パラ陸上界のホープ・石田駆の野望 東京で金メダル獲得後、インカレ出場狙う

瀬長あすか

頼りになった恩師の存在

石田は昨年6月に初めてパラ陸上の日本選手権に出場。400メートルでT46クラスの日本記録を更新 【Getty Images】

 再び立ち上がった石田は、陸上の練習に復帰する。術後半年後から少しずつ体を動かし、昨年2月に本格的な練習をスタートさせた。

 このとき頼りになったのは、岐阜聖徳学園高校時代の恩師・高木先生だ。片腕の可動域に制限が残っても、どのようにすれば以前のような走りに近づけられるか。恩師は親身に話を聞き、肩甲骨を使ってバランスを取るフォームを一緒に考えてくれた。

「先生が『いつでも来いよ』と言ってくれたので、心強かったですね。いまも月に一度、先生に会いに行きますが、先生たちの異動の少ない私立高校だから卒業生でも訪ねやすい。障がいを負う不幸はあったけど、大学も含めて自分が選んできた進路は本当に正しかったなと思いますね」

 自宅のある岐阜から2時間近くかけて大学に通う。部活には指導者がおらず、400メートルはブロック長を務める石田が中心となってトレーニングメニューを計画する。もちろん練習計画はオフも大切にして疲労を残さない考え方の高木先生に影響されており、それゆえ復帰に向かう期間も自分のペースで焦らず取り組むことができたのだそうだ。

 そんなトレーニングの甲斐もあり、4月の復帰戦からまずまずのタイムを記録した。好感触を手にした石田はその勢いのまま記録を縮めていき、6月に初めてパラ陸上の日本選手権に出場。400メートルでT46クラスの日本記録を更新し、7月に地元・岐阜で行われたジャパンパラでも100メートルで11秒18の日本新、400メートルで49秒89の日本新(当時)をマーク。

「東京パラリンピックで世界記録を出して金メダルを獲得したい」。世界選手権行きを決めた新星を囲んだ報道陣に堂々と宣言した。

健常のときの自分を超え、より高い目標へ

健常の頃に出したタイムを超えれば、東京パラでメダル圏内。それだけでなく、腕の手術をする前に設定していた日本インカレ出場も視野に入れている 【瀬長あすか】

 現在の400メートルの“パラベスト”は11月の世界選手権で記録した49秒44。高3のときに出した“生涯ベスト”48秒68を突破すれば、東京パラのメダルは手の届く位置にある。もし自国で開催されるパラリンピックに初出場してメダルを取ることができれば、大健闘と言えるだろう。

 しかし、石田がより高いところに目標を掲げるのには理由がある。腕の手術をする前に設定していた日本インカレ出場という目標があるからだ。

「自分の中ではパラで世界1位のブラジル人選手(フェレイラ・ドス・サントス)を抜くことが、インカレの出場標準記録である47秒20突破を目指すこととイコールなんです。手応えはありますよ。たとえば健常の頃より左腕の力がなくてクラウチングスタートで出遅れたりもするんですけど、最後のホームストレートの粘りはまだ以前に戻っていないと思うし、もっと下半身を強化すれば記録は伸びると思います。まずは健常のときの自分を超えて、その先も記録をどんどん更新していきたいです」

 東京パラリンピックの金メダルと日本インカレ出場。苦境を力に変えたスプリンター・石田駆は、この両方を実現してスターへの階段を駆け上がろうとしている。

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著者プロフィール

1980年生まれ。制作会社で雑誌・広報紙などを手がけた後、フリーランスの編集者兼ライターに。2003年に見たブラインドサッカーに魅了され、04年アテネパラリンピックから本格的に障害者スポーツの取材を開始。10年のウィルチェアーラグビー世界選手権(カナダ)などを取材

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