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新たな形で戻ってきたブンデスリーガ
ドイツ人サポーターが抱くそれぞれの思い

とあるシャルケサポーターの見解

ドイツではレストランやパブなどの営業が再開されたが、ソーシャルディスタンスを保つように促されている
ドイツではレストランやパブなどの営業が再開されたが、ソーシャルディスタンスを保つように促されている【Getty Images】

 実はヴィルヘルムさん(通称ヴィリーさん)の出身地はノルトライン=ヴェストファーレン州のルール地方で、本人は生粋のシャルケサポーターだ。したがって、彼が再開初戦のゲームで最も注目していたのは“宿敵”ボルシア・ドルトムントとの『レヴィアダービー(ルールダービー)』だった。


「この時期にブンデスリーガを再開することについては賛成だよ。ブンデスリーガでは選手やスタッフからも感染者が出たけれども、それでもしっかりと検査をして、その後の隔離措置なども施している。今回の再開に際しても、かなり厳しい管理体制を敷いて試合を運営するから、十分にウイルス対策が施されているとも思う。ドイツでは日常的に行動制限の措置があるけれども、スーパーマーケットなどの食料品を売るお店は以前から営業を続けていて、そこで働く店員などは感染のリスクが生じながらも仕事に従事されていた。それを考えれば、そのような人々のほうが感染のリスクが高かったわけで、今回のブンデスリーガの再開でドイツ全体にウイルスの感染リスクが高まるとは思えないよ。また、サッカークラブは選手以外にも、コーチングスタッフやクラブで働く社員なども賃金を得なければならない。これはサッカークラブに限らないことだけど、いつかは経済活動を再開させなければならないわけだから、その意味でもブンデスリーガの再開は自然なことだと思う」


 ヴィリーさんはフランクフルトの法律事務所のパートナーとして働く弁護士だ。したがって、自らの職業とも大きな関わりがある経済活動への関心度は高く、その見地からも今回のブンデスリーガの再開について率直な意見を述べてくれた。


「ガイスターシュピール(無観客試合)については、仕方がないと思うよ。さっきも言ったように、細心の注意を払って試合を運営するためには80,000人もの観衆が集まる環境は今の段階ではありえないからね。やはり感染のリスクを最小限に抑えるのが絶対条件だから、その意味では、ブンデスリーガが無観客試合で開催することについても、特に反対する理由はないよ」


 そう言ってはみたものの、実際にテレビでドルトムントとシャルケのダービーマッチを観戦している中で、ヴィリーさんが思わずつぶやいたことがある。


「やっぱり、お客さんがいないダービーっていうのは、ちょっと違和感があるよね。静かすぎるもの(笑)」


 一部のサポーター組織は無観客での試合開催について異議を唱えている。観衆のいないスタジアムに熱狂的な空間は生まれない。『コロナ後』の世界を生き抜くために試行錯誤は続くが、それでも一般的なサポーターは最近はやりのオンラインでの交流を通して関係性を保ち、新たな応援のスタイルを模索しつつある。

ガイスターシュピールを終えて

フランクフルトvsメンヘングラードバッハ。無人のスタンドでプレーする選手たち
フランクフルトvsメンヘングラードバッハ。無人のスタンドでプレーする選手たち【Getty Images】

『レヴィアダービー』は前半の段階でホームのドルトムントが2点を決めてリード。シャルケ・サポーターのヴィリーさんはだんだん不機嫌になって「今日のシャルケは全然駄目!(1トップのベニト・)ラマンはまったく良いプレーができていないよ。まったく、どうなっているんだよ!」と不満を漏らしている。テレビを通したゲームに臨場感がなくても、サポーターの熱い思いは不変だ。


「ガイスターシュピールは実力のあるチームの方が有利かもしれないね。観客がいると、その雰囲気も相まって拮抗(きっこう)したゲーム内容になることがあるけれども、そのような外的要因がない場合は実力相応の結果になるのかもしれない。まあ、これは負け惜しみだけどね(笑)」


 後半開始早々にドルトムントのトルガン・アザールが3点目をマークした直後、ヴィリーさんはそう言って「楽しくない!」と叫んだ。


 結局、ドルトムントとシャルケのブンデスリーガ史上96試合目のダービーマッチは4-0でホームチームが勝利した。これにより、双方のリーグでの通算対戦成績はドルトムントの34勝30分け32敗となった。


 それから1時間後、アイントラハト・フランクフルトとボルシア・メンヘングラードバッハのゲームが始まった。試合は10分が経過する前にホームのアイントラハトが2失点。息子が熱狂的なアイントラハト・サポーターであるヴィリーさんは、またしてもため息をついて「今日は最悪な日だよ」と漏らしている。ハーフタイムに入ると、ヴィリーさんが観戦仲間のヴェルナーさんへ電話して会話を交わしている。


「調子はどうだい? アイントラハトは最悪だね」


 良い機会なので、純然たるアイントラハト・サポーターのヴェルナーさんにも今回のブンデスリーガ再開についての意見を聞いてみた。


「自分は、今季のリーグをここで終わらせて、9月から新たなシーズンを始めたほうが良かったと思っているよ」


 第25節を終えた段階でのアイントラハトの順位は12位。ブンデスリーガ2部との入れ替え戦に回る16位フォルトゥナ・デュッセルドルフとは勝ち点6差で、残留争いに巻き込まれそうな状況にある。うがった見方をして、ヴェルナーさんに『アイントラハトが降格しなくてもよくなるから、このままシーズンを終えた方が良いのでは?」と聞くと、彼は毅然(きぜん)とした態度でこう返した。


「そんなことはないよ。やっぱり僕は、ガイスターシュピールをよく思っていないからね。例えば9月まで待てば、たとえスタジアムの半分の集客しか許されなくてもサポーターが見る形で試合が開催される可能性もあるわけだよね。そうであるならば、僕は観客が入る形での試合開催のほうが良いと思っている」


 リーグ再開初戦のアイントラハトは上位のメンヘングラードバッハに1-3で完敗。翌週の月曜日に50歳の誕生日を迎えるヴィリーさんは前言を撤回するかのように「やっぱりガイスターシュピールには反対!」と叫んで、片手に持っていたワインを飲み干した。


 今回、ブンデスリーガは有料ペイテレビの『Sky』が協力する形でブンデスリーガ1部のゲームを無料で放映することになった。さまざまな制限を課せられる新型コロナウイルス流行の最中で、スポーツが果たす役割とは何なのか。その答えはすぐに導き出されないかもしれないが、それでもこの時期のブンデスリーガ再開はドイツの一部の人々にとって、抑圧されていた生活から抜け出す、ひとつのきっかけになるのかもしれない。

島崎英純

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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