憶測で不安煽るのではなく、正しい説明を コロナ禍におけるリスクマネジメント
なでしこジャパンのリスクマネジメント
3月のなでしこジャパンアメリカ遠征には土肥医師も帯同。リスクマネジメントを徹底した 【Getty Images】
遠征に関しては、なでしこジャパンが出発する前に、リスクマネジメントをどうするか、未成年の場合には保護者に対しての案内をどうするか、こういう取り組みをしましょう、という話し合いは、医学委員会、帯同する先生たち、スタッフの中で、すでにされていました。女子の場合は、この後にいくつかの大会や遠征がキャンセルになりましたが、この時はまだ開催国のアメリカ本土にコロナの感染がほとんどなく、逆に「来ないでくれ」と言われる心配をしていました。
――この時、アメリカはインフルエンザが流行っていましたよね。
そうなんです。当初、私はアメリカに行く予定ではなかったんです。この大会は例年だと、メディカルスタッフは整形外科医一人、トレーナー2名のチーム編成で行くんです。ただ、今回は日本から行くということで、新型コロナを疑われ、飛行機に乗れないなどの突発的なアクシデントがあってはいけないということと、インフルエンザへの感染の懸念があったので、直前に内科系ドクターの追加帯同が決まりました。
――現地で各国メディカルが集められて、主催者側から諸注意などはあったのでしょうか?
特になかったですね。海外の先生とも接する機会はなかったです。ただ、選手たちの握手が、手を握ってというのでなく、ハイタッチでもなく、腕どうしをエックスにさせる「エルボーバンプ」というヒップホップ的なものになりました。初めから決められていたかは分かりませんが、大会が進むにつれて広まりました。
――日本への帰国は、世界保健機関(WHO)がパンデミック宣言を出した後です。
ギリギリのところで行って、ギリギリのところで帰ってこれた、そんな感じです。数日間でアメリカも欧州も大きく変わりましたから、感染拡大が早い印象です。今のところ選手もスタッフからも、感染者は出ておりません。これはきちんとしたリスクマネジメントの結果だと思っています。
(構成:スポーツ企画工房)
国立スポーツ科学センター・スポーツメディカルセンター副主任研究員。医学博士。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。1991年、千葉大学医学部卒業。医師国家試験合格後からスポーツドクターを目指す。放射線診断学専門医として大学病院に勤務するかたわら、スポーツドクターとして主にサッカーの仕事に携わる。2006年より国立スポーツ科学センターに籍を置き、スポーツドクターに専念。トップアスリートの健康管理、臨床研究およびオリンピック、アジア大会、男女サッカーワールドカップ等に帯同。日本オリンピック委員会(JOC)医学サポート部会員、日本サッカー協会(JFA)「医学委員会」委員、アンチ・ドーピング部会長、アジアサッカー連盟(AFC)「医学委員会」副委員長、国際サッカー連盟(FIFA)「医学委員会」委員、国際オリンピック委員会(IOC)「スポーツと活動的社会委員会」委員ほか 。近著に『サッカー日本代表帯同ドクター』(時事通信社)。