フランス首相の発言から急転直下 リーグ・アン中止まで「3日間の顛末」

木村かや子

運命の4月30日、LFPはすべてを一気に決めた

7位でシーズンが打ち切りとなり、欧州カップ戦出場を決められなかったリヨン。納得の行かないオラス会長は訴訟を起こすと発言している 【Photo by Getty Images】

 運命の日は、朝にラジオインタビューに答えたスポーツ大臣ロクサナ・マラシナヌのコメントから始まった。

「スポーツの決定機関は責任ある行動をとるべき。演説で首相が発したシグナルは明瞭だったと思う。(中略)反論し合ってもことが難しくなるだけ。いまや財政対策など必要ないくつかのこと、新シーズン(の準備)に取り組まなければならない」

 そんな中LFPは、午前中にリーグ中止による財政的ダメージを分析する会議を開始。皆が固唾をのんで待つ間に、仏『レキップ』紙は、午後に予定されていたLFP取締役会は5月4日となり、この日にはリーグ打ち切りの是非は決まらず、最終順位の決定については、5月半ばのLFP総会(ほぼ全プロクラブの代表が参席)で決められる、と推測するニュースを流している。ところがその数時間後、『LFP取締役会が、リーグ打ち切りを可決』、という号外が流れた。情報は混乱していたが、リーグの行方を決める取締役会議は、当初の予定通り4月30日午後に行われていた。

 それから30分もしないうちにLFPは公式HP上で公式声明を発し、『リーグ1・2の今季打ち切り決定』を正式に告知。それだけでなく、5月半ばのLFP総会で決められると信じられていた最終順位を、獲得勝ち点を試合数で割って出す、『パフォーマンス指数』によって決めるということ、それに伴い、パリ・サンジェルマン(PSG)がリーグ1優勝者となり、降格2クラブ・昇格2クラブでプレーオフなし(従来なら1部18位と2部3位がプレーオフを行う)の形をとる旨、そしてリーグ1・2の19-20年シーズン最終順位までを、決定事項として、一気に発表したのである。PSGはこれで一部リーグ3連覇、クラブ史上9度目の優勝となった。

 ちなみにリーグ1は28節までを終えていたが、ストラスブール対PSGの28節のみが新型コロナウイルス感染拡大を理由に延期されていたため(ストラスブールは早い時期に感染者を多数出した最初の町の一角だった)、最終順位を全クラブが試合を終えた27節終了時点とするか、28節終了時点とするか(PSGとストラスブールが1試合少ないが、両者のランキングには大きな影響はない)、あるいは獲得勝ち点を試合数で割って厳密な指数を割り出すかで、別の論議が巻き起こっていた。このいずれの案でも1〜4位(PSG、マルセイユ、レンヌ、リール)の順位、また降格する19、20位に変わりはないが、EL出場権を意味する5、6位に変化が出る。

 27節で切った場合、5位はリヨン、6位はモンペリエとなるが、28節で切れば5位はスタッド・ランス、6位ニースとなり、リヨンは7位と欧州圏外に。採用されたパフォーマンス指数では、同点の場合、直接対決の結果が第一に考慮されるため、ニースが5位、スタッド・ランスが6位、リヨンはやはり7位となった。なお、パフォーマンス指数では、同点の場合、最初に考慮されるのは2つの直接対決の結果だが、対決が1度しかなかった場合には、得失点差で優劣が決められることになっていた。

23歳MFが重体に、選手たちに広がった不安感

 4月30日は、怒濤(どとう)の1日だった。恐らくLFPは、首相の発言からの2日間に逆巻いていた議論と混乱を治めるため、迅速にことを明確にさせることが必要だと感じたのだろう。

 実際この発表で過熱していた混乱は鎮まり、各クラブがそれぞれの仕方で、この決定を受け止めた。チャンピオンズリーグ(CL)出場権を得られることになった2位のマルセイユは即座のコメントを避け、2日後にやんわりと喜びに言及。CL予選出場の3位のレンヌも静かに満足感を語るに留め、ぎりぎりで降格を逃れたクラブも同様だった。

 いずれにせよ、クラブ、リーグには大きな財政的打撃があったものの、選手の中にはほっとした者が多かったのでは、という印象を受ける。再開されていれば残り10試合は間違いなく無観客となる。テレビ放映権のために再開できたほうが好ましかったとはいえ、やはり観客あってのサッカーだ。そして何より、この一連の騒ぎの数日前、23歳のモンペリエ選手、ジュニオル・サンビアが新型コロナウイルスに感染して重体となり、呼吸確保のため喉に管を通し、治療のため人工的に昏睡状態に入れられているという事実が発覚。若いアスリートもが重体に陥ったことにショックを受けた多くの選手たちが、練習再開に懸念を示していた。

 マルセイユの酒井宏樹は、リーグ打ち切りが決定したあと、他の多くの選手たち同様、「若いから、年配の方だから、という話ではない。目に見えない未知のウイルスである上、ワクチンや効果的な薬が今のところなく、感染のリスクが高い中、リーグ再開は難しいのではと思っていた」と、安堵の気持をもらしていた。

 フランスではドイツなどと比べ、コロナウイルスの感染を調べる用具、検査施設ともに不足しており、症状が重い者しかテストを受けられない。5月4日の時点で確認された感染者は、仏政府の発表では13万1863人(別ソースでは+3万とも)、死者は2万5000人を超えている。リーグが再開となった場合、選手に頻繁にテストを行うことが提案されていたが、医療関係者や具合の悪くなった一般人がテストを受けられない中、サッカー選手に多くのテストを行うというのは世間からひんしゅくを買うのではないか、という声も上がっていた。

リヨン会長「パリ行政裁判所に上訴する」

 こうして混乱にはひとまず終止符が打たれたが、まだ諦めていない会長たちもいる。19位、20位で降格が決まったアミアンとトゥールーズの会長は、決断が公式となるや、法廷に訴え出る意図を示唆。特に欧州カップ戦出場権を逃したリヨンのオラス会長は、決定直後からほとんど半日ごとに、訴訟を起こすとの宣言や、リーグは打ち切りを性急に決めすぎたという非難など、様々な声明を発し、リーグ中止の決定を覆そうともがき続けている。

 実際オラス会長は5月7日、テレビ出演の際に、「パリ行政裁判所に上訴することを決めた。目的は金銭的なことではない」と明かし、「まずは、(リーグ)活動再開が可能かを調査してほしいと頼んだ。第2の上訴は、リーグ中止の条項とランキングの計算法に関するものだ」と説明している。世論一般は、「往生際が悪い」「見苦しい」と、かかなりオラス会長に厳しいが、本人は全く引く様子を見せない。

 LFPとFFFは、20-21シーズンを遅くても8月22、23日の週末に開始したいとし、可能であればペンディングとなっているリーグカップ(PSGvs.リヨン)、フランスカップ(PSGvs.サンテティエンヌ)決勝を行いたいと願っている。つまりリヨンには、リーグカップ優勝により地力でヨーロッパ・リーグ行きを狙う小さなチャンスも残されている。一方ニースは5月4日、新シーズンのための練習を6月15日に始めると早くも発表した。

 この休止期間の間に、元マルセイユ会長パプ・ディウフが新型コロナウイルス感染による呼吸器の疾患で亡くなり、やはり感染したスタッド・ランスのクラブ医師が自殺する、という悲しい出来事が起きていたことも、忘れてはならないだろう。幸い、モンペリエのサンビアは、現在快方に向かっているという。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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