連載:「Sports assist you」仕掛け人の証言

「未来のためにどう行動するかが大事」 浅野拓磨が考える、今だからできること

島崎英純

元気が出るような動画を投稿

浅野「何かの充実感が得られたら、一日の過ごし方が変わってくる」 【写真:ロイター/アフロ】

――今回、浅野選手はJFAの連載企画『Sports Assist You』に動画を提供してくださいました。この企画に賛同された経緯をお聞かせください。

 ヨーロッパ各国で新型コロナウイルスの感染が深刻化してきた時期に、日本代表のスタッフの方が立ち上げる形で、海外でサッカーをプレーしている選手たちのグループができて、その場で、「何か、僕たちでやれることを」という話が出てきました。そこで、最初は学校が休校になってしまった日本の子どもたちに向けて室内でできる宿題を出したり、元気が出るような動画を送ろうということになりました。今では選手個々がJFAへ動画を提供したり、自身のSNSで発表したりするようになっています。また、プレー動画だけではなく、各自コメントなども寄せたりして、さまざまなアクションを起こしています。

――選手同士、相互に連絡を取り合ったりもしたのですね。

 そうですね。代表で共にプレーした選手たちを中心に、SNSなどを通じて今でも連絡をし続けています。

――動画撮影はどのように行っているのでしょうか?

 僕は今、一人暮らしなのでスマートフォンを固定させて自撮りしています(笑)。そして簡単に動画編集作業もしています。ユーチューバーがやられているようなことですよね、これ?(笑)。僕も一応YouTubeのチャンネルがあるので、そこにも動画をアップしています。
――浅野選手は、部屋の中でもできるリフティングなどの動画をアップされていますよね。

 この時期に僕らができることは、子どもたちに対して、「このような時でも夢に向かって成長できるんだよ」という道筋を照らしてあげることだと思うんですね。それが本当に自分のためになるのかは分からないですけども、将来各々が振り返った時に、「このときに行動したことが今に生きている」と思うことができたら、それは有意義だと思うんです。今はウイルスの感染を防ぐために外出が制限されて、友達と遊べず、集団でスポーツをすることもできない。ただ、そんな中でも何かの充実感が得られたら、一日の過ごし方が変わってくると思うんです。それが僕たちが子どもたちに発信していることの根底にあると同時に、それは僕自身に対して問うていることでもあります。

――他の選手とのコミュニケーションはどのように取っているのでしょう?

 基本的にはSNSのグループで会話したり、チャットする形ですね。皆が連絡を取り合うということでもなく、僕などは他の選手たちがチャットで会話している様子を見ているだけということもあります。そんな中でも(原口)元気くんと(香川)真司さんとはよく連絡を取り合いますね。ふたりには僕がドイツでプレーしていたときにお世話になったので、近況を聞きあったりしています。「大丈夫ですか?」とか、「どんなトレーニングしています?」とか。そもそもドイツのブンデスリーガは元気くんが所属するハノーファーの選手から最初に感染者が出て、そこからリーグが中断になりました。僕も以前にハノーファーに在籍していましたから、とても心配でした。

今は自分のやれることに邁進してほしい

――新型コロナウイルスに対して、今の浅野選手の思いは?

 本当に難しい状況ですよね。言い方は少し悪いかもしれませんが、今は映画の世界にいるような感覚に陥っています。ただ、僕のようにヨーロッパで暮らしている人は、その世界を現実的に捉えているようにも思います。その結果、一人ひとりの行動が大事だと心の底から思える。周りのために行動することが、最終的に自分のためにもなる。それを感じるからこそ、外出制限なども厳密に守ろうという意識になるんですよね。だから今は公園を走るときも、できるだけ人との距離を開けようとしていますし、帰宅したら手洗いとうがいを徹底して行っています。

 先日、日本も地域によって緊急事態宣言が発令されました(編注:16日に対象地域を全国に拡大)。それは感染者数の増加に対応したものだと思うのですが、この新型コロナウイルスに立ち向かうために、できることは何でもしようと思っている僕としては、今の日本の状況を少し異質に感じます。もちろん国の法律や文化、経済事情など、さまざまな要因があるので簡単に比べられないことも承知しています。もし僕が日本にいたとしたら、日本の状況を受け入れて生活しているとも思いますしね。ただ、僕が今住んでいるセルビアは感染者が100人に満たない時期から外出制限を発令して約1カ月が経過しています。ヨーロッパ各国の新型コロナウイルスへの危機感は、やはり相当なものなのだと実感しています。

――外出制限が窮屈に感じることはありますか?

 目の前のことしか見えていないと窮屈に感じるかもしれませんね。また、経済活動の停滞はウイルスが収束した後に深刻な事態を招く可能性があることも理解しています。だから軽々しくは言えないのですが、今は未来のためにどう行動するかが大事だと思うんです。

 サッカーの世界でも我慢の時期があって、僕のような選手はそれを乗り越えた先に未来が見えるという思いを日常的に抱いてきました。だからこそ、現実の今の世界の状況と、必ず訪れる明るい未来を率直に思い続けることができるのかもしれません。もし、これから3カ月間、外に出ることができなくなっても、その先の何十年という人生につながると思えれば、制限を課せられる期間を短いものと捉えられる。夢や目標を持つことで、今の困難から脱却する動機を生めるという思いでいます。

――最後に、ファンへメッセージを。

 今、新型コロナウイルスの影響で苦しんでいる方が数多くいらっしゃるかと思います。そんな中で将来の夢や目標が霧で曇ってしまっている方もたくさんおられるかと思うのですが、それは決してなくなってしまったわけでもないと思うんです。ただ、いつかその霧が晴れたときに、その準備を重ねていなかったら、夢や目標が遠ざかってしまう。

 霧で曇っている時期にこそ、自分のやれることに邁進(まいしん)してほしいと願っています。それは僕自身も同じです。視線を常に夢や目標に向けながら、それを叶えるために目の前の困難を乗り切る。大変な時期だからこそ、そのような思考を持つことの大事さを、僕自身も痛感しています。だから皆さん、一緒に頑張りましょう。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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