MLBが迎えた史上最大級の危機 日本人メジャーリーガーは困難な調整へ

杉浦大介

答えの見えない疑問が山積み

投手として復帰を目指す大谷(写真左)ら日本人メジャーリーガーにとっても難しい調整を強いられる 【写真は共同】

 誰もが経験したことのない状況下で、田中、ダルビッシュ有(カブス)、前田健太(ツインズ)のようにメジャーで実績ある日本人選手たちでも調整は極めて困難なはず。だとすれば、投手としては故障明けの大谷翔平(エンゼルス)、さらには今季からメジャー入りした筒香嘉智(レイズ)、秋山翔吾(レッズ)、山口俊(ブルージェイズ)といった選手たちの難しさは察して余りある。調整の難しさは日本人に限った話ではなく、アメリカ人選手ももちろん同じ。ただ、住居、練習場所の確保まで含めて、今春、外国籍の選手たちは特に大きな難題を抱えたといって良いだろう。

 ただ、巨大な闇に包まれたような現状では、どんな調整が難しくとも、選手たちもとにかくシーズンが救われてほしいと願っているのかもしれない。これ以上被害が広がることなく、なるべく早く通常に戻ってほしい。それはもちろんファン、メディア、関係者も同じ思いである。

2001年の米同時多発テロ事件以降、初めてニューヨークで行われたメッツ対ブレーブス。8回に飛び出したピアザの逆転ホームランは、ニューヨーク市民に勇気を与えた 【Getty Images】

 これまでアメリカにおいて、スポーツは災害時でも人々の心の拠り所になってきた感があった。全米が混沌(こんとん)とした現在の空気感は、2001年9月11日の米同時多発テロ事件直後を彷彿とさせる。あの悲惨なテロの後も、アメリカでは1週間も経たない9月17日に公式戦を再開。事件の現場となったニューヨークでも21日にはゲームが行われ、それに対する批判の声など、ニューヨーク市内にはほとんどなかったように記憶している。

 テロ勃発後初戦のメッツ対ブレーブス戦では、8回裏にマイク・ピアザがすでに伝説となった特大逆転ホームランを放った。そんな名シーンに震えるとともに、スポーツが文化として定着したアメリカの底力を感じたものだった。

 ただ……ウイルスという目に見えない敵の前に、今回ばかりは米スポーツ界も対抗策が見つけられていない。関係者の誰もが少なからず無力感を感じながら、行方には答えの見えない疑問が山積みだ。

 2020年のレギュラーシーズンはいったいいつ開幕し、何試合が行われるのか? 7月のオールスターゲームはどうなるのか? ワールドシリーズの挙行は11月に持ち越されるのか? さらに先まで見据えると、来春に開催予定のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)にも影響が及ぶのか……?

 全世界の他のスポーツと足並みを合わせ、ナショナル・パスタイム(国民的娯楽)は史上最大級の危機を迎えているのだろう。1つだけはっきりしているのは、今季がさまざまな意味で歴史的なシーズンになるということだけである。

2/2ページ

著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント