかがですか?

大迫 これはたくさんの人ってことではないですけど、トップを狙いたい選手たちには、僕がいるアメリカの環境は良いって分かったので、アメリカへの道を作ってあげたいっていうのもありますし、今まで特に長距離界っていうのは、オプションがなかったというか、選択肢がなかったと思うんですけど、これからは第二の選択肢っていうのを作っていけたらなとは思っています。

 例えば中学から推薦で高校に行って、高校から推薦で大学に行って実業団に行くっていう中にあまり選択肢がなかった。自分の後悔もあるので、僕がアメリカに出たことによって、例えば高校からアメリカに行く選択肢が作れたら面白いと思うし、大学から競技をアメリカにしに来たっていうのも作れたらいいのかなって。それは陸上競技だけじゃなくて、大学卒業して陸上をやめるってなっても、社会人としても生きていく力をつけることにつながるんじゃないかなと思います。

――今の高校生たちに向けて、「どんなことができる」また「一緒に考えていこう」という意味では、どんなことがしたいですか?

寺田 まだ集まって何かをするっていうのは難しいと思うんですけど、ただこうやって3人含めて高校生たちもみんなオンライン上で集まって、練習会みたいなことはできると思いますし、なんだったら私たちがやっているきつい補強だったり、トレーニングをみんなで苦しんでやる、やってもらうっていうのは楽しくできると思います。一方的ではなくて双方向でコミュニケーションを取りながらできる何かっていうのがいいなって。

 私たちが監視じゃないですけど、画面上でみながら「〇〇君、ちょっと膝あがってないですよー」みたいな感じで(笑)。私、桐生くんに注意されたら、「ヤバイ頑張ろう」ってなりますもん(笑)。

――双方向のオンライン練習会っていうのは良いですね。桐生選手どうですか?

桐生 それこそやりたいことで、できる範囲とできない範囲があったとしても中高生とみんなで話あったりするのはいいかなって思う。今SNSがあって良いこともあれば、中高生からくる質問が雑すぎたり(笑)。考えていない質問が多いのもどうかなと思います。
 例えば、「どうやったら足速くなります?」とか(笑)。小学生だったら分かるんですけど、高校生がそれをいうと「何を聞いてるんだろう」って思っちゃう。「練習しろよ」って答えてほしいのか、こっちから練習の具体的な内容を伝えるために、「僕は身長が〇センチで、こう言う感じなんですけど……」っていうのをまず自分から伝えてほしい。

 僕らも100パーセント指導者じゃないので、失敗するかもしれないですけど、あまりにも今は失敗したらダメっていう中高生が多すぎるかなって思っていて。そんなにみんなを責めないですし、失敗しないでくるっていうのも陸上生活で面白くない、自分もよく怪我をする選手だったからこそ、今気をつける部分も増えているので、中高生と一緒にポジティブに挑戦していくっていうのをやりたいですね。さっき寺田さんの言ってたオンライン練習会っていうのも、「無理」って言う子も出てくると思うんですけど、それもまた一つの挑戦じゃないですか、そういうのをみんなでやれたらいいなって。

――大迫選手も言われませんか? どうしたら日本記録が出ますかとか?

大迫 めっちゃ言われますね(笑)。僕は自分でアプリをやってるんですけど、なんかそう言う質問が多いですよね。ちょうどこの間、質問に答えるっていうのをやったんですけど、そういう質問はバッサリ斬りました。「それは練習してくださいよ」みたいな感じで(笑)。

 オンラインも良いと思いますし、みんなでやるっていうのも良いと思うんですけど、まず誰のために自分たちが力を注ぐのかっていうのを決めないと。高校生としての物語を奇麗に見せて感動のストーリーで終わりたい、みたいなことに僕は協力するつもりはなくて、陸上界を良くするために本気で速くなろうとしている人たちのために、僕はサポートできたらいいなと思っていますね。ターゲットを決めて、本気の人たちの声を聞いていくというのは今後必要になってくるかなと思います。

――10月に日本選手権が開催予定です。他の中高生、U-20(日本選手権)、U-18(日本選手権)が秋以降にできそうです。それを目指すのでしょうか?

寺田 そうですね。10月半ばの全国大会に向けて、みんな取り組んでいくと思いますが、その前に地域の予選会が行われると思います。そこに向けて(準備したい)ですね。私たちトラック&フィールドも10月1〜3日に日本選手権があるので、その間にいくつか試合に出ると思いますし、私たちもそこに向けてやっていく形です。

――そこに付随して、この企画をやっていくとしたら、新しい大会もありえますか?

寺田 やりたいよね!

大迫 U-20出場に標準(記録)があると思うので、記録を切るために記録会をやってもいいと思いまし、いろいろできることはあると思います。

ポジティブに考えれば可能性は広がる

――種目が皆さん違いますし、オンライン練習でそれぞれの選手でやってほしい、見てみたいものはありますか?

寺田 私はスタートがヘタくそなので、桐生くんが何考えているのか、一番気になっています。私はいくつか考えて走っている、練習もレースも。レースになると、主観的に努力値が高くなるので、いくつも考えて走れないんで、大事なポイントを2つとか絞って、ここはこういう動きをしたいを守って、ルールを決めて走っています。桐生くんは考えて走っているので、何を考えて練習しているのか、局面局面でどういうポイントを持っているのか。

 大迫くんは、私は長い距離が苦手。短距離なので、呼吸を忘れるんです。80メートルくらい走った時に苦しいって瞬間があります。長距離の選手はずっと走っているので、呼吸を大事にしているように見えるんです。大迫くんが東京マラソンで淡々と走っていて、奇麗に呼吸して走っているように見えて、どうやって考えているかって思っています。すごく個人的ですが(笑)。

桐生 レース中は考えているんですが、前日練習、当日練習が大事で、この場面ではこう体を使おうと思っています。スタートだったら、膝やかかとの出具合などを考えています。

大迫 呼吸はそんなに意識しないですね。逆に短距離の人が、100メートルとか走りますが、考える暇がないというか。マラソンだと考え方がゆっくり。その感じで走ると、考える時間がないじゃんと思う。あんな短い時間で考えているんですね。すごいな。

寺田 2時間、何を考えているの?

大迫 前半はあまり考えていない。東京マラソンは30キロ過ぎに銀座を通って、ちょうど僕が離れたところです。あの時は当日夜にお寿司(すし)屋さんに行く約束をしていたので、「この辺のお寿司(すし)屋さんに行くんだ」って考えながら走っていました。

寺田 余裕もっているんだね!

――レース以外のことも考えられるんですね。

大迫 マラソンは長いので、途中で集中が切れることはあります。

――桐生選手から大迫選手に聞きたいことは?

桐生 批判じゃないですが、長距離ってダラダラってなるんですか? 短距離みたいに補強とかじゃなく、体を温めるためにいろいろ走るじゃないですか。

大迫 体を温めてから(練習を)やるのが染みついているかな。あと、走行距離が大事で、1週間にどのくらい走ったかを稼ぐため、足づくりのため、走っている部分もあるのかなと思います。ポイント練習、ワークアウトの前に10キロとか、13キロ走ってから、200(メートル)を20本、400(メートル)を20本やって、ダウンで10キロ、13キロ走ってとか(笑)。

――聞くだけで疲れちゃいますね(笑)。そのあとに筋トレとかやるんですか?

大迫 週2〜3回やっていますね。

――ウエートトレーニングは高校時代から取り組んでいましたか?

桐生 ちょっと(だけ)。

寺田 ちょっと(笑)。

桐生 僕はベンチプレスをやったことがない。

大迫 高校の時は腹筋・背筋とか簡単なコアトレーニングくらいで、アメリカに来てからガッツリウエートトレーニングをやるようになりました。

――最後に一言ずつメッセージをください。

大迫 コロナの影響でみんなが大変な思いをしていると思います。その中でどう自分が強くなれるかを考えて、みんなで乗り越えていければ、その先にみんなが見たことのない結果や成長が待っていると思います。みんなで頑張っていきたいという思いです。

桐生 (仲間たちに)コロナウイルスの影響で直接会うことができない、中高生や陸上をやっている人たちがいると思います。そういう時こそ、みんなでメッセージを取り合って、こういう目標でやっていきたいなどを(話をしてほしい)。仲間たちがいたり、1つの目標があると楽しいことが増えていくと思いますし、今自分ができることを、できるだけポジティブに考えていければ、いろいろな可能性が広がると思います。

寺田 本当に誰も通ったことがない道を、今みんなは通っているので、不安になることは多いと思うんですが、みんな1人じゃないです。困っている、大変な思いをしているのは1人じゃないので、ぜひみんなで手を取り合って頑張って、孤独を感じることもないと思います。いろいろなことに挑戦できる期間だと思って過ごしてほしいです。もちろん(この配信を見ている人は)陸上をやっている子、先生が多いと思いますが、陸上のほかにも興味あることがいくつか見つけたと思うので、自分がどんなことに興味があるのか、やっぱり陸上が大好きなのか、いろいろなことを考えて、新しい自分を作っていってほしいと思います。

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