20歳日本のエースは小さな枠に収まらない 無名からMVPへ西田有志の成長を追う

岩本勝暁

ベテランからも厚い信頼

チームとしても初のVリーグ栄冠、西田はMVP、日本人選手初の得点王にも輝くなど大きな飛躍を遂げた 【写真は共同】

 ジェイテクトSTINGSが、日本代表の戦い方に近かったことも西田にとっては幸運だった。以下、Vリーグが開幕した頃の西田のコメントである。

「ワールドカップはすべての試合でダメなところがありました。それをどう捉えるかは自分次第。日本代表のフィリップ(・ブラン)コーチからも、『日本のバレーは海外に比べて高さは劣るが、だからと言って下に打っていたら国内の枠に収まってしまう。世界のプレーヤーになりたいなら、コースの打ち分けや考える能力を身につけなさい』と言われました。状況が悪い時にブロックアウトやリバウンドを取るなどバリエーションを増やすことを意識しながら試合に臨んでいます。どこが相手でも、自分をもっと追い込んでプレーの質を高めていきたい」

 もちろん一人で勝てるような簡単な相手は、Vリーグに存在しない。

 全員でつかんだ勝利だった。たとえば、ファイナルの勝敗を分けた第3セット。劣勢の場面で投入された31歳の袴谷亮介がサービスエースを決めた。西田の控えに回るオポジットは今シーズン、ずっと好調を維持していた。思えば、フルセットにもつれ込んだ12月のJT広島戦も、途中からコートに入ってチームの雰囲気を変えている。

 袴谷の言葉だ。

「30代に入ってから緊張がなくなり、試合でも練習と変わらない精神状態でプレーできるようになりました。今シーズンの西田は安心して見ていられます。ワールドカップで活躍してからは、よほどのことがない限り崩れない。もちろん、常に万全というわけでもありません。だから、自分はいつでも同じようにプレーできる状態を作っておき、たとえコートに立てなくてもチームを盛り上げられるように後ろからバックアップしていきたい」

 感情をコントロールする上で、主将の本間隆太らベテランの存在も欠かせない。ギリギリで第4セットを失い、気持ちの切り替えは決して簡単ではなかった。本間が言う。

「西田選手がちょっとムカついていたので声をかけながらやっていました(笑)。確かに、気持ちはすごくわかる。だけど、彼がすべての責任を背負う必要はないし、チームとして戦わなければいけません。第5セットは、うまく切り替えられたと思います」

8月の東京、世界から喝采を浴びる日が来る

昨秋のワールドカップに続き、8月の東京でも世界から喝采を浴びる日は来るか 【写真は共同】

 それに対して、西田も「キレてましたね」と屈託なく笑う。

「第4セットの終盤に2回連続でミスをして、それがセットを取られるポイントになった。『(自分に対して)何をやっているんだ』という状態でしたが、チームメイトのみんなが声をかけてくれて、一人にならない状態を作ってくれました」

 勝って泣き笑い。重圧から解放された瞬間、西田は赤くなった目頭を指先で何度も拭った。歓喜の輪に包まれ、ともに戦ったチームメイトと抱擁を交わした。そして、無人のスタンドに向かって、とびきりの笑顔を見せた。

「こういう大きなタイトルを獲るのは、人生で初めて。このチームで勝ちたいという一心でした。やり遂げたという気持ちがあのような(涙という)形になったのだと思います」

 無名の存在から、文字通りの下克上を遂げた。

 だが、二十歳になったばかりの日本のエースは、小さな枠に収まらない。この男なら、何かやってくれそうな気がする――。

 そう。たとえ8月の東京で世界から喝采を浴びても、もはや少しも驚くべきことではない。

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著者プロフィール

1972年、大阪府出身。大学卒業後、編集職を経て2002年からフリーランスのスポーツライターとして活動する。サッカーは日本代表、Jリーグから第4種まで、カテゴリーを問わず取材。また、バレーボールやビーチバレー、競泳、セパタクローなど数々のスポーツの現場に足を運ぶ。

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